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しおりを挟む* 元夫視点のため胸糞注意です。ざまぁ回ですが、最初に妻の最期の描写が入ります。残酷、流血、暴力、陵辱描写(男同士)、念のためグロ注意のR回です。
* 飛ばしても話がつながります。上記表現が苦手な方や、甘い雰囲気のまま読み終えたい方は迷わずこのまま閉じて次回軽く説明が入るのでそちらをご覧くださいませ。
******
最近の妻は、不妊治療がうまくいかず精神的に不安定だった。
だから、何もかも嫌になったのかもしれない。
赤信号で止まると、突然妻が車から飛び降りた。
その数秒後に右折車に跳ねられ、ドンッと車に衝撃が走った。
相手の車のスピードが出ていなかったからなのか、俺たちの車のボンネットの上にだらりと力の抜けた妻の体が投げ出されていた。
フロントガラスはひびが入り妻の血液で赤く染まった。
俺は情けないことにパニックに陥って鞄の中にスマホがあるはずなのに見つけることができなかった。
すぐに誰かが呼んだ救急車のサイレンが聞こえて、俺も外へ引っ張り出された。
妻は緊急手術の後、集中治療室へ入っている。
それが、俺がみんなへ説明している話だ。
警察からも、彼女や自分の両親から何度も何度も同じことを聞かれて、これが真実なのだと思うようになった。
あの光景は一生忘れることはないだろう。
もう何度も夢に見ている。
あれは廃車にする予定だし、しばらく運転しようとも思わない。
思い出しただけでじっとりと手のひらに汗をかく。
妻を車に乗せるまではうまくいっていた。
このまま行けば次期社長だし、足りないものは子どもくらい。
結婚五年経っても授からず、まずは妻が、それから二人で不妊治療を受けることになった。
あれから俺たちの夫婦関係は崩れた。
ヤるのは子作りのための義務。強制行為。
だんだんと妻と向き合うことが辛くなった。
だから息抜きに同じ職場の既婚女性と付き合い出した。
彼女は子供もいて、ピルも飲んでいたから遠慮なく中出ししては、『奥さんにあげなくて可哀想』なんて彼女が言って一緒に笑ってた。
とにかく会社の倉庫に、資料室、会議室と人気のない場所でスリルを楽しんだ。
彼女との関係はちょうど一年。
妻を迎えに行く車の中でことに及んだのはやり過ぎたと今さら思う。
あの事故でパニックになったのは本当だが、妻の口から俺の浮気を告げられたら大事になると思って、救急車を呼ぶのをためらった。
そんな俺は事故が起こってから仕事が終わると毎日まっすぐ病院へ向かう。
妻の状態はかなり悪い。
一命を取り留めた後三日ほどは落ち着いていたが、いつ危篤と言われてもおかしくなく、義母や義妹が日中は近くで待機していた。
もしも妻が植物人間になったら、献身的な夫を演じることができて社長になれるかもしれない。
だが、長く縛られるのも嫌だ。
このまま死んだら、俺は可哀想な夫として会社に残り、社長にはなれないかもしれないが、それなりに昇格すると思う。
それがいい。
入院五日目の今日も思う。
今夜こそ、妻の最期かもしれないと。
「待っていたよ。……話があるんだ」
社長である義父に別室へと呼ばれた。
義母は祈るように俯いていて、俺の方を見ない。
もしかしたら妻は今夜が峠かもしれないと思い、顔が緩みそうになって慌てて引き締める。
案内された部屋に入ると、知らない男が無言で座っていた。
義父は男を気にせず話し始める。
「匿名で君が社内の女性と不倫をしていると密告があってね」
「いえ、まさか。そんなことありません」
何もこのタイミングでと、ヒヤリとした。
もちろんそんなことを認めるわけがない。
彼女とはもう終わりだ。
「…………社内の防犯カメラにしっかり映っていたよ。それに、彼女はもう認めたし、異動することになった。訴えられたくなくて必死だったよ。……だけど、手違いでご主人の会社に防犯カメラの動画を送ってしまってね……ご主人を交えて話をしたけど、彼女は社員寮で心を入れ替えて仕事に打ち込むそうだ。……でも、まぁ、幼い子を残して離婚することになりそうだけどね。娘の人生をめちゃくちゃにしておいて、幸せになれるわけないのだけど」
義父にじっと睨まれて、俺はぞわりと背筋に冷たいものが走った。
一昨日も資料室で会ったが、今日は体調不良で仕事を休んでいた。
彼女はどこまで話した?
妻とした車内の喧嘩について彼女だけに漏らしている。
「それで……信じられないことを彼女が言った。……娘が事故に遭う直前にも車で会っていたと。……全部聞いたよ、喧嘩の内容も、すべて…………娘が精神を病んでいただなんてよく言えたな?……ずいぶん馬鹿にされたものだ……何か言いたいことはあるか?」
さっと血の気が引いた。
何か話したらボロが出るだけで、言葉が出ない。
「…………私は君を訴える、君から何もかも奪うつもりだ。そうしたところで元気な娘が帰ってくる訳でもない。到底許せるはずもないし一生許さない…どうして結婚を許してしまったのか……お前のようなクズと」
生きてきて初めて受ける強い憎しみに口の中がからからに渇く。
「…………すみ、ません……マンションを売ってくださって結構です……」
「ははっ、あれは娘の名義だよ。君のものではない。もちろん全てこちらで処分するがね……しかし、金がないと払えるものも払えないから、仕事は用意しておいたよ。一生償ってもらう」
「はい……」
義父が隣の男を見やる。
ずっと黙ったままだった男が口を開けた。
「では、このまま連れて行きます」
「あぁ、頼むよ。細く長く生かして稼がせてやってくれ」
細く長く……?
車に乗せられるとアイマスクを渡された。
「しばらくかかるから寝ているといい。休めるのは今のうちだ」
そう言われても大人しく眠れるわけがない。
きっと下請けの工場に連れて行かれるのだろう。
俺の人生は順風満帆だった。
妻があんなところで飛び降りなければ。
もっと言えばさっさと妊娠してくれればこんなことにはならなかったのに。
子宮筋腫のできた場所が悪い?
卵管が閉鎖?
妊娠しにくい妻が悪い。
精子の数が少なくて、動きが悪い?
無精子じゃないんだから、親の金でなんとかなっただろうに。
最初からもっと金を出してくれればよかったんだ。
連れてこられたのは古い工場に隣接された薄暗い建物で、小窓がついたただ寝るだけの三畳ほどの部屋。
「ここがお前の部屋な?……鍵はねぇから。服とか消耗品、食事も給料から天引きして配給される」
配給?いつの時代の話だよ。
「明日から工場で働いてもらう。裁判所に呼ばれる時くらいかな、敷地から出られるのは」
「そんなの、労働法に引っかかるはずだ!」
「……ここは、そんなの関係ねぇ。自分のしたことを考えろよ。……逃げようったって、見張りもいるし、ここは山に囲まれて猟犬を放し飼いにしているから諦めたほうがいい」
そう言って男は昏い笑みを浮かべた。
スマホも圏外で充電器もない。
それでもそのうち休みの日に荷物を取りに帰れるだろうと思っていた。
そして部屋に運ばれた質素な食事を食べた後は早々に布団に入った。
ここは地獄だ。
いきなり部屋に入って来た男達に体を押さえつけられ、ケツに男の竿をねじ込まれた。
焼けるような酷い痛みにやめろ、痛いと声を上げても男達は笑い、強引に腰を打ちつける。
それから涙を流す俺の髪を掴んで別の男が竿をしゃぶれと言った。
拒むと顔を殴られ、恐る恐る口を開けるといきなりがつんと喉奥を突かれて夕食をぶちまけた。
汚いと罵り、顔を蹴られ吐瀉物の上に俺のオーダーメイドのスーツを敷いて再度頭を押さえつけて行為を続け、飲めと強要する。
なんでこんな目に遭っているのか。
義父の憎しみに満ちた顔が浮かぶ。
後ろでえぐるように腰を振っていた男も射精して、ほっとする間も無く違う男が突っ込んできた。
痛いと泣き叫んでも誰も助けてくれない。
ただ笑って次の番を待っている。
狭い部屋に入れ替わり立ち替わり男がやって来て布団の上はぐちゃぐちゃでドロドロで意識を失いそうになると殴られ、起こされる。
ようやく解放されたものの、ほんの少しまどろんだだけで朝が来た。
昨日ここへ連れて来た男が俺を見て笑う。
「お前、さっそく洗礼を受けたな。……仕事の前に身綺麗にしろよ」
全身が痛い。臭い。
体液や血液がこびりついて汚い。
胃の中も気持ち悪い。
立ち上がると脚が震える。
壁をつたい、ケツの痛みに耐えて向かった公衆便所のような汚いシャワー室。
入ると奥の方で独り、男が丸くなって倒れていた。
のんびりついてきた男が後ろから声をかける。
「あぁ……、お前の仲間な?大事にしろよ?そうすりゃ、お互い分けて受け持てば楽になるからよ。……おいっ、よかったな。42!」
ひょろっとした男がゆっくりとうつろな目で俺を見た。
「あぁ、お前は49な。欠番が出たらその番号になるんだけどよ?49は入れ替わりが激しいが、社長に長生きさせろって言われてるからな……そうそう、お前、姉ちゃんと小学生の姪っ子、いたよな?お前に何かあると親族も同じ目に遭うから……まぁ、頑張れよ」
日中は長時間の単純作業。
夜になると男達が次から次へとやってくる。
休みはあってないようなものだ。
部屋にいたら犯されるから食事もせず空き部屋や林の中に隠れて眠る。
男たちに以前来た五歳の娘にどんなことをしたか語られた後では逃げる気にならない。
眠りについてもすぐにあの夜の事故を、フロントガラスに投げ出された血だらけの妻が俺の方を向いて許さないと手を伸ばす夢を繰り返し見ては冷や汗をかいて目を覚ました。
三ヶ月ほど経ったが給料は一度も受け取っていない。
落ちていた十円玉で、売店の脇の『全て記録してます』と貼り紙のついた公衆電話から実家に連絡したら、二度とかけてくるなと切られた。
裁判が待ち遠しいが、いつになっても呼び出されることがない。
ちゃんと裁かれたい。
妻はどうなったのだろう。
今思えば穏やかで控えめで優しい妻だった。
仕事を辞めてからは体調の悪い時でも居心地がいいように家を整えて、俺の好物を用意してくれていた。
刺激はなかったけれど、どうしてあの幸せがわからなかったのだろう。
それに気づいて妻を大事にしていれば、海の見える高層階の高級マンションで、次期社長として何不自由なく暮らせていたはずなのに。
そう考えて、己の浅はかさを嗤った。
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