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6(終)
しおりを挟む会場に二人揃って入ったために、注目されてしまった。
アンドレア様はとても綺麗だし、独身だから他の女性がちらちらと目を向けてくる。
彼は私を見つめているから気づいていないみたいだけど。
「レナ、踊ろう」
「はい。でも一度ニキアス兄様たちのもとへ」
「俺は先にレナと踊りたい。いや?」
「……いやじゃないです、けど」
「ほら、演奏が始まった」
軽やかな曲が流れ、私たちはそのままダンスホールへ。
アンドレア様はとても上手で、私も上手くなったみたいに感じる。
「アンドレア様、ダンスってとても楽しいんですね」
「そうかも。ね、三曲続けて踊ってもいい?」
「どう、でしょう……? だめかもしれません」
二曲続けて踊るのは恋人同士か婚約者か夫婦くらい。
みんなは私とアンドレア様が今日初めて会ったと思っているはず。
浮かれて軽はずみな行動をとってしまったかも。
「じゃあ、次はバルコニーで踊るとしよう。スローワルツがいいな」
優雅なスローワルツは身体を密着させて踊るから、一応習ったけれどパーティーで踊ったことはない。
恋の駆け引きに慣れた2人や、恋人同士のためのダンスだと思っている。
「それは……少し恥ずかしいですけど……」
ふと視線を感じて、アンドレア様の肩越しに従兄夫婦が私に目配せしているのがわかった。
「アンドレア様、従兄が私に話があるみたいです」
「わかった、この曲が終わったら送っていこう。俺も話したい」
リリーさんは私とアンドレア様が一緒にいるのを見て状況がわかったらしく、にこにこしている。
きっと私一人になったらからかってきそう。
逆に従兄は困惑していた。
「おそれながら、殿下はつがいがいると聞き及んでおります。確か四年ほど前に見つかったと」
「あぁ、そうだ。つがいが成人したから求婚にきた」
「求婚に、ですか」
そう言いながら従兄が私に視線を向ける。
「俺が四年前にこの国へ外交で来た時にレナと会っているんだ。ただ、彼女は未成年だったからつがいとも言わなかったし、求婚しなかった」
結婚させていたら大変なことになってたな、と従兄がつぶやいたのが聞こえたけど、リリーさんに足を踏まれたのか、黙ってしまった。
「レナが幸せなら、私は嬉しいわ。お受けしたのよね……? おめでとう」
寂しくなるけど、と瞳を潤ませるリリーさんに私はありがとうと返事する。
まだ発表していないけど、彼女のお腹の中には新しい命が芽生えていて、これからにぎやかになる。
「準備は整っているから1週間後に結婚式を挙げ、レナと新居へ向かおうと思う。いいかな、レナ?」
私は何も準備できていない。
でも、アンドレア様が心配しなくていいと、不安なことは全部言って欲しいだなんて言うから私は彼を信じることにした。
「はい、よろしくお願いします」
その後はブラウミュラー侯爵家自慢のワインをみんなに振る舞って祝うことになり、1週間で用意したとは思えないほどのパーティーを開いて私たちは結婚した。
豪奢なドレスを着て、国王陛下夫妻と王太子殿下、それから竜人族の国からアンドレア様のご兄弟もお祝いに駆けつけてくださった。
「両親は今日、国を離れるわけにいかなかったので、私たちから二人へお祝いの目録を持ってきた。おめでとう」
長い長い目録には宝石や品物だけでなく、城に船に島などもあった。
すべてが夢みたい。
「レナ、夢じゃないよ」
きゅっと手を握られて、また私の薬指を甘噛みする。
「どれだけ、守護と報復の重ねかけをする気だ? 私たちさえ彼女とダンスを踊れないじゃないか」
アンドレア様の弟殿下がそうこぼす。
甘噛みに意味があったのかと、彼を見上げると――。
「愛している、レナ」
口づけが落ちる。
うっとりとした瞳で見つめられて、訊きたいことを忘れてしまった。
「私も……愛してます」
「レナ、可愛い。これからはずっとそばで守るから」
アンドレア様はきっとその約束を守ってくれる。
だから細かいことは気にしない。
夫の手を指を絡めて握り直すと、はにかんだ笑みを浮かべた後、再び唇が重なった。
終
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お読みいただきありがとうございます。
この後はR18となりますので、大丈夫な方はおつきあいくださると嬉しいです。
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