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しおりを挟む「ほんとう、ですか……?」
「俺が竜人族の王子だということ? 花嫁として迎えたいということ? 全部本当だ」
彼は魔法を使えるし、特徴的な褐色の肌だし、均整のとれた身体も一度見たら忘れられない整った顔も竜人族、しかも王族と言われたら頷くしかない。
「竜人族はつがいと結婚するのでしょう? ひと目見たらわかるって。でも最初にそんなこと」
言われなかったし、小説のように求愛されなかったから私は違うんじゃないかって――。
「初めて会った時にわかったよ。でもレナは未成年だし、つがいだとか好きだとか言って怖がらせたくなかった」
あの時彼は二十歳の大人で、十四歳の子どもだった私とは六つも違う。
もし言われたら、からかわれたと思ったかも……?
でも。
「言われていたら……嬉しかったと、思います」
兄との生活は緊張して、楽なものではなかった。
「いつか、アンドレアさ、まが迎えに来てくれるって……指折り数えて待ったかもしれません」
アンドレアさん、じゃなくてアンドレア様と呼ばないと。
素直に気持ちを打ち明けてしまって、彼が顔を押さえて黙り込んだ。
今は私が十八歳になって、アンドレア様は二十四歳のはず。年齢のつり合いはとれているはずなのに、私は子どもっぽいことを言ってしまったかも。
「……困らせてごめんなさい」
「いや、まったく困ってない。むしろ……嬉しくて、いや、伝えなかったことに後悔してる……。レナも俺のことを好ましく思っていた? 求婚して、それから好きになってもらおうと思っていた」
アンドレア様の言葉に胸がいっぱいになる。
夢をみているみたい。
だけどもし、今も兄が生きていたら私は別の人と結婚して、存在を消すように静かに過ごしていたと思う。
私が考え事をして黙ってしまったからか、
「ごめん、竜人族は人間と違って寿命も長いし愛が重い。……聞いたことある?」
「はい」
貴族だとか平民だとか、そういうものもまったく関係なく花嫁に迎えるということも。
今の竜人族の国王が市場で働いていた虎獣人の少女とつがいになったことは有名で、竜人族のつがいに選ばられることを夢見ている少女は多い。
「浮気はしないし、レナの幸せをいつも考える。なるべく息苦しい思いはさせないから、俺と同じだけ時間を過ごしてほしい。第三王子といっても外遊でほとんど自国にいることはないから、そのままのレナでいてくれたら、十分……いや、ありのままのレナでいてほしい」
竜人族のつがいになると、同じように長命になると聞いている。
本当にずっと私といたいと思ってくれているのかな。
「あの……私、美人でもないですし、おもしろいことも言えませんし、取り柄もないしつまらないと思います。こんな私でも……本当に……?」
持参金は多少あるけど彼から見たら少額のはずだから、私に価値なんてほとんどないのに。
「目の前にいる俺のつがい、レナを花嫁として迎えたいんだ。初めて会った時も可愛いと思ったし、成長した今もとても綺麗だ。こうしていると一緒にいて幸せを感じるし、楽しい。ずっとそばにいたい。……レナは今のままで完璧だ」
アンドレアさんの視線はまっすぐで、本気みたい。
「あの……それは褒めすぎです。アンドレア様のほうがきれいですし、私を助けてくれました」
「そんなことはない。あぁ、こんなところで話し込むとは俺も無粋だな……レナ、会場へ戻ったらダンスしたい」
「はい。私でよければ」
「レナがいいんだよ。……行こう」
アンドレア様が私に腕を差し出したので、そっとひじに手をかけた。
温かくて、どきどきする。
「冷たくなってる」
私の手にアンドレア様の手が重なった。
「このまま結婚すると宣言してしまいたいくらいだ。こんなに早くつがいが見つかったのも幸運なのに、早々に宣言しては他の竜人族に妬まれてしまいそうだ」
百年経ってようやくつがいが見つかったなんて話も聞くから、珍しいことなのだと思う。
「……アンドレア様ったら……」
「国から結婚の申込み状は持ってきたし、レナに承諾してもらってからブラウミュラー侯爵に渡すつもりでいた」
「それは……」
竜人族からの求婚なら従兄も断れない。
先に従兄に渡して周りから固めることもできたのに、アンドレア様はそうしなかった。
やっぱり夢を見ているようでふわふわした気持ち。
「レナの意志で決めてほしかったんだ」
「……ありがとうございます。私……私で本当によかったら……」
「レナがいいんだ。一緒に幸せでいたいから」
「はい。よろしくお願いします。嬉しいです」
「…………」
アンドレア様が黙ってしまったので、そっと顔をのぞき見た。
「あのさ……あとでもう一度求婚し直すから。地龍みたいに気が長かったらこんな、雰囲気も、花もない、無様な申込みはしなかった」
「無様だなんて、そんなことありません。私、今も夢をみてるみたいです。アンドレア様はそのままで完璧ですから」
地龍はとても気が長いと言われているけど、それならアンドレア様は――。
「レナ……困ったな。俺が火龍だと言ったっけ? 俺が燃えてしまいそうだ。熱くないか?」
確かにアンドレア様の体温は高くて、手も熱い。
最初に触れた時より熱くなっているかも?
「温かくて気持ちいいです」
「…………レナ、ありがとう。ささやかだが婚約の品だ」
そう言って胸元から薄い小箱を取り出した。
私の手首に金色の宝石を散りばめた細い鎖のブレスレットをつけた後、手の甲に口づけを落とす。
「アンドレア様、ありがとうございます。大切にしますね」
「可愛いな、レナ……もっとたくさん贈りたいものがあるんだ」
アンドレア様は私の目を見つめながら、また薬指を甘噛みした。
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