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しおりを挟む第一王子派閥の中心人物として信頼されている兄のリヒャルトは、冷酷で陰湿な男で第三王子と第四王子を失脚させた。
今年二十九歳になるけれど、怒らせてはいけない男として貴族の中でも恐れられている。
しかも男をいたぶるのが趣味。
頭が良くカード好きで、負けた相手が支払いできないとわかると屋敷に連れ込む。
以前部屋の近くを通った時に鋭い音とくぐもった苦しそうな声が聞こえてきて、急いで部屋に戻ってベッドに潜り込んだ。
とにかく不気味で怖かったから。
兄はたくさんの鞭を集めているから、色々と試しているらしい。
別の日には兄の部屋へ女性が入って行くのを見かけて、恋人なのかと思ったのだけど……。
女性が朝食の時間に現れることはなかった。
侍女に聞いたら、顔をしかめつつも説明してくれて、夜は部屋から出ないように何度も念を押す。
高級娼館から呼ばれた女性で、朝日が昇る前に帰って行くらしい。
女性を鞭で打つことはないようだけど、いつもその場限りの女性がやってくるときいた。
翌日の兄はご機嫌で、鞭を扱う商人が出入りすることも。
二度以上同じ人を見たことがないのは、みんな兄との賭け事に懲りたからだと思う。
カードゲームなんてやらなければいいのに。
今夜も誰か可哀想な人が連れてこられたらしい。
侍女は支払い能力を超えるほどの賭け事をする方が悪いと言う。命をとられないだけまだ良いほうだとも。
「お兄様、お帰りなさいませ」
「レナ、まだ起きていたのか」
「はい」
「……部屋に戻っていなさい」
実の兄ながら私は彼のことが恐ろしかった。
十四歳も年上で、幼い頃に両親を亡くしたから親代わりでもあるのだけど、一緒に過ごしたことはほとんどない。
家庭教師や侍女のほうがよっぽど家族らしかったし、兄はいつも面倒くさそうに私をみて追い払う。
そんな兄の隣に立つ男はこの国では珍しく褐色の肌で、稲穂のように明るく黄金色に輝く髪を持ち、絵画から抜け出したのかと思うほど綺麗な顔立ち。
足元が少しふらついたようにみえたから、お酒が入って酔っ払っているのかもしれない。
兄と比べても細く、まだ成人したかどうか。
私の視線を感じたのか、ぼんやりした男の黄金色の瞳と視線が絡んで息をのんだ。
顔を覚えられてしまうのはよくないのに、彼から目が離せない。
「…………」
多分彼は何もわかっていなくて、私はこの後彼が痛めつけられるのを知っている。
「まだ何か用があるのか?」
「いえ……はい、あの、お兄様のお好きな新酒が領地から届きました。……その、まだ瓶に詰め替えているところなので少量ですが部屋に届いています……では、おやすみなさいませ」
兄が新酒を飲んでいい気分になって、彼のことを痛めつけすぎませんように。
酔って力加減を間違えませんように。
「それはいい知らせだな。さぁ、早く戻りなさい」
ニヤリと笑ったものの、冷たい眼差しに背筋がひやりとして頭を下げた。
「では、失礼します」
どうか彼が無事でありますように。
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