お前はクズヒーローのはずだよな?[改稿版]

能登原あめ

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9 森の中の洋館へ② 

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「……残念だが、ここには一泊だけなんだ。明日は海辺の街に向かうが、この宿に泊まるとみな幸運がやってくるらしい。何年も先まで予約がうまっていたが、運がよかったよ。……俺と永遠の幸せを手に入れよう」
「……ウン」

 ジェラルドが部屋の中を案内しながらそんなことを言う。
 広いけどやっぱり薄暗いリビングに真っ赤な絨毯の食堂、トイレとバスルームにテラス。

 それと、たくさんの人形が飾られたプレイルーム? 
 いーや、子供が見たら大泣きするレベルだぞ!
 これって座敷童子が出る旅館みたいなイメージかもしれない。
 滞在中は扉を閉めておこう……。

「こっちへおいで」

 部屋のすみに下り階段がある。
 薄ぼんやりとろうそくの明かりがあるだけで、足がすくんだ。

 これやばいやつ!
 無理! なんかいる‼︎
 霊感ないけどわかるんだ。

「俺が一緒なんだから心配するな。冒険みたいでわくわくするだろ?」

 ジェラルドが本当に楽しそうで、ご機嫌で、めっちゃくっちゃ優しい。
 わくわくなんてまったくしないけど、俺のこと考えて連れてきてくれたんだよなぁ……。

 よし、覚悟を決めよう。
 一晩だけだしッ。
 一人じゃないし!

「わかった。今日は夜中明るくして過ごしたいな~」

 ごくりとつばを飲んで、ジェラルドの腕にしがみついた。

「わかった。今日はずいぶん、甘えん坊だな」
「だって……」

 怖くて寒気がするんだよ!

「言わなくていい。俺も同じ気持ちだ。……夕食の後まで我慢するつもりだったが、無理かもしれない。ウィルフレッドに触れたいんだ」

 ジェラルド、顔に出てないけど怖いと思ってた⁉︎
 そっか、怖いから俺に触れていたいのか……!
 
「夕食持ってきてくれるんでしょ? そういうことしてたら恥ずかしいよ」
「続き部屋の食堂に並べてくれるから、心配ない」

 あぁ、そっか。それで食堂と廊下をつなぐ扉があったんだ。
 食堂とリビングの間の扉はこっちに入れないように鍵がついていたなぁ。
 それなら、おっきな声出さなきゃ大丈夫だね!

「寝室は階段を降りた先のはずだよ」

 さすがプライベートが分けられてる!
 それにベッドでくっついていたら嫌なこと考えなくてすむし。 

 暗い。
 足音が響く。
 二人分だよね……遅れて足音が聞こえるけど、振り向いても誰もいない。
 ちょっとしたことが全部怖いんだ!
 どこからかザーザー音がする。

「近くに川があるのかなぁ?」
「……いや、違うだろう」

 階段を降りると水が流れる音がして二人でそっとのぞく。
 想像通りでよかった……!

「こっちに岩風呂がある。いつでも入れるらしい……一緒に入るか?」
「うん。荷物置いたら一緒に入ろう。大きいし」

 それに怖いし!
 やっぱり暗くて、殺風景。
 あったかいはずなのにひんやりしてるのなんで?
 元は牢獄だったとかじゃないよね。
 まさかね。

 背筋がゾクッとする。
 万一シャンプーしている間に見ちゃいけないものが出てきたら怖いから、絶対一緒!
 ジェラルドも怖いらしいし。
 顔に出さないで我慢するとか可愛い奴だ。

「ちょっとね、ちょっとだけ、この洋館怖かったんだ。だけどずっと一緒なら怖くないよね」
「あぁ、そうだな」

 俺が先に弱音を吐き出したら、ジェラルドも頷いて認めたんだ。だよな。
 よーし、ここからは盛り上げるかな!
 いい思い出を作りたい。

 俺は閉ざされた寝室の重~い扉を勢いよく開けた。

「うわぁ~……!」

 いい部屋だねって言いたかったんだけど。

「すごい! 人形がいっぱいだねえぇぇ~」

 なにこれ怖い!
 ベッドを囲むように大量の人形が並べられている。
 え~? 落ち着かないよ、これ。
 涙目になっちゃう。
 さすがにジェラルドも震えているんじゃ……。

「よかったな、ウィルフレッド。これだけ見つめられたら怖くないな。明かりをつけたまま二人でいたら、眠っている暇もなさそうだ」

 ほぇ⁉︎ 嘘でしょ?
 この中でするの⁇


 
 

 
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