19 / 20
⑵
9 森の中の洋館へ②
しおりを挟む「……残念だが、ここには一泊だけなんだ。明日は海辺の街に向かうが、この宿に泊まるとみな幸運がやってくるらしい。何年も先まで予約がうまっていたが、運がよかったよ。……俺と永遠の幸せを手に入れよう」
「……ウン」
ジェラルドが部屋の中を案内しながらそんなことを言う。
広いけどやっぱり薄暗いリビングに真っ赤な絨毯の食堂、トイレとバスルームにテラス。
それと、たくさんの人形が飾られたプレイルーム?
いーや、子供が見たら大泣きするレベルだぞ!
これって座敷童子が出る旅館みたいなイメージかもしれない。
滞在中は扉を閉めておこう……。
「こっちへおいで」
部屋のすみに下り階段がある。
薄ぼんやりとろうそくの明かりがあるだけで、足がすくんだ。
これやばいやつ!
無理! なんかいる‼︎
霊感ないけどわかるんだ。
「俺が一緒なんだから心配するな。冒険みたいでわくわくするだろ?」
ジェラルドが本当に楽しそうで、ご機嫌で、めっちゃくっちゃ優しい。
わくわくなんてまったくしないけど、俺のこと考えて連れてきてくれたんだよなぁ……。
よし、覚悟を決めよう。
一晩だけだしッ。
一人じゃないし!
「わかった。今日は夜中明るくして過ごしたいな~」
ごくりとつばを飲んで、ジェラルドの腕にしがみついた。
「わかった。今日はずいぶん、甘えん坊だな」
「だって……」
怖くて寒気がするんだよ!
「言わなくていい。俺も同じ気持ちだ。……夕食の後まで我慢するつもりだったが、無理かもしれない。ウィルフレッドに触れたいんだ」
ジェラルド、顔に出てないけど怖いと思ってた⁉︎
そっか、怖いから俺に触れていたいのか……!
「夕食持ってきてくれるんでしょ? そういうことしてたら恥ずかしいよ」
「続き部屋の食堂に並べてくれるから、心配ない」
あぁ、そっか。それで食堂と廊下をつなぐ扉があったんだ。
食堂とリビングの間の扉はこっちに入れないように鍵がついていたなぁ。
それなら、おっきな声出さなきゃ大丈夫だね!
「寝室は階段を降りた先のはずだよ」
さすがプライベートが分けられてる!
それにベッドでくっついていたら嫌なこと考えなくてすむし。
暗い。
足音が響く。
二人分だよね……遅れて足音が聞こえるけど、振り向いても誰もいない。
ちょっとしたことが全部怖いんだ!
どこからかザーザー音がする。
「近くに川があるのかなぁ?」
「……いや、違うだろう」
階段を降りると水が流れる音がして二人でそっとのぞく。
想像通りでよかった……!
「こっちに岩風呂がある。いつでも入れるらしい……一緒に入るか?」
「うん。荷物置いたら一緒に入ろう。大きいし」
それに怖いし!
やっぱり暗くて、殺風景。
あったかいはずなのにひんやりしてるのなんで?
元は牢獄だったとかじゃないよね。
まさかね。
背筋がゾクッとする。
万一シャンプーしている間に見ちゃいけないものが出てきたら怖いから、絶対一緒!
ジェラルドも怖いらしいし。
顔に出さないで我慢するとか可愛い奴だ。
「ちょっとね、ちょっとだけ、この洋館怖かったんだ。だけどずっと一緒なら怖くないよね」
「あぁ、そうだな」
俺が先に弱音を吐き出したら、ジェラルドも頷いて認めたんだ。だよな。
よーし、ここからは盛り上げるかな!
いい思い出を作りたい。
俺は閉ざされた寝室の重~い扉を勢いよく開けた。
「うわぁ~……!」
いい部屋だねって言いたかったんだけど。
「すごい! 人形がいっぱいだねえぇぇ~」
なにこれ怖い!
ベッドを囲むように大量の人形が並べられている。
え~? 落ち着かないよ、これ。
涙目になっちゃう。
さすがにジェラルドも震えているんじゃ……。
「よかったな、ウィルフレッド。これだけ見つめられたら怖くないな。明かりをつけたまま二人でいたら、眠っている暇もなさそうだ」
ほぇ⁉︎ 嘘でしょ?
この中でするの⁇
2
お気に入りに追加
413
あなたにおすすめの小説
【完結】もう…我慢しなくても良いですよね?
アノマロカリス
ファンタジー
マーテルリア・フローレンス公爵令嬢は、幼い頃から自国の第一王子との婚約が決まっていて幼少の頃から厳しい教育を施されていた。
泣き言は許されず、笑みを浮かべる事も許されず、お茶会にすら参加させて貰えずに常に完璧な淑女を求められて教育をされて来た。
16歳の成人の義を過ぎてから王子との婚約発表の場で、事あろうことか王子は聖女に選ばれたという男爵令嬢を連れて来て私との婚約を破棄して、男爵令嬢と婚約する事を選んだ。
マーテルリアの幼少からの血の滲むような努力は、一瞬で崩壊してしまった。
あぁ、今迄の苦労は一体なんの為に…
もう…我慢しなくても良いですよね?
この物語は、「虐げられる生活を曽祖母の秘術でざまぁして差し上げますわ!」の続編です。
前作の登場人物達も多数登場する予定です。
マーテルリアのイラストを変更致しました。
記憶喪失になった嫌われ悪女は心を入れ替える事にした
結城芙由奈@コミカライズ発売中
ファンタジー
池で溺れて死にかけた私は意識を取り戻した時、全ての記憶を失っていた。それと同時に自分が周囲の人々から陰で悪女と呼ばれ、嫌われている事を知る。どうせ記憶喪失になったなら今から心を入れ替えて生きていこう。そして私はさらに衝撃の事実を知る事になる―。
乙女ゲームが俺のせいでバグだらけになった件について
はかまる
BL
異世界転生配属係の神様に間違えて何の関係もない乙女ゲームの悪役令状ポジションに転生させられた元男子高校生が、世界がバグだらけになった世界で頑張る話。
【短編】乙女ゲームの攻略対象者に転生した俺の、意外な結末。
桜月夜
BL
前世で妹がハマってた乙女ゲームに転生したイリウスは、自分が前世の記憶を思い出したことを幼馴染みで専属騎士のディールに打ち明けた。そこから、なぜか婚約者に対する恋愛感情の有無を聞かれ……。
思い付いた話を一気に書いたので、不自然な箇所があるかもしれませんが、広い心でお読みください。
すべてを奪われた英雄は、
さいはて旅行社
BL
アスア王国の英雄ザット・ノーレンは仲間たちにすべてを奪われた。
隣国の神聖国グルシアの魔物大量発生でダンジョンに潜りラスボスの魔物も討伐できたが、そこで仲間に裏切られ黒い短剣で刺されてしまう。
それでも生き延びてダンジョンから生還したザット・ノーレンは神聖国グルシアで、王子と呼ばれる少年とその世話役のヴィンセントに出会う。
すべてを奪われた英雄が、自分や仲間だった者、これから出会う人々に向き合っていく物語。
君に望むは僕の弔辞
爺誤
BL
僕は生まれつき身体が弱かった。父の期待に応えられなかった僕は屋敷のなかで打ち捨てられて、早く死んでしまいたいばかりだった。姉の成人で賑わう屋敷のなか、鍵のかけられた部屋で悲しみに押しつぶされかけた僕は、迷い込んだ客人に外に出してもらった。そこで自分の可能性を知り、希望を抱いた……。
全9話
匂わせBL(エ◻︎なし)。死ネタ注意
表紙はあいえだ様!!
小説家になろうにも投稿

侯爵令息セドリックの憂鬱な日
めちゅう
BL
第二王子の婚約者候補侯爵令息セドリック・グランツはある日王子の婚約者が決定した事を聞いてしまう。しかし先に王子からお呼びがかかったのはもう一人の候補だった。候補落ちを確信し泣き腫らした次の日は憂鬱な気分で幕を開ける———
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
初投稿で拙い文章ですが楽しんでいただけますと幸いです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる