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14 ウェディングケーキ(ラファエル視点)

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 この国の結婚式の定番の菓子は、小さなシュークリームにカラメルをくぐらせて塔のように高く積むクロカンブッシュが主流だ。
 おいしいが、茶色くてちょっと地味。

 やはり前世日本人の俺は、会場で見栄えのする三段のケーキを用意することにした。
 招待客はお互いに呼びたい相手だけだから、思う存分食べてもらいたい。

 ジェノワーズスポンジケーキにはたっぷりのイチゴをはさみ、生クリームでおおった。この日のために特別に作らせた星口金を使ってきれいに絞り出し、上にもイチゴを飾る。   
 
 贅沢にイチゴを使ったデコレーションケーキ。
 この日のために最上級の生クリームと新鮮なイチゴを探し求めて用意した。

 世界中を飛び回る両親とは鳩で連絡を取り合って結婚を認めてもらった。
 当日クリステルと会えるのを楽しみにしているが、間に合わなかったらごめんと手紙にある。

 竜人族は新郎新婦さえ揃っていれば問題ないらしい。自由なのは両親だけじゃなかった。
 結局、結婚式に間に合ったから十分と思う。
 
 ウェディングケーキは俺たち2人だけのためにもう一つ用意していて、ドライフルーツをたくさん使ったバターケーキにマジパンを薄く伸ばしてかけ、さらにシュガーペーストをかけてアイシングで装飾した。
 薔薇の花細工を飾ることも忘れない。

 これも半年前よりコツコツ準備している。
 いや、洋酒に漬けたドライフルーツは出会ってすぐに仕込んだものだから、もっと前から準備していたといえるかも?

 いわゆるシュガークラフトと呼ばれるものだが、とても日持ちがする。
 熟成させるととてもおいしく、マジパンがケーキ生地と馴染んで一体化するのだ。
 
 毎年結婚記念日に薄くスライスして食べていると修業先のパティシエから聞いて、ぜひやってみたかった。

 普段は何重にも包んで冷凍庫に入れて保管していると聞いたから、こちらでは長く持たないかもしれない。
 それでも結婚記念日に思い出が残る。

 今夜、一緒に部屋に戻ったらクリステルに見せよう。
 食べるのは1年後……いや、味の変化も楽しみつつ、3ヶ月、半年祝いをしてもいいかもしれない。

「真っ白のケーキに真っ赤なイチゴ……新婦のドレスと同じでなにものにも染まっていない清らかさと、新郎のこぼれ落ちそうなほどの愛が伝わってくるな……王都でもこれから流行りそうだ」

 お忍びでやって来た陛下が、ケーキを見てそんなことを言う。
 気恥ずかしくなるからやめてほしい。
 だいたい合っているし。

「早く食べてお帰り下さい」
「せっかく祝いにやって来たのに、失礼だな。花嫁選び、手伝ったのに」

 婚約発表の日は癖のある奴らを同じテーブルにして、きっとどこかで盗み見て笑っていたと思うんだけどな。

「ええ、まぁ、はい。おかげさまで最愛の人と結婚することができました」

 教会で滞りなく式を挙げ、めでたく夫婦になった。
 これでもう乙女だのBLだの関係ない。
 俺にとってはハッピーなトゥルーエンド。
 いや、まだ始まったばかりだけど。

「おめでとう。これからは妻君を連れて王都に遊びに来るといい。あの離宮はいつでも使っていいから」

 男の隠れ家のような離宮は、料理好きな先代の陛下が好んで使っていたそうで俺も大きなオーブンがあるところを気に入っている。
 しかも、王都にあるエルファレス公爵家の屋敷よりも邪魔が入らない。
 
 菓子作りは今後もおおやけにするつもりもないし、王都滞在中は離宮で作ったらクリステルが喜ぶだろう。
 彼女と想いが通じた場所だし、悪くない、かもしれない。

「ありがとうございます」
「いや、時々おしゃべりに付き合ってくれればいい」
「……わかりました」

 そう言われると思ったから、すんなり頷く。きっとおしゃべりは息抜きになるんだろうな。

「ラファエル……変わったな。ほら、結婚っていいものだとすぐわかるよ」

 俺の肩を叩き、彼女の元へ戻るように言われた。







「クリステル」

 女学院時代の友人とおしゃべりしていた彼女に声をかけて輪から連れ出す。

「……邪魔した?」
「いえ、大丈夫です」

 少し頬が赤いから、どんな話をしていたのか気になるところ。
 今日のクリステルは乳白色のふんわりしたウェディングドレスと、俺の瞳の色に近い、サファイアのネックレスを身につけている。

「どんな話をしていた?」
「サファイアの意味が……その、一途な想いだと聞いて……私の心そのままだって、思ったら少し恥ずかしくなって」

「俺の気持ちと思ってプレゼントしたんだ」
「ラファエル様の?」

 なぜか目をぱちくりさせる。

「そうだよ……クリステルも同じように思ってもらえるのはすごく嬉しい」

 両想いなのが、今でもくすぐったくて、嬉しくて胸が温かくなる。
 彼女の手をとり、指先に口づけを落とした。それを見てますます赤くなってつぶやく。

「私、勘違いしたんですね。ラファエル様の瞳と同じきれいな青色だから選んだと思っていたんです。さっき友人が宝石の意味を教えてくれて……ラファエル様が私の心を見抜いてプレゼントしてくれたと思いました」

 可愛い勘違いに、口元が緩む。

「それならお互いに一途に想っていられるよう、今度は別のカタチで贈ろう」
「ラファエル様……今はつけてませんけど、ピアスも指輪もいただきました」
「それなら髪飾りや、ブローチにしようか」

 生花の飾られたクリステルの髪にそっと触れる。
 いつも可愛いけれど、今の少し困った顔も可愛い。

「ラファエル様」
「なに?」
「少し、近すぎます」
「……いやだった?」
「いやじゃありません。ドキドキするので今はもう少し……」
 
 あまり可愛いことを言うと、後でお互いに困ったことになるんだけど。
 でも今は彼女の言う通りかもしれない。
 
「んー……わかった。ウェディングケーキを食べよう」
「はい! すごく楽しみにしていました! あんなに大きいなんて思わなくて」

 我慢しないって言っていたからクリステルの分は俺のものより大きく切ってもらう。
 嬉しそうな笑顔を向けられて、俺も自然とほほ笑んだ。

「……ラファエル様、笑っています」
「そうか。ファーストバイト」
「ふぁーすとばいと? 竜人語ですか?」
「うん。ケーキをカットしたら、お互いに食べさせ合う、夫婦円満の儀式? 一生おいしいケーキを作るよ。まずはクリステルが先に食べて」

 ケーキを一口すくって戸惑う彼女の口元へ。

「次はラファエル様ですよ」
「クリステルが食べさせてくれる?」
「はい……儀式なら、やります」

 想像して赤くなったらしい。

「可愛い」
「……そんなことを言うのはラファエル様だけです」
「みんなの見る目がないのか、気づくのが遅いのか。……クリステルはすごく可愛い」
「ラファエル様……あの。周りが、驚いていますから……」

 そんなのどうでもいい。
 だって俺たちの結婚式だから。

「ほら、落ちてしまうから」
「……!」

 ほんの少しタイミングがずれて、クリームが口の端についてしまった。
 わざとではない。

「ごめん」

 そっと唇を寄せて、そのままキスしてしまったけど。
 わざとじゃない、吸い寄せられたんだから。

「クリステル、息を止めない」

 可愛すぎてしかたない。
 周りも少しは静かにしてくれたらいいのに。

「……ら、ラファエルさまっ⁉︎」
「なに? いちごショートの味はどう?」
「……おいしいです」
「よかった、さぁ、もう一口」

 イチゴみたいに真っ赤になったクリステルを見つめながら、早く2人きりになりたいと思った。
 
 

 

 
 



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