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駆け落ちした君を大切にできなかった俺は逆行後改心したけど彼女が見つからない ②
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* 文字数増えたので全3話となりました。ごめんなさい。明日終わります。
******
リタと出会うために何度も夜会に顔を出すものの、逆行してからはバルコニーに彼女が現れることがなかった。
彼女と出会った日づけなど覚えていないが、春から夏にかけての過ごしやすい夜だったはず。
でも今、その季節を越えている。
まさか、ここは彼女のいない世界なのだろうか?
自分だけ時間が戻っているのか?
いつも同じドレスで壁の花となっていた十七歳の少女の姿はない。
賭け事に誘う仲間や、流し目で誘うこれまでつき合いのあったご婦人たちをのらりくらりと交わしながら、ウォーカー家、そしてリタの情報を仕入れる。
「ヴィア・ウォーカーがパテル侯爵の子息と婚約するのですって」
「まぁ、ディー様と? それは美男美女ね……それでウォーカー子爵夫人がとてもご機嫌なのね」
「……そういえば、確かウォーカー家にはもう一人、娘が……」
「しぃーーっ。……先妻の子どもだから領地にいて社交界にデビューしていないのよ……体が弱いというのだけどね。本当のところはどうなのかしらね……?」
「あぁ、なるほどね……実の娘のほうが夫人にとって可愛いですもの。それに跡継ぎも夫人が産んでますものね」
「ウォーカー子爵はどうするつもりなのかしら……」
「そうねぇ……きっと修道院にでも入れるとか……? だってデビューもしてないのだもの!」
「違うわよ、女家庭教師に仕立てるんだと思うわ」
「あらいやだ。修道院へ納める寄付金も渋って働かせると言うの? 子爵夫人なら言いそうね……ふふっ……」
「そのうちウォーカー家の紹介状を持って王都へやって来るかもしれないわね。でもデビューしないなら貴族より商家向けよねぇ。ほほほっ……」
胸がむかむかするほど不愉快な話が聞こえたが、彼女がこの世界に存在してくれて嬉しい。
やはりダックスが領地で過ごしたように、リタも違う時を過ごしていたようだ。
なぜこうなっているかよくわからないが、時間が戻ったことなど誰一人気づいていない。
リタはきっと覚えていないのだろう。
憶えていたら、無理をしてでも王都に会いにきたはず。
記憶がなくてもこれから顔を合わせるうちに愛してくれるはずだ。
ダックスはこっそり迎えにいくことにした。
ダックスは有り金全部と屋敷から金目のものを持ち出し、家族にはしばらく友人のもとへ行くと置き手紙をしてウォーカー家の領地へ向かった。
しばらく大人しくしていたから、家族も少しは信頼してれているだろう。
宿屋に泊まってリタと親交を深めて、愛し合うようになったら一緒にハグランド伯爵家の領地に来てもらいたい。
乗合馬車を使い時間をかけてウォーカー子爵家の領地に入り、ようやく会えると心を弾ませていたのだが――。
「リタお嬢様がいない!」
「リタお嬢様をみつけたら金貨一枚!」
ウォーカー子爵家の領地ではリタが行方不明になっていて、子爵が彼女を探す御触れを出していて驚いた。
一人で消えるわけがないと思ったが、侍女は連れていなかったという。
領内では快活に過ごす姿がみられていたらしい。
やはり病弱ではなく、逃げたのだとしたら理由があるはずだ。
「ウィリアムズ男爵との縁談が整うところだったそうだよ……」
「ウィリアムズ男爵? ずいぶん歳が離れているな。貴族は大変だよな、おじいちゃんといってもいい歳じゃないか?」
「あぁ、隣の領地だから関係を固めたかったのかもしれないなぁ……しかし何度も結婚を繰り返しているお方だ。逃げるのもわからなくもないが、リタお嬢様らしくない気もするね」
「確かになぁ。領地のことをよく見ている方だったから……やっぱり男か?」
「……お前もそう思うか? それなら、探さないほうがいいかもなぁ。お嬢様に幸せになってほしい」
「まあねぇ。でも、金は欲しい。誰か俺の代わりに追いかけてくれやしないかな……金貨は半分ずつにしてもかなりの間遊べるだろう?」
その声を聞いてダックスは名乗りを上げた。
彼女の昔からの友人だと言って。
男たちはお互いの顔を見合わせてしばらく渋っていたが、多分船に乗ったと思うと答えた。
「しかし、どこにいるかもわからないのに本当に追いかけるのかい?」
「はい。彼女が幸せならそのままでいいのですが、そうでなければ……」
ダックスには、リタが一緒に暮らしたあの国にいるような気がした。
(もしかしたら、彼女はあの国で俺を待っているのかもしれない)
念のため、ウォーカー子爵家の領地でもう少し情報を集めることにした。
誰かにかくまわれているのかもしれないし、リタの性格を考えたら修道院の可能性だって否定できない。
しかしダックスは最初に聞いた話より信憑性の高い話を聞くことはできなかった。
半月ほど無駄な時間を過ごしてしまったが、納得できたからいいのだろう。
ますます一緒に過ごしたあの土地にいる気がしてくる。
ダックスは船に乗り、懐かしくも悲しい思い出の土地へと向かった。
*
懐かしい、潮の匂いがする。
前回同様三月ほどかけてやって来た。
船酔いに苦しめられたが、今の気分はすっきりしている。
リタはこの国にいる、ダックスはそう感じて歩いた。
まずは彼女の墓標がないことを確認するために共同墓地のある小高い丘へと登る。
「よかった……」
そこに彼女の墓はなかった。
ダックスにとってはそう昔のことではない。足が震えていたことに気づいて何度が腿を叩いて、再び丘を下る。
それから一緒に住んでいた小さなアパートがあるか確かめることにした。
一階で日当たりだけはよい部屋。最初の頃は狭い中、リタが請け負った布や小物に囲まれるようにして、身を寄せ合い暮らしたものだ。
子どもが生まれてからはそういうわけにはいかなかったが……。
アパートはそのままの形で建っていて、昔住んでいた部屋にはとても小さな子どもの物を含む家族の洗濯物がかかっていた。
どうやら今もどこかの家族が住んでいるらしい。
考えてみればあの時、この部屋にたどり着いたのは冬になる前だっただろうか。ろくに暖房設備のない部屋で、日差しだけが頼りだった。
ぼんやりと眺めていると、その部屋の窓が開き、部屋の住人が洗濯物に手を伸ばす。
思わずダックスは物陰に隠れた。
(リタ……? どうしてここに……)
子どもの弱々しい泣き声が聞こえて、中でそれをあやすような男の声もする。
「トミーのおしめが乾いたわ。クリス、すぐ行くから」
間違いなくリタの声で、幸せそうな明るい笑み。
ダックスといた時とはまったく違う明るい晴れやかな表情だった。
一体何が起こっているんだろうか。
ウォーカー子爵の領地でリタに子どもがいたなどという話はなかった。
もしかして子守の仕事として雇われたのかもしれない。
ではクリスという男は一体誰だ――?
雇い主か?
そうであってほしい。
今見ているものをそのまま受け止めることができない。
ダックスは毎日こっそりアパートの様子をのぞきに行った。
声も姿もリタに間違いがなく、産まれてそれほど経っていないような子どもの顔も彼女にそっくりで――。
ダックスと出会うはずの社交界のシーズンが始まる頃には相手と関係を持っていたということだろうか。いや、もう考えたくない。
彼女に触れていいのはダックスだけのはずで……。
(受け入れたくない。見たくないのに間違いじゃないかと見に来てしまう)
窓辺に立つ優男は彼女と子どもを抱きしめそっと口づけた。彼らはどこから見ても家族で、とても幸せそうだった。
それから、とても暑い日にはたらいに水を入れて、子どもを綺麗にした後で大人はそこに足をつける。
少ししどけない姿のリタはとても色っぽかった。
それにとても親密な雰囲気で二人の仲は固く結ばれているように見える。
とても入る隙などなく、ダックスは幸せそうな様子を見つめるだけで話しかけることもできない。
(俺たちはどうして今回出会うことがなかったんだろう。そこにいるのは俺のはずだったのに……)
リタとそんな時間を過ごしたことなどなかったダックスは、青い顔をして一人宿屋へ戻った。
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リタと出会うために何度も夜会に顔を出すものの、逆行してからはバルコニーに彼女が現れることがなかった。
彼女と出会った日づけなど覚えていないが、春から夏にかけての過ごしやすい夜だったはず。
でも今、その季節を越えている。
まさか、ここは彼女のいない世界なのだろうか?
自分だけ時間が戻っているのか?
いつも同じドレスで壁の花となっていた十七歳の少女の姿はない。
賭け事に誘う仲間や、流し目で誘うこれまでつき合いのあったご婦人たちをのらりくらりと交わしながら、ウォーカー家、そしてリタの情報を仕入れる。
「ヴィア・ウォーカーがパテル侯爵の子息と婚約するのですって」
「まぁ、ディー様と? それは美男美女ね……それでウォーカー子爵夫人がとてもご機嫌なのね」
「……そういえば、確かウォーカー家にはもう一人、娘が……」
「しぃーーっ。……先妻の子どもだから領地にいて社交界にデビューしていないのよ……体が弱いというのだけどね。本当のところはどうなのかしらね……?」
「あぁ、なるほどね……実の娘のほうが夫人にとって可愛いですもの。それに跡継ぎも夫人が産んでますものね」
「ウォーカー子爵はどうするつもりなのかしら……」
「そうねぇ……きっと修道院にでも入れるとか……? だってデビューもしてないのだもの!」
「違うわよ、女家庭教師に仕立てるんだと思うわ」
「あらいやだ。修道院へ納める寄付金も渋って働かせると言うの? 子爵夫人なら言いそうね……ふふっ……」
「そのうちウォーカー家の紹介状を持って王都へやって来るかもしれないわね。でもデビューしないなら貴族より商家向けよねぇ。ほほほっ……」
胸がむかむかするほど不愉快な話が聞こえたが、彼女がこの世界に存在してくれて嬉しい。
やはりダックスが領地で過ごしたように、リタも違う時を過ごしていたようだ。
なぜこうなっているかよくわからないが、時間が戻ったことなど誰一人気づいていない。
リタはきっと覚えていないのだろう。
憶えていたら、無理をしてでも王都に会いにきたはず。
記憶がなくてもこれから顔を合わせるうちに愛してくれるはずだ。
ダックスはこっそり迎えにいくことにした。
ダックスは有り金全部と屋敷から金目のものを持ち出し、家族にはしばらく友人のもとへ行くと置き手紙をしてウォーカー家の領地へ向かった。
しばらく大人しくしていたから、家族も少しは信頼してれているだろう。
宿屋に泊まってリタと親交を深めて、愛し合うようになったら一緒にハグランド伯爵家の領地に来てもらいたい。
乗合馬車を使い時間をかけてウォーカー子爵家の領地に入り、ようやく会えると心を弾ませていたのだが――。
「リタお嬢様がいない!」
「リタお嬢様をみつけたら金貨一枚!」
ウォーカー子爵家の領地ではリタが行方不明になっていて、子爵が彼女を探す御触れを出していて驚いた。
一人で消えるわけがないと思ったが、侍女は連れていなかったという。
領内では快活に過ごす姿がみられていたらしい。
やはり病弱ではなく、逃げたのだとしたら理由があるはずだ。
「ウィリアムズ男爵との縁談が整うところだったそうだよ……」
「ウィリアムズ男爵? ずいぶん歳が離れているな。貴族は大変だよな、おじいちゃんといってもいい歳じゃないか?」
「あぁ、隣の領地だから関係を固めたかったのかもしれないなぁ……しかし何度も結婚を繰り返しているお方だ。逃げるのもわからなくもないが、リタお嬢様らしくない気もするね」
「確かになぁ。領地のことをよく見ている方だったから……やっぱり男か?」
「……お前もそう思うか? それなら、探さないほうがいいかもなぁ。お嬢様に幸せになってほしい」
「まあねぇ。でも、金は欲しい。誰か俺の代わりに追いかけてくれやしないかな……金貨は半分ずつにしてもかなりの間遊べるだろう?」
その声を聞いてダックスは名乗りを上げた。
彼女の昔からの友人だと言って。
男たちはお互いの顔を見合わせてしばらく渋っていたが、多分船に乗ったと思うと答えた。
「しかし、どこにいるかもわからないのに本当に追いかけるのかい?」
「はい。彼女が幸せならそのままでいいのですが、そうでなければ……」
ダックスには、リタが一緒に暮らしたあの国にいるような気がした。
(もしかしたら、彼女はあの国で俺を待っているのかもしれない)
念のため、ウォーカー子爵家の領地でもう少し情報を集めることにした。
誰かにかくまわれているのかもしれないし、リタの性格を考えたら修道院の可能性だって否定できない。
しかしダックスは最初に聞いた話より信憑性の高い話を聞くことはできなかった。
半月ほど無駄な時間を過ごしてしまったが、納得できたからいいのだろう。
ますます一緒に過ごしたあの土地にいる気がしてくる。
ダックスは船に乗り、懐かしくも悲しい思い出の土地へと向かった。
*
懐かしい、潮の匂いがする。
前回同様三月ほどかけてやって来た。
船酔いに苦しめられたが、今の気分はすっきりしている。
リタはこの国にいる、ダックスはそう感じて歩いた。
まずは彼女の墓標がないことを確認するために共同墓地のある小高い丘へと登る。
「よかった……」
そこに彼女の墓はなかった。
ダックスにとってはそう昔のことではない。足が震えていたことに気づいて何度が腿を叩いて、再び丘を下る。
それから一緒に住んでいた小さなアパートがあるか確かめることにした。
一階で日当たりだけはよい部屋。最初の頃は狭い中、リタが請け負った布や小物に囲まれるようにして、身を寄せ合い暮らしたものだ。
子どもが生まれてからはそういうわけにはいかなかったが……。
アパートはそのままの形で建っていて、昔住んでいた部屋にはとても小さな子どもの物を含む家族の洗濯物がかかっていた。
どうやら今もどこかの家族が住んでいるらしい。
考えてみればあの時、この部屋にたどり着いたのは冬になる前だっただろうか。ろくに暖房設備のない部屋で、日差しだけが頼りだった。
ぼんやりと眺めていると、その部屋の窓が開き、部屋の住人が洗濯物に手を伸ばす。
思わずダックスは物陰に隠れた。
(リタ……? どうしてここに……)
子どもの弱々しい泣き声が聞こえて、中でそれをあやすような男の声もする。
「トミーのおしめが乾いたわ。クリス、すぐ行くから」
間違いなくリタの声で、幸せそうな明るい笑み。
ダックスといた時とはまったく違う明るい晴れやかな表情だった。
一体何が起こっているんだろうか。
ウォーカー子爵の領地でリタに子どもがいたなどという話はなかった。
もしかして子守の仕事として雇われたのかもしれない。
ではクリスという男は一体誰だ――?
雇い主か?
そうであってほしい。
今見ているものをそのまま受け止めることができない。
ダックスは毎日こっそりアパートの様子をのぞきに行った。
声も姿もリタに間違いがなく、産まれてそれほど経っていないような子どもの顔も彼女にそっくりで――。
ダックスと出会うはずの社交界のシーズンが始まる頃には相手と関係を持っていたということだろうか。いや、もう考えたくない。
彼女に触れていいのはダックスだけのはずで……。
(受け入れたくない。見たくないのに間違いじゃないかと見に来てしまう)
窓辺に立つ優男は彼女と子どもを抱きしめそっと口づけた。彼らはどこから見ても家族で、とても幸せそうだった。
それから、とても暑い日にはたらいに水を入れて、子どもを綺麗にした後で大人はそこに足をつける。
少ししどけない姿のリタはとても色っぽかった。
それにとても親密な雰囲気で二人の仲は固く結ばれているように見える。
とても入る隙などなく、ダックスは幸せそうな様子を見つめるだけで話しかけることもできない。
(俺たちはどうして今回出会うことがなかったんだろう。そこにいるのは俺のはずだったのに……)
リタとそんな時間を過ごしたことなどなかったダックスは、青い顔をして一人宿屋へ戻った。
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