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強制転移で腕をなくしたニートの俺を助けたのは王女様だった①☆
しおりを挟む* ニート20歳男子が異世界で腕を失ったけど、王女様に救われる話。
コメディ寄りですが残酷な描写あり(転移で一時的に腕と脚を失う&ざまぁ)胸糞と感じるかもしれないのでご注意下さい。
エロはあっさりめですがちょっと拘束プレイのような(?)あほかもしれません(別名義の改稿もの)全2話。
******
「……ッ、……いってぇ……」
右肩と右膝のあたりが焼けるように痛い。
俺の全身は血に塗れ膝から下が無くなっていた。
肩から先も見当たらないし、胸もつぶされたように苦しくて熱い。
訳がわからないし、丈の長い白いマントのようなものを羽織った男達に囲まれていた。
「……召喚失敗じゃな」
恰幅のいい一番偉そうな白髭の男がそう言うと、他の奴らも口々にしゃべり出す。
「今度こそと思ったんですがね」
「これじゃあ、剣も握れますまい」
剣? 召喚?
何か怪しげな宗教団体に捕まったのか?
「魔法陣に間違いがあったのではないか?」
「次回に向けて、対策が必要だ。男は体が大きい分難しいのか……子どもなら、あるいは」
「いや、それでは女王陛下と歳が釣り合わない」
話し合いをするより俺を助けてくれ!
ドクドクと血が流れ今度は寒気がしてきて、声を出そうにもヒュウヒュウ息が漏れる。
「成功するまでくり返すしかあるまい」
「我らに協力してくれたそなたが天国へ旅立てるよう祈ろう……安らかに眠りたまえ」
俺は生きている。
死んだみたいに扱うな‼︎
「あぁ、なんてこと……ひどい」
鈴の音のような女の声が響いた。
波打つ豊かな金髪に紫色の瞳、俺より年下に見えるけど、ふわふわのドレスを着ている。
天使、かな?
「殿下、立て込んでおりますので、またあらためて」
「いやよ。その人をどうするつもり?」
「あ……これはもう……」
「これ? 人の子でしょう? 早く私の部屋に運びなさい! 命令よ!」
朦朧としている俺のもとへ女の子がやってきた。
紫色の瞳がじっとみつめてくる。
「あなたのことは私が助けるわ」
かすかに頷くと、女の子が力強く頷いた。
「起きたのね」
「…………」
紫色の瞳が俺をのぞき込む。
俺を助けてくれた、天使みたいな女の子だ。
「脚はくっついたし、腕は作ってもらったわ。……少し個性的だけど。……どこか痛む?」
シーツがかけられて、腕がどうなっているかわからないが痛みはない。
これが現実なのか夢なのか頭が混乱している。
「痛くない……ありがとう」
「魔女に頼んだの。こんなことになってごめんなさい。あなたのこれから先は私が守ります」
元の世界に戻れない、だけどここでは苦労させないと言う。
高校を卒業した後、朝1時間前からサービス早出して残業代もろくに出ない仕事を3ヶ月で辞めた俺は就活中と言いながら部屋にひきこもっていた。
最初は真面目に就活してたんだけど、なかなか決まらないし、家族にゴミクズ呼ばわりされるうちに気力が削がれていったんだ。
パソコンさえあれば、時間はあっという間に過ぎていって俺は現在20歳。
家族にも、友だちにも未練はないけど。
「この世界ってゲームある? ネットは? 通信環境どうなってる? えっと、漫画。漫画ない? 字がびっしり詰まった本は無理だけど、ラノベなら読める」
女の子のぽかんとした顔。
これはまずい世界に来てしまったかもしれない。
どうやって生き延びたらいいんだろ。
「えーと、小説ある? 冒険物語とかない?」
ぱあっと明るい顔で頷いてくれた。
「それならあるわ! 我が国は文化を重んじて、近隣の国より発展しているから! あ、あの、私はこの国の女王の妹、イザベラよ」
「俺はシンです」
イザベラは、俺が女王の結婚相手として召喚されたと教えてくれた。
「シンが望むなら女王と会うことができるわ。もしかしたら、王配になれるかもしれない」
「…………」
王配とか柄じゃない。
人前に出るなんて嫌だ。
「この世界に呼ばれたのだから、シンは向こうの世界でも人に注目されるような素晴らしい指導者だったと思う。……でも私は会いに行かないほうがいいと思う」
どうしよう。
期待されてるっぽいが、ただのニートに注目も何もない。
試しにあげたゲーム動画の再生回数は最高102回で、お気に入り登録者数は47人だ。
「あなたの腕、魔力がありすぎて異形なの。……腕はなかったから、魔女は新しく作るしかなかった」
異形?
布団からゆっくり腕を出す。
これは右腕……ではない。
「腕の代わりに枝……?」
「葉っぱも花も、実もつける。食べられるんですって。それに自在に動かせるから鞭のように伸ばすことも可能だと言っていたわ」
「…………」
異世界の魔女の感覚がおかしいのか、俺に本当に魔力があるのか。
厨二病の時なら、唯一の腕、特別感にめちゃくちゃ喜んだかもしれないが!
腕が木でできてるって今の俺は1ミリも喜べない。
「魔女が木剣くらいにはなるって。その魔力を自在に使えるようになれば、五本指のように使うこともできるそうよ。ただ……女王の夫としては、奇異に見られてしまう。……茨の道を歩んでほしくない」
「女王様は美人なのか?」
「ええ。大陸一の美人よ」
「イザベラよりも?」
「私の何倍も。今年25歳になるのだけど、女性から見てもうっとりする色気と強さを持っているの。それに頭もいい。結婚相手を決めないから、教会が勝手に相手を召喚しようと動いてしまったのよ」
なるほど。
5つ年上の女王より、俺だったら年下に見えるイザベラのほうが断然いいな。
「イザベラはいくつ? 婚約者はいる?」
「19歳です。婚約者はいません。結婚するつもりありませんので」
転移なんてして、俺の頭もおかしくなっていたのかも。王女様と結婚したいと思っているなんて。
「可愛いのに。どうして?」
「え? か、可愛い……⁉︎ だって、私痩せすぎて不細工だから……普段あまり外へ出ないの。この顔を見たら、みなさんが不快になるでしょう? シンは普通に接してくれているけど」
「どこが? それなら俺と結婚してッ!」
「……シンは優しいのね」
「優しくはない、イザベラは可愛い。少なくとも俺の世界ならイザベラはモテてモテて困るはずだ」
「嘘」
「本当だって。最初見た時天使と思ったくらい、可愛い」
「シン……恥ずかしい、けど嬉しい……もうそれ以上言わないで」
俺なんかに赤くなって挙動不審。
屋敷に篭りがちな美人の王妹が俺の言葉に揺れてる⁉︎
というか、つまりここはアレだ。
美醜逆転の世界かもしれないッ。
「俺は本気だ。イザベラは可愛いし、結婚できるならイザベラがいいよ」
「……シンの立場を確かなものにするのに、私の夫になるのがいいかもしれない……本当に後悔しない?」
「しない。絶対、しない。俺の20年の人生をすべてかけてもいい!」
ちょっと大袈裟かもしれないけど!
「それってプロポーズ……? 私、初めて……」
「あ、ごめん。もっとちゃんとプロポーズしたほうがいいよな? もっとロマンチックな感じに……」
それってどうやるんだ?
経験値が足りない。
あ~、ググりたい! でもネット環境がない!
おろおろしていると、イザベラがはにかんだ笑顔を見せた。
「……ありがとう、嬉しい。本気にしていいんだね?」
「ああ、もちろん。あとで改めてプロポーズする……」
「うん……」
お互いモジモジしてしまう。
だけどスゥッと息を吸って、イザベラがおかしな空気をかえるように腕について教えてくれた。
「水に濡れても問題ないし、風呂だってこれまで通り入れるそうよ」
「それは嬉しい……かな?」
水吸って成長するわけじゃないなら?
一応肘あたりで曲がるし、長袖着て隠せばなんとか?
腕をじっと見つめていると、先端から蔓が伸びてしゅるしゅるとうごめく。
こわッ。
「やっぱりこんなの不気味だろ。……いや、可愛いのか?」
「せっかく腕を作ったんだから可愛がるといいって。きっとよき相棒になるはずだよ」
「よき相棒……」
トイレもムスコを委ねるのも、これからは左手にまかせたほうがいいかもしれない。いや――。
「相棒を鍛えるか……」
「そうそう、シンならうまく使いこなせるよ!」
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