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「お前を愛することをやめたら死んでしまう」と言われた話 ※
しおりを挟む* コメディ、前世を思い出した真面目なヒロインとあほうなヤンデレヒーローです。エロはあっさりめ、お下品注意。大丈夫な方はどうぞ。
******
「俺の好きなナディをどこへやった?」
いきなり大変です。詰んでます。
三日前に前世を思い出した私は、今日、結婚しました。
いわゆる新妻です。
今現在、初夜進行中。
いえ、ちょうどこれからという時でした。
私をベッドに押し倒し、見下ろす夫はいわゆるヤンデレです。
紛ことなき真正、いや純正のヤンデレさんです。
名前はエメリヤーエンコ・アフストリスカヤ。
……長いのでエメと呼んでいます。
「私はナディですわ」
但し、現世の成分より思い出したばかりの前世の成分が強め。
混乱しているので、落ち着くまでちょっと待ってほしいです。
「本当にナデジダ・カードチュニコヴァ? いや今日からナデジダ・アフストリスカヤになったのか……違う。俺のナディはそんなふうに俺を見なかった」
そうでしたっけ……?
うーん、今よりシャイで純粋だったかもしれません。
花も恥じらう十八歳の乙女、ですが前世の私はそれにプラス十歳、それなりに大人でした。
趣味は一人旅、一人で生きていけそうと言われて彼氏いない歴イコール年齢を日々更新。
日本に戻ったら婚活でもしようかと思ったあたりから記憶がないので私の前世はそこで終わったのかもしれません。
あれは初めての赤の広場、城にバレエ観劇、本場のボルシチにピロシキ、ビーフストロガノフ、黒パン――それらを満喫してから自分へのお土産のマトリョーシカを抱えて乗り込んだ飛行機。
そこ、でしょうか。
私の人生の終焉は。
「ナディ? やっぱりおかしい」
このタイミングで考え事をしている場合じゃありませんでした。
「それは……今日からあなたの妻ですから……」
「…………ナディ!」
ぎゅっと抱きしめられました。
何とか乗り切れそうでしょうか。
ちょっとホッとします。
エメとは政略結婚ですが、彼は五つ年上で私が十三歳の時に婚約しました。
最初は兄と妹くらいの距離だったのに、社交界にデビューした二年ほど前から非常に距離が近いです。
正直、私、可愛いです。
前世日本人だったため、淡い金髪に青い目、抜けるような白い肌、もうそれだけで可愛い! 可愛いんですよ!
……この国のレベルからすると普通なんですが、いいんです。
自分の顔が可愛いと思えるって幸せじゃないですか!
そんな私をエメは他の男に誘惑されないかと、心配するようになり、エスカレートしていきました。
これまでの私はそれを嬉しく、でも恥ずかしく感じていたんですよね。
今は前世の記憶でヤンデレという単語を思い出してしまいましたが。
相手のことを好きすぎて病んじゃう、みたいな意味でしたっけ。
「……なにか違うんだ。だが……俺はお前を愛することをやめたら死んでしまう」
あー、はい。
やっぱり病んでいるかもしれません。
「お前を愛さずにはいられないんだ。俺のすべて、俺の宝。この夜を待っていた!」
初夜ですもんね。
覚悟はできてます。
「だが、お前は一体誰だ?」
エメが胡乱な目で私を見つめました。
「どうしてそんなに落ち着いているんだ。……ナディ、初めてだろう?」
「初めてです。……それに私は今日からナデジダ・アフストリスカヤです。よろしくお願いします」
「…………」
私、前世でも真面目過ぎると言われてきました。
やはりここはちゃんと打ち明けた方がいいのかもしれません。
騙しているような気分になっています。
「エメ、少し話をしませんか?」
「……何を?」
「私のことです。違和感の理由がわかるかもしれません」
「わかった」
ベッドでくっつきながら話すのも落ち着かないので、エメの肩をそっと押しました。
「お酒でも飲みません?」
「……ナディはお酒は飲めなかったはずだ」
それはエメが何か間違いがあったら困るからと飲ませてくれませんでしたから。
でもこの三日、飲まなきゃやってられなかったんです。
だって一人分の一生の記憶ですから、長い映画を感情移入して観た後のような心地で落ち着きませんでした。
「少しだけ、お話ししやすいように……」
「わかった」
なんとも微妙な空気が流れていますし、お互いが破廉恥なものしか身につけてませんが、薄暗いので見えないこととします。
「ボトルを持ってくるからここで! 動かずに! 待っていて」
「はい、エメが戻るまでここにいます」
エメがガウンを羽織り、バルコニーからウオッカの瓶を持ってきました。
外は氷の世界でウオッカはキンキンに冷えてます。
「少しだけだよ」
「はい、ありがとうございます」
小さなグラスにとろりとしたそれを注ぎ、渡してくれました。
アルコールの度数が五十度くらいありそうなので、凍っていません。
「乾杯」
そう言ってストレートで飲みます。
寒い国だから、一気に体が温まるわけで。
「……飲み慣れている? 君は一体誰なんだ?」
まあ、そう思いますよね。
前世ではお酒はそこそこ飲めましたし、今の体も飲めるようです。
私は息を吸ってから、ゆっくり答えました。
「信じられないと思うんですが」
三日前に、前世の記憶が蘇ったこと。
それによって、今混乱していて前世の性格が全面に出ているけど、しばらくしたら落ち着くはずだといいました。
「なるほど。君は俺の知らないナディなのか」
「そうとも言えるかもしれません。その、ナディとは生まれた国も見た目も性格も違います。だからエメが私のことをおかしいと思うのは当然です……」
もとのナディのほうが純真でしたし、エメが過保護なくらい私を大切に、溺愛してくれることに嬉しさを感じていましたし、私も丸ごと尊敬して、愛していましたから。
今はそれがヤンデレだと気づいてしまっただけです。闇が深くならなければいいなぁと思うだけで……。
「それなら、前世の記憶も知りたい。ナディが抱えているものすべて知りたいんだ」
あぁ、なるほど。全て手に入れたいのですね。
「今のナディとは別ですよ? 知らなくても」
「いやだ! 俺のナディだ。丸ごと愛したい。だって」
お前を愛することをやめたら死んでしまう、から?
「エメは俺のすべてだから。エメのことで知らないことがあるのは嫌だ」
あぁ、なるほど。
隠すことの過去もありません。
「前世の私は庶民で、両親と兄がいました。学校を卒業後は結婚せずにひたすら仕事をしていて、多分二十八歳くらいの時に乗り物事故で亡くなったのだと思います」
言葉にするとなんと悲しい人生でしょう。
エメはカッと目を見開いて私の話を聞き、無言でウオッカをもう一杯飲みました。
乾杯しないでの一人酒はアル中認定されると、この国では言われていますが今は突っ込むのはやめておきます。
「……念のため訊くが、恋人はいたのか?」
「いえ、一度もいません」
エメはものすごく嬉しそうです。彼氏がいたらどうしたんでしょう。
「そうか……辛い人生だったな。しかし、俺はナディの前世に恋人がいたら禁術を使ってでも抹殺していたよ」
「私が結婚できなかったのは、前世にはエメがいなかったからですよ」
そういうことにしておこうと思います。
恋人はいませんでしたが、片想いの相手くらいはいましたよ。
これも残念なことに何もなかったので話すことでもないでしょう。
そんな私の手を、エメが嬉しそうに握りました。
「ナディ、俺の愛しい人」
「エメ、今の私もあなたのことを愛しています。ですが、もしよければ数日……愛を交わすのは待っていただけませんか? そのほうがいつもの私に戻れると思うのです」
できれば。
今の私は、お気に入りの小説のヒロインになりきって浸っている状態、と言うのが近いでしょう。
「無垢な心のナディとして、エメと」
「今のナディは無垢な心ではないのか?」
「その……前世でそういった話は聞いたことがありますから」
恥ずかしくてもぞもぞしてしまいます。
昔も、その手の話は苦手でした。興味はありましたけどね。
エメの雰囲気が変わりました。
もしかしたら、言ってはいけなかったのかもしれません。
「今のナディを愛したい。それぞれ全て俺のものだ」
「でも……、いつものナディのほうがいいのでは?」
「……俺に抱かれるのが嫌なのか? 俺を好きと言ったのもまさか」
「好きです。今も、もちろん……」
不穏な空気が漂ったので、遮って気持ちを伝えます。
「そう……じゃあ、俺の愛しいナディ。ベッドへ上がろう」
エメがスッと私に手を差し出しました。
王子様みたいに格好いいです。
「……はい」
あとはもう、覚悟を決めるしかありません。
初夜ですから。
「あぁっ、待ってくださいっ!」
覚悟は決めました。
でも、こんなに恥ずかしいと私……!
「ナディ、どこもかしこも可愛いよ。ほら、力を抜いて」
全身にこれでもかと言うくらいキスマークをつけられて、心臓が破裂しそうなのに。大きく脚を開いて、エメの頭がそこに埋められているんです!
「エメ……んっ、そこは……っ」
「心配しないで。なるべく痛くないように気をつけるから」
そう言ってぺろぺろ舐めて奉仕活動をするので。
「あっ、……こんな……っ!」
指が、エメの指が。
「きついね。……楽に俺を飲み込められるように頑張らないと」
私に対して言ったのかと思ったのに、どうやらエメ自身を鼓舞するために言ったみたいです。
「エメ、多分大丈夫だから……早く挿れて」
脚の間に長時間いられるくらいなら、痛いのを我慢します。できます。大丈夫。
「だけどナディを傷つけたくない」
「私は早くエメと一つになりたい、です」
ガバッと起きたエメがわたしが嘘を言っていないか確かめるように見ました。
「……最初は痛いんでしょう? エメから受ける痛みなら、私……」
耐えられるでしょう、多分。
「痛みごとオレを受け入れると言うんだね? 愛しているよ、ナデジダ!」
「はい、私も…………エメリヤーエンコ」
舌を噛まずに言えた事に満足していると、腰の下に枕を入れて脚を折り曲げるようにしてのしかかってきた。
「…………」
丸見えです。
エメのアレは洋モノで観た感じのやつですね。
白いです。なんだか少し柔らかそうに思えます。
もしかして痛みも少し和らぐかもしれません。
「ナディにそんなに見つめられると、ぞくぞくするな。……早めに出したほうがすべりが良くなるかもしれないな」
それは。
一度ですまないと言う事でしょうか?
「大丈夫だよ、ナディ。ちゃんとピッタリ合うようにできているから」
ぷにぷにとした柔らかい感触に、ちょっと安心しました。
マシュマロみたいに大丈夫かもしれない、私に合わせて入ってくれるのではないかと思ったのです。
「エメを信じています」
「あぁ、俺のナディ! 全部俺のものだ、俺の色に染めたい……」
「エメ……」
恥ずかしい体勢のまま感極まるエメに、私は声をかけました。
「一思いに、どうか……」
「あぁ……ナディ、愛しているよ。俺を受け取って……」
ナディが乙女みたいな表情を浮かべてから、私の中へ――。
「えめ、りやー、えんこっ!」
痛い、痛い、痛いです。
「ナデジダ! ナデジダ! 好きだっ!」
エメ、容赦ないです。
仕方ないですが、これほどまで痛いとは思いませんでした!
チラリと見て後悔しました。
ぶっ刺さっています、まだ全部じゃないようです。
「ナデジダ、痛いか?」
「はい……エメ、壊れそうです」
「俺がナディを壊すわけがない。あと少しだから」
「頑張ります。一思いにお願いします」
エメがガッチリ腿を掴んで押し込みました。
「エメ――ッ!」
「……っ、出すよ」
一つになった直後の宣言、それから体を倒して私に舌を絡めるキスをします。
一瞬チカラを失ったように思えたエメの洋モノが硬さを取り戻したようでした。
「これからが本番だよ、ナディ」
「エメ、お手柔らかにお願いします」
エメは色んな意味で最速なのかもしれません。
いえ、最速なのでしょう。
彼に何度も揺さぶられながら思いました。
「おはよう、俺の最愛の妻ナディ」
目が覚めたのは昼を大幅に回ってからでした。
笑顔いっぱいで満たされたエメの顔に、長い長い一夜を思い出して視線を下げます。
恥ずかしくてどこを見ていいかわかりません。
「……ナディ?」
「おはよう、エメ」
エメの胸に顔を押しつけたままささやきました。
こういう時はどうしたらいいんでしょう。
顔が熱くなってきました。
「もしかして、いつものナディに戻った?」
エメの声が弾んでいます。
それから目を合わせられない私の顔をのぞき込み、楽しそうに笑いました。
「愛しているよ、ナディ。じゃあ、今度は今のナディをいただくよ」
……え?
まだ戻っていないような、それとも長い夜の間に融合したのかもしれません……?
「ほら、俺のほうを見て」
「……エメ、恥ずかしい」
やっぱり恥ずかしくて見ることができません。
「このナディも可愛いな。顔を見ることができないなら、後ろから……いや、でもうぶなナディも楽しみたい」
「……っ、あの、エメ……無理です。だって今も」
エメの洋モノが入ってますが?
「うん? 早く俺に馴染んでほしくてね。ナディの全てが俺の物だってわかって欲しい。それに……上手に呑み込んでいるのに、今抜いたら出てしまうよ?」
それは栓のようなものでしょうか。
派手にシーツを汚すのは、この後やってくる使用人達のことを考えると恥ずかしくてたまりません。
「ナディが全部中にちょうだいって言ったんだけどな」
全く記憶にありませんが、浮かれてそんなことを言ったのかもしれません。記憶にないですが。
「エメ……恥ずかしくて……もう無理、です」
「ナディ! ナディの全てを愛するよ!」
前世も今世もごちゃ混ぜになった私は、エメに美味しく食べられました。
******
お読みくださりありがとうございます。
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