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年老いた番に先立たれた少女のその後の物語(ここは番に厳しい国だからの派生)[改稿版]※

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* 『ここは番に厳しい国だから』の設定だけ一緒です。(番が現れた時にすでに子供がいた場合、殺傷される可能性をなくすために引き離す法律がある国に住んでいる、というような部分のみ)あちらを読まなくても大丈夫です。

* 出会った当時、番が七十歳でヒロインは十六歳。番とは体の関係なし。
* 番以外と無理矢理描写、媚薬使用あります。番と死別のため、その先が人によってはハッピーと感じるかアンハッピー、メリバと思うか分かれる話かもしれません。ささやかに改稿しました。








******


 私が番と出会ったのは十六歳の時だった。
 相手は、妻に先立たれていたものの、息子二人と娘、私と歳の近い孫が八人もいるお爺さんだった。

「こんなこともあるんだな……だが、こんな年寄りですまない」

 番は七十歳になったところだった。
 私にはキラキラ輝いて、いい匂いのする優しい愛しい番。
 歳の差なんて全く気にならなかった、番がずっとそばにいてくれるなら。
 とにかく会えて嬉しくて、魂が震えた。
 
 番の娘さんは特に複雑な顔をして私をじっと見ていたけれど、さよならを告げて彼らは去っていった。

 彼らはみな山の麓に住み、番は妻が亡くなってから山の中ほどまで入った所にある小屋に一人で住んでいた。
 これまでは孫や友人が泊まっていた小さなロフトが私の部屋になると言われたけれど。

「一緒がいいです」
「二人で眠れるサイズのベッドを作るから、それまで待ってくれ」
「はい」

 私が意見したのはその時くらいで、以来一度も、小さな諍いさえなかった。
 小さな山小屋の脇で畑を耕し、川に釣りに行き、仕掛けた罠に野鳥がかかっていたら御馳走になった。
 小麦粉や調味料などは時々配達屋さんに頼んでいたから、麓へ行くこともなく、いつも一緒で、幸せだった。
 夜になると、大きなベッドで手を繋いで眠る。

 私達は結婚していない。
 これは番が一番強く望んだこと。

 私にとってそれはささいなことだし、ずっと番といられることと、親愛を示すキスとハグで満足だったから気にならなかった。

「愛してます」
「……愛しているよ」

 毎日が幸せで満たされる。
 もっと早く出逢いたかった。本当に。
 








 あの椅子に座る番の姿が見えない。

 たった四年の蜜月で、番は私を置いて先立ってしまった。
 
 悲しくて、つらくて、何もしたくない。
 けれど、番の息子に連絡して、小さな葬儀が行われた。
 私はずっと泣いていて、その子供達がすべてやってくれた。

 最初、複雑な顔をして見ていた番の娘が、私をぎゅっと抱きしめる。
 びっくりして涙が止まった。

「かわいそうにね……神様も残酷なことをする。あんた、しばらく落ち着くまでうちに来るかい?」
「…………ここにいたいです」

 番の匂いのするこの場所にいたいから。

「そうかい? それなら、時々様子を見に寄らせてもらうけど、いいかい?」
「……はい」

 大切な父親を奪った私なのに。
 父親の死に目に合わせることもできなくて、恨まれていてもおかしくないのに、番の子供達はみんな優しい。

「……ごめんなさい。ありがとうございます」

 それから彼らとのやり取りが始まった。






 朝起きて、番の温もりがないことに寂しさを感じて、畑にいるんじゃないかと飛び起きる。
 もちろん畑にいるわけもなく、ぼんやり、朝の収穫をする。
 一人で食べ切れないから、瓶詰めの保存食にしたり、干してみたり、畑に手を加えたくなってもう一度向かったり、体を動かしているうちに一日が終わる。

 夜になると、一人でいるのが寂しくて、番の作った果実酒を一杯だけ飲んで早寝する。
 畑仕事は意外と重労働だから疲れて眠れるのだと思う。

 朝になると、やっぱり同じ繰り返し。
 時々、番の娘や孫が手作りのおかずや、パンを届けてくれて、麓に来ないかと誘ってくれる。
 私はここにまだ番がいる気がして、離れたくないと思うから首を横に振るのだけど。

「ねぇ、今いくつ?」
「二十歳だけど」
「……まだ五十年以上生きるだろうに、ずっとこのままでいる気?」
「……そう、だけど」

 ずかずかと踏み込んでくるのは一番年上の孫で二十七歳なのだと教えてくれた。
 ひょうひょうとした彼は時々自ら仕留めた肉を分けてくれて、昼時にやってきた時に渋々食事に誘った後から、たまに一緒にご飯を食べる仲になっている。
 そうしているうちに、一年が経ち、親しい友人と言えるくらいになったし、この頃は彼ばかり顔を出すようになったとも思う。
 
「俺も年取ったら、じいちゃんと同じ顔になるんだけどな。似てるって言われるし」
「そう……」

 でもあなたは番じゃないもの。

「番じゃないからだめか? 結構優良な人間だと思うんだけどな」

 この辺りでは二十歳超えたら結婚してしまうというのに、二十八歳で独身なのだから、ちょっと変わってるんじゃないかと思ったけれど、それは飲み込んだ。

「……きっとそうね。だけど、私は多分、結婚できないんじゃないかな?」
「どうして?」
「番と出会ってしまったから……でももう二度と会えないし、何か、きっかけとかないとだめかもしれないね」
「きっかけ、ねぇ」

 彼が少し考え込んだ様子を見せたけど、すぐに笑ってまた来るよ、と去った。







 ある夜のこと。
 寝支度をした頃、トントンと扉を叩く音がした。
 これまでこんな時間に人がやってきたことはあまりない。
 山で迷った人くらい。
 そういう時は物置に泊まってもらう。
 そっと窓から玄関の方を覗いて、暗がりに目を凝らした。

「夜遅くにごめん! 俺だ。狩りをしてたら奥のほうまで踏み込んじゃってさ、悪いんだけど、ロフトに泊めてくれない?」

 いつもの彼だと。それならいいかと、安心してそーっと扉を開けた。
 スッと静かに入ってきた彼は、いつもの狩りの服装ではあるのだけど、あまり汚れているようにみえず首を傾げる。
 何かほんの少しの違和感。

「獲物は?」
「逃した」
「それは残念ね……お茶でも一杯飲む?」
「そうだね、一杯だけ」

 今夜は果実酒をやめて、身体が温まるような薬草茶を用意した。

「ありがとう……あのさ、悪いんだけど、少しつまめるものない?」
「ちょっと待ってね」

 私も気が回らなかったとは思うけど、何となく彼はお腹がペコペコにもみえなかったし、さっきからわずかな違和感を感じてしまう。
 何だかちょっといつもと違うような?
 とりあえず朝食に食べようと思った木の実の入ったパンをさっと焼いて渡した。
 明日はパンケーキでも焼けばいい。

「足りなければ卵か、……」
「これでちょうどいい、ありがとう」

 ニコッと笑ってかぶりつく。

「ここに来る途中で、あまりにも汚れたから川に入ったんだ。火を起こして温まりながら持ってた食材食べ尽くしたけど、小腹が減って」
「それは、大変だったね」

 いつも通りの笑顔。
 言われてみれば髪の先が微かに濡れているように見える。
 大きな鞄には汚れ物でも入っているのかも?
 違和感の正体はそれかもしれない。
 彼が食べるのを見ながら、二人でたわいない話をしてお茶をゆっくり飲み干した。


「ロフトに、毛布ある?」
「マットとシーツと枕はあるけど、毛布はあとで運ぶわ」

 彼が一足先にロフトに上がり、毛布を持って続いて上がった。

「シーツ、二人で敷いたほうが早いわね」
「あぁ……」

 マットを倒した上にシーツを引くだけなのに、なんだか体が熱くて汗をかく。
 今日のお茶は濃かったのかも。
 なんだかおかしいから、早めに寝室に戻りたい。
 
「枕はこれで、毛布はこれを使って……じゃあ、私は先に休むから。おやすみなさ……ぃっ!」

 ぎゅっと腰を掴まれて、ピンと張ったシーツの上に倒された。

「え……?」

 にやりと笑って彼が私の上にのしかかる。

「薬、効いてきたみたいだな。……この後、体が熱くなって耐えられなくなるんだ。薬の抜き方知らないだろ? あぁ、ほら。ここ、すげぇ、勃ってる」

 服の上から浮き出た胸の先端を指先で弾かれた。
 まさかお茶に、薬が?

「ぅう……っ」
「この間、きっかけがないとって、言ってたからさ、俺と子作りすればいい。じいちゃんと血の繋がった子供になるから」
「……そ、……んな……」

 痺れ薬も入っていたのか、思うように言葉が出ないし、体も動かせない。
 火照った体は解放を求めて、全身からますます汗が吹きだし、脚の間からとろりと何かが漏れた。
 思わず脚をすり合わせる私を見てにっこり笑う。

「……っ……!」
「俺達の子供は可愛い。……番とも血が繋がっているんだから、このまま安心して身を任せて」

 番と血の繋がった子、それは私にとって魅力的な言葉だった。

「きれいだ……初めて見た時から、好きだった。だから、いやなことはしないよ」

 そう言って寝間着も下着も全て脱がし、私の足の間にぬるりとした油のようなものを塗り込んだ。

「ひぅ……!」
「あぁ、ごめん、冷たかった? 痛くないように気持ち良くなるようにね……十分濡れているようにみえるけど、念のため」

 襞を開いて丁寧に塗り込む。
 こりっとした所に触れられると、身体が跳ねて息が上がった。

「ここ、気持ちいい? じゃあいっぱい触ってあげる」
「……ぅ、……ぁっ……」
 
 びくびくと腰を揺らしてしまう私に彼は容赦ない。
 そのままつぷりと中に指を挿れた。

「きつい、けど、薬が効いているみたいだね」

 二本目の指を挿れて、中をかき混ぜられると、とぷとぷと液体が溢れてくる。
 彼の指を食いしめるように内壁がうごめいていた。
 こんな快感は知らなくて、今、彼のすること全てに集中してしまう。
 
「ぅ……やぁ……」
「俺の子を孕んで」

 指が抜かれ、ずぷんっと勢いよく陰茎が押し込まれた。
 彼の獲物は私だったんだ。
 ここまでされないと気がつかなかったのは、性に対してあまりに無知だったから。

「ぃっ……!」
「これは、じいちゃんを裏切る行為じゃない。じいちゃんの命を繋げる行為だから」

 彼はそう言って、ゆっくり腰を揺らした。
 痛みはあるけど、それを上回る快楽に私は溺れる。

 今の私には彼の言うことがちっともおかしいと思わない。
 この熱が、どうしようもなくて、どうにも欲しくて、彼にしがみつき、唇を求めた。

「可愛い、一生、大事にするからっ……俺と生きて!」

 その夜、何度も何度も彼に抱かれて、私は快楽を、男というものを知った。

 番が清い関係を押し通したのも、私が無垢だったからで、身体を繋げるという行為を知っていたら、きっと番の孫とも縁を結ぶことはなかったと思う。
 
 それから、猟師をしている彼が山小屋に住むようになり、毎晩、当たり前のことのように抱かれた。
 それはあっという間に私の孤独な夜を埋めた。

 夜中に目覚めても一人じゃない。
 抱きしめてくれる腕がある。
 安心して私はその腕に身を委ねた。

 数ヶ月ほどして私は体の異変に気づいた。

 私達は私の体調の良い時に妊娠と結婚の知らせを、麓の家族の元へ知らせに行った。
 彼は心配ないよと言っていたけれど、反対されるのではないかと思った。

「おめでとう」
「よかったわ。幸せになってね」

 誰一人反対しなかったのは、番が遺した手紙に、清い関係であること、孫の誰かと結婚してくれたら嬉しい、と記してあったから。
 心の奥で、孫にも番が現れたどうなるのだろうと思いつつ、私は番と血の繋がった子供を手に入れるのだから、その時は仕方ないときっと思うのだろう。

「子ども、たくさん欲しいわ」
「もちろんだ。賑やかな家庭にしよう」
 







******


 お読みいただきありがとうございます。
これって、手放しで喜べないような、でもハッピーなのかなぁというもやもやエンドかもしれません。
 
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