上 下
11 / 56

年老いた番に先立たれた少女のその後の物語(ここは番に厳しい国だからの派生)[改稿版]※

しおりを挟む

* 『ここは番に厳しい国だから』の設定だけ一緒です。(番が現れた時にすでに子供がいた場合、殺傷される可能性をなくすために引き離す法律がある国に住んでいる、というような部分のみ)あちらを読まなくても大丈夫です。

* 出会った当時、番が七十歳でヒロインは十六歳。番とは体の関係なし。
* 番以外と無理矢理描写、媚薬使用あります。番と死別のため、その先が人によってはハッピーと感じるかアンハッピー、メリバと思うか分かれる話かもしれません。ささやかに改稿しました。








******


 私が番と出会ったのは十六歳の時だった。
 相手は、妻に先立たれていたものの、息子二人と娘、私と歳の近い孫が八人もいるお爺さんだった。

「こんなこともあるんだな……だが、こんな年寄りですまない」

 番は七十歳になったところだった。
 私にはキラキラ輝いて、いい匂いのする優しい愛しい番。
 歳の差なんて全く気にならなかった、番がずっとそばにいてくれるなら。
 とにかく会えて嬉しくて、魂が震えた。
 
 番の娘さんは特に複雑な顔をして私をじっと見ていたけれど、さよならを告げて彼らは去っていった。

 彼らはみな山の麓に住み、番は妻が亡くなってから山の中ほどまで入った所にある小屋に一人で住んでいた。
 これまでは孫や友人が泊まっていた小さなロフトが私の部屋になると言われたけれど。

「一緒がいいです」
「二人で眠れるサイズのベッドを作るから、それまで待ってくれ」
「はい」

 私が意見したのはその時くらいで、以来一度も、小さな諍いさえなかった。
 小さな山小屋の脇で畑を耕し、川に釣りに行き、仕掛けた罠に野鳥がかかっていたら御馳走になった。
 小麦粉や調味料などは時々配達屋さんに頼んでいたから、麓へ行くこともなく、いつも一緒で、幸せだった。
 夜になると、大きなベッドで手を繋いで眠る。

 私達は結婚していない。
 これは番が一番強く望んだこと。

 私にとってそれはささいなことだし、ずっと番といられることと、親愛を示すキスとハグで満足だったから気にならなかった。

「愛してます」
「……愛しているよ」

 毎日が幸せで満たされる。
 もっと早く出逢いたかった。本当に。
 








 あの椅子に座る番の姿が見えない。

 たった四年の蜜月で、番は私を置いて先立ってしまった。
 
 悲しくて、つらくて、何もしたくない。
 けれど、番の息子に連絡して、小さな葬儀が行われた。
 私はずっと泣いていて、その子供達がすべてやってくれた。

 最初、複雑な顔をして見ていた番の娘が、私をぎゅっと抱きしめる。
 びっくりして涙が止まった。

「かわいそうにね……神様も残酷なことをする。あんた、しばらく落ち着くまでうちに来るかい?」
「…………ここにいたいです」

 番の匂いのするこの場所にいたいから。

「そうかい? それなら、時々様子を見に寄らせてもらうけど、いいかい?」
「……はい」

 大切な父親を奪った私なのに。
 父親の死に目に合わせることもできなくて、恨まれていてもおかしくないのに、番の子供達はみんな優しい。

「……ごめんなさい。ありがとうございます」

 それから彼らとのやり取りが始まった。






 朝起きて、番の温もりがないことに寂しさを感じて、畑にいるんじゃないかと飛び起きる。
 もちろん畑にいるわけもなく、ぼんやり、朝の収穫をする。
 一人で食べ切れないから、瓶詰めの保存食にしたり、干してみたり、畑に手を加えたくなってもう一度向かったり、体を動かしているうちに一日が終わる。

 夜になると、一人でいるのが寂しくて、番の作った果実酒を一杯だけ飲んで早寝する。
 畑仕事は意外と重労働だから疲れて眠れるのだと思う。

 朝になると、やっぱり同じ繰り返し。
 時々、番の娘や孫が手作りのおかずや、パンを届けてくれて、麓に来ないかと誘ってくれる。
 私はここにまだ番がいる気がして、離れたくないと思うから首を横に振るのだけど。

「ねぇ、今いくつ?」
「二十歳だけど」
「……まだ五十年以上生きるだろうに、ずっとこのままでいる気?」
「……そう、だけど」

 ずかずかと踏み込んでくるのは一番年上の孫で二十七歳なのだと教えてくれた。
 ひょうひょうとした彼は時々自ら仕留めた肉を分けてくれて、昼時にやってきた時に渋々食事に誘った後から、たまに一緒にご飯を食べる仲になっている。
 そうしているうちに、一年が経ち、親しい友人と言えるくらいになったし、この頃は彼ばかり顔を出すようになったとも思う。
 
「俺も年取ったら、じいちゃんと同じ顔になるんだけどな。似てるって言われるし」
「そう……」

 でもあなたは番じゃないもの。

「番じゃないからだめか? 結構優良な人間だと思うんだけどな」

 この辺りでは二十歳超えたら結婚してしまうというのに、二十八歳で独身なのだから、ちょっと変わってるんじゃないかと思ったけれど、それは飲み込んだ。

「……きっとそうね。だけど、私は多分、結婚できないんじゃないかな?」
「どうして?」
「番と出会ってしまったから……でももう二度と会えないし、何か、きっかけとかないとだめかもしれないね」
「きっかけ、ねぇ」

 彼が少し考え込んだ様子を見せたけど、すぐに笑ってまた来るよ、と去った。







 ある夜のこと。
 寝支度をした頃、トントンと扉を叩く音がした。
 これまでこんな時間に人がやってきたことはあまりない。
 山で迷った人くらい。
 そういう時は物置に泊まってもらう。
 そっと窓から玄関の方を覗いて、暗がりに目を凝らした。

「夜遅くにごめん! 俺だ。狩りをしてたら奥のほうまで踏み込んじゃってさ、悪いんだけど、ロフトに泊めてくれない?」

 いつもの彼だと。それならいいかと、安心してそーっと扉を開けた。
 スッと静かに入ってきた彼は、いつもの狩りの服装ではあるのだけど、あまり汚れているようにみえず首を傾げる。
 何かほんの少しの違和感。

「獲物は?」
「逃した」
「それは残念ね……お茶でも一杯飲む?」
「そうだね、一杯だけ」

 今夜は果実酒をやめて、身体が温まるような薬草茶を用意した。

「ありがとう……あのさ、悪いんだけど、少しつまめるものない?」
「ちょっと待ってね」

 私も気が回らなかったとは思うけど、何となく彼はお腹がペコペコにもみえなかったし、さっきからわずかな違和感を感じてしまう。
 何だかちょっといつもと違うような?
 とりあえず朝食に食べようと思った木の実の入ったパンをさっと焼いて渡した。
 明日はパンケーキでも焼けばいい。

「足りなければ卵か、……」
「これでちょうどいい、ありがとう」

 ニコッと笑ってかぶりつく。

「ここに来る途中で、あまりにも汚れたから川に入ったんだ。火を起こして温まりながら持ってた食材食べ尽くしたけど、小腹が減って」
「それは、大変だったね」

 いつも通りの笑顔。
 言われてみれば髪の先が微かに濡れているように見える。
 大きな鞄には汚れ物でも入っているのかも?
 違和感の正体はそれかもしれない。
 彼が食べるのを見ながら、二人でたわいない話をしてお茶をゆっくり飲み干した。


「ロフトに、毛布ある?」
「マットとシーツと枕はあるけど、毛布はあとで運ぶわ」

 彼が一足先にロフトに上がり、毛布を持って続いて上がった。

「シーツ、二人で敷いたほうが早いわね」
「あぁ……」

 マットを倒した上にシーツを引くだけなのに、なんだか体が熱くて汗をかく。
 今日のお茶は濃かったのかも。
 なんだかおかしいから、早めに寝室に戻りたい。
 
「枕はこれで、毛布はこれを使って……じゃあ、私は先に休むから。おやすみなさ……ぃっ!」

 ぎゅっと腰を掴まれて、ピンと張ったシーツの上に倒された。

「え……?」

 にやりと笑って彼が私の上にのしかかる。

「薬、効いてきたみたいだな。……この後、体が熱くなって耐えられなくなるんだ。薬の抜き方知らないだろ? あぁ、ほら。ここ、すげぇ、勃ってる」

 服の上から浮き出た胸の先端を指先で弾かれた。
 まさかお茶に、薬が?

「ぅう……っ」
「この間、きっかけがないとって、言ってたからさ、俺と子作りすればいい。じいちゃんと血の繋がった子供になるから」
「……そ、……んな……」

 痺れ薬も入っていたのか、思うように言葉が出ないし、体も動かせない。
 火照った体は解放を求めて、全身からますます汗が吹きだし、脚の間からとろりと何かが漏れた。
 思わず脚をすり合わせる私を見てにっこり笑う。

「……っ……!」
「俺達の子供は可愛い。……番とも血が繋がっているんだから、このまま安心して身を任せて」

 番と血の繋がった子、それは私にとって魅力的な言葉だった。

「きれいだ……初めて見た時から、好きだった。だから、いやなことはしないよ」

 そう言って寝間着も下着も全て脱がし、私の足の間にぬるりとした油のようなものを塗り込んだ。

「ひぅ……!」
「あぁ、ごめん、冷たかった? 痛くないように気持ち良くなるようにね……十分濡れているようにみえるけど、念のため」

 襞を開いて丁寧に塗り込む。
 こりっとした所に触れられると、身体が跳ねて息が上がった。

「ここ、気持ちいい? じゃあいっぱい触ってあげる」
「……ぅ、……ぁっ……」
 
 びくびくと腰を揺らしてしまう私に彼は容赦ない。
 そのままつぷりと中に指を挿れた。

「きつい、けど、薬が効いているみたいだね」

 二本目の指を挿れて、中をかき混ぜられると、とぷとぷと液体が溢れてくる。
 彼の指を食いしめるように内壁がうごめいていた。
 こんな快感は知らなくて、今、彼のすること全てに集中してしまう。
 
「ぅ……やぁ……」
「俺の子を孕んで」

 指が抜かれ、ずぷんっと勢いよく陰茎が押し込まれた。
 彼の獲物は私だったんだ。
 ここまでされないと気がつかなかったのは、性に対してあまりに無知だったから。

「ぃっ……!」
「これは、じいちゃんを裏切る行為じゃない。じいちゃんの命を繋げる行為だから」

 彼はそう言って、ゆっくり腰を揺らした。
 痛みはあるけど、それを上回る快楽に私は溺れる。

 今の私には彼の言うことがちっともおかしいと思わない。
 この熱が、どうしようもなくて、どうにも欲しくて、彼にしがみつき、唇を求めた。

「可愛い、一生、大事にするからっ……俺と生きて!」

 その夜、何度も何度も彼に抱かれて、私は快楽を、男というものを知った。

 番が清い関係を押し通したのも、私が無垢だったからで、身体を繋げるという行為を知っていたら、きっと番の孫とも縁を結ぶことはなかったと思う。
 
 それから、猟師をしている彼が山小屋に住むようになり、毎晩、当たり前のことのように抱かれた。
 それはあっという間に私の孤独な夜を埋めた。

 夜中に目覚めても一人じゃない。
 抱きしめてくれる腕がある。
 安心して私はその腕に身を委ねた。

 数ヶ月ほどして私は体の異変に気づいた。

 私達は私の体調の良い時に妊娠と結婚の知らせを、麓の家族の元へ知らせに行った。
 彼は心配ないよと言っていたけれど、反対されるのではないかと思った。

「おめでとう」
「よかったわ。幸せになってね」

 誰一人反対しなかったのは、番が遺した手紙に、清い関係であること、孫の誰かと結婚してくれたら嬉しい、と記してあったから。
 心の奥で、孫にも番が現れたどうなるのだろうと思いつつ、私は番と血の繋がった子供を手に入れるのだから、その時は仕方ないときっと思うのだろう。

「子ども、たくさん欲しいわ」
「もちろんだ。賑やかな家庭にしよう」
 







******


 お読みいただきありがとうございます。
これって、手放しで喜べないような、でもハッピーなのかなぁというもやもやエンドかもしれません。
 
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

マイナー18禁乙女ゲームのヒロインになりました

東 万里央(あずま まりお)
恋愛
十六歳になったその日の朝、私は鏡の前で思い出した。この世界はなんちゃってルネサンス時代を舞台とした、18禁乙女ゲーム「愛欲のボルジア」だと言うことに……。私はそのヒロイン・ルクレツィアに転生していたのだ。 攻略対象のイケメンは五人。ヤンデレ鬼畜兄貴のチェーザレに男の娘のジョバンニ。フェロモン侍従のペドロに影の薄いアルフォンソ。大穴の変人両刀のレオナルド……。ハハッ、ロクなヤツがいやしねえ! こうなれば修道女ルートを目指してやる! そんな感じで涙目で爆走するルクレツィアたんのお話し。

社長の奴隷

星野しずく
恋愛
セクシー系の商品を販売するネットショップを経営する若手イケメン社長、茂手木寛成のもとで、大のイケメン好き藤巻美緒は仕事と称して、毎日エッチな人体実験をされていた。そんな二人だけの空間にある日、こちらもイケメン大学生である信楽誠之助がアルバイトとして入社する。ただでさえ異常な空間だった社内は、信楽が入ったことでさらに混乱を極めていくことに・・・。(途中、ごくごく軽いBL要素が入ります。念のため)

イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?

すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。 翔馬「俺、チャーハン。」 宏斗「俺もー。」 航平「俺、から揚げつけてー。」 優弥「俺はスープ付き。」 みんなガタイがよく、男前。 ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」 慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。 終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。 ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」 保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。 私は子供と一緒に・・・暮らしてる。 ーーーーーーーーーーーーーーーー 翔馬「おいおい嘘だろ?」 宏斗「子供・・・いたんだ・・。」 航平「いくつん時の子だよ・・・・。」 優弥「マジか・・・。」 消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。 太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。 「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」 「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」 ※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。 ※感想やコメントは受け付けることができません。 メンタルが薄氷なもので・・・すみません。 言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。 楽しんでいただけたら嬉しく思います。

生贄にされた先は、エロエロ神世界

雑煮
恋愛
村の習慣で50年に一度の生贄にされた少女。だが、少女を待っていたのはしではなくどエロい使命だった。

これ以上ヤったら●っちゃう!

ヘロディア
恋愛
彼氏が変態である主人公。 いつも自分の部屋に呼んで戯れていたが、とうとう彼の部屋に呼ばれてしまい…

明智さんちの旦那さんたちR

明智 颯茄
恋愛
 あの小高い丘の上に建つ大きなお屋敷には、一風変わった夫婦が住んでいる。それは、妻一人に夫十人のいわゆる逆ハーレム婚だ。  奥さんは何かと大変かと思いきやそうではないらしい。旦那さんたちは全員神がかりな美しさを持つイケメンで、奥さんはニヤケ放題らしい。  ほのぼのとしながらも、複数婚が巻き起こすおかしな日常が満載。  *BL描写あり  毎週月曜日と隔週の日曜日お休みします。

寝室から喘ぎ声が聞こえてきて震える私・・・ベッドの上で激しく絡む浮気女に復讐したい

白崎アイド
大衆娯楽
カチャッ。 私は静かに玄関のドアを開けて、足音を立てずに夫が寝ている寝室に向かって入っていく。 「あの人、私が

一宿一飯の恩義で竜伯爵様に抱かれたら、なぜか監禁されちゃいました!

当麻月菜
恋愛
宮坂 朱音(みやさか あかね)は、電車に跳ねられる寸前に異世界転移した。そして異世界人を保護する役目を担う竜伯爵の元でお世話になることになった。 しかしある日の晩、竜伯爵当主であり、朱音の保護者であり、ひそかに恋心を抱いているデュアロスが瀕死の状態で屋敷に戻ってきた。 彼は強い媚薬を盛られて苦しんでいたのだ。 このまま一晩ナニをしなければ、死んでしまうと知って、朱音は一宿一飯の恩義と、淡い恋心からデュアロスにその身を捧げた。 しかしそこから、なぜだかわからないけれど監禁生活が始まってしまい……。 好きだからこそ身を捧げた異世界女性と、強い覚悟を持って異世界女性を抱いた男が異世界婚をするまでの、しょーもないアレコレですれ違う二人の恋のおはなし。 ※いつもコメントありがとうございます!現在、返信が遅れて申し訳ありません(o*。_。)oペコッ 甘口も辛口もどれもありがたく読ませていただいてます(*´ω`*) ※他のサイトにも重複投稿しています。

処理中です...