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異世界で仕事か子どもか葛藤することになるとは思わなかった[改稿版] ※
しおりを挟む* 以前あげていた話です。ふわっとした世界観で、異世界で妊娠について葛藤する話です。ご都合主義を念頭にお読みいただけると幸いです。大きくは変わっていません。獣人、番もの。甘めです。
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私は異世界でカフェのオーナーをしている。
二十三の時、この世界に飛ばされて生き抜くためにカフェをオープンさせた。
五年経った今、なかなか順調に経営できていると思う。
異世界でカフェなんて、あるあるだけど私は高校時代からカフェでアルバイトしていたし、他に稼ぐ手段はなかったから、とりあえずクレープを焼いた。
クレープしか作ることができなかった、とも言う。
本当はパンケーキにしたかったけど、この世界にベーキングパウダーも重曹も見当たらないし、毎回卵を立てるのもしんどい。
結果、粉と水さえあれば作れるクレープに落ち着いた。
卵も牛乳もあったし、ほんの少しの塩と糖蜜のおかげで、よりおいしくできるようになったと思う。
甘いものをはさんでもいいし、肉や野菜をはさんでもいいし、応用がきくから。
こっちの道具でうすく綺麗に焼くのにしばらく時間がかかったけど、今は常連さんがいるくらい順調。
そんな私に彼氏ができた。
異世界で初めての彼氏。しかも獣人。
日本にいた時からだと六年ぶりになる。
私が大好きだと言う彼は、いつでも甘い。
彼と出会ってすぐ、私達は体を重ねた。
なぜか、当たり前のようでそれが自然のことに感じて。
彼は私を番だと言ったけど、その感覚は私にはわからない。
でもそれでいいと思っている。
「ユカ、結婚したい。子ども欲しい」
やっと軌道に乗った仕事。
結婚はともかく、子ども?
子どもができたら今までのように働けなくなる。
そしたら、ここまで苦労したのが水の泡じゃない?
「ゆっくり考えて。俺はいつまでも待つし、ユカしか考えられないから」
そう言って今日も彼はとても丁寧に私を抱く。
いつも、大好きだって、愛してるってたくさんの言葉をかけてくれてものすごく幸せな気持ちになった。
私を注意深く見て繋がってからも驚くぐらい忍耐強い。
「かわいい……このまま中に出したいけど、我慢する……あぁ、早く孕ませたい。……俺のでいっぱいにして、たくさん産んで欲しいんだ」
この世界の避妊方法は原始的だ。
中で出さない。
これが避妊方法の一つだなんて残念けど、あやしげな薬草を飲む気にもならない。
効果も不確からしいから。
基本的には結婚相手としかセックスはしないし、万一妊娠しても結婚の時期が早まるこの世界。
二人の初めての時は中に出されて、さすがに怒ってお互いの価値観を話し合ったし、次の生理が来るまでドキドキした。
種族が違うから中々子どもはできづらいと後から知ったけど。
リスクを考えたらしなきゃいいのに、恋人には触れたくなる。
「ユカ……これじゃ、物足りないよ。……出したら、さ……もう一回しよう」
ぐちゅぐちゅと私の中をかき回し、ぱちゅんぱちゅんと水音を立てながら大きく揺さぶる。
「あ、あぁっ……いいっ、……っ」
彼のモノは人間より硬い、かも。
コツコツ奥をえぐられるとしびれるような甘さが広がる。
気持ちいい。
「かわいいっ……まだ、イきたく、ないなっ……」
そう言って私を絶頂に押し上げる。
私の足首を持ち、剛直を抜かないまま、くるりとうつ伏せにされた。
「待って……! まだっ……あぁっ‼︎」
のしかかるようにして何度も何度も腰を打ちつけ、がぶりと肩に噛みつかれて私もますます興奮して喘ぐ。
きっと朝には歯型が残っていると思う。
そこをぬるりと舐められて体が震えた。
「噛みつかれるの、好き? ナカ、すっごく締まる」
「もう、噛んじゃ、だめっっ‼︎」
うなじのあたりで彼が低く笑い、耳たぶを食んだ。
「……あぁ……、ほんと、好き……早く、まるごと僕のものになって」
彼の熱い息にぶるりと体が大きく震える。
腰を引き上げられて陰核を弄びながらゆっくり抽挿するから、奥まで欲しくてきゅうきゅう内壁が動く。
「かわいいなぁ……」
長い時間揺さぶられているけど、彼はまだ一度も射精してない。
「お願いっ! 一緒に、いこっ!」
彼は私がそう言うのを待っていたかのように、速度を上げて、私が達するのを見届けてから、私の背中に欲望を吐き出した。
「もう、一回ね?」
にっこり笑う彼に、ちょっと休ませてって答えた。
いつまでも待つと言われたけど、彼との結婚を考えざるを得ない状況はすぐやってきた。
生理が来たのは多分、一月半前くらい。
疲れやすい気がする。
いつでも眠い。
なんだか食欲がわかない。
そして、特定の食べ物の匂いが気になる。
歳の離れた姉が妊娠した時、ご飯の炊ける匂いがだめになったって言ってた。
それを聞いた母は食べ続けていないと気持ち悪かったって答えていたし、叔母はなんともなかったって言ってたから、人それぞれなんだと、ぼんやり聞いていたのだけど。
これは困った。
バターの匂いが気持ち悪い。
仕事に支障が出る。
これまでだったら、食欲を誘ういい香りだったのに。
ただの胃もたれだったらいい。
ただ、疲れが溜まっているのかもしれないし。
いつもより胸が張ってる気もするけど、もともと遅れがちな生理だし。
とりあえず、病院へ行こう。
「多分、妊娠してるね。まぁ、もう少ししないと確実とは言えないけど……あれだろ? 相手、多産系の彼氏」
「種族が違うから妊娠しづらいってきいてたんですけど。多産……そう言うのって、男性側も関係あります?」
私と一回りも違わない女医さんが、聴診器のようなものをお腹に当てながら言う。
「一般的にはあまり関係ないけど、種が強いんじゃない?」
「タネ……」
「まぁ、無理しないこと、体調がおかしかったらすぐ来るか私を呼ぶこと……迷ってるなら、彼氏とよく相談して」
「はい」
「二週間後」
タイムリミットもそれくらいなのかな、この世界では。
家に向かいながら考える。
妊娠の可能性を伝えたら、彼は喜ぶと思う。
私も結婚するなら彼しかいないと思っている。
でも、仕事は?
せっかくうまく回り始めたのに。
タイミングが悪すぎる。
匂いに関してはいつまで続くんだろう?
とりあえず、マスク代わりにスカーフをしたらなんとかなるかも?
だけど、今後も体調不良で仕事ができなくなったら?
それに、子どもが産まれてしばらくはお店を開くどころじゃないと思う。
週に二日ずつ入っているアルバイトの二人に、もっと入ってもらうとか?
そんなことできる?
任せてもいいもの?
姉は落ち着いてご飯を食べることができないって嘆いていたし、幸せそうではあったけどいつでも寝不足だって言ってた。
育休もとって母が手伝いに行ってもその状態だったのに、私は仕事を抱えて育児ができるのだろうか?
結局私はどうしたいだろう。
答えはあっさり出た。
そんなの一つしかない。
産みたい。
それ以外考えられない。
仕事をどうするか、そこだけ。
「妊娠したかもしれない」
もっとかわいく伝えたってよかったのに、私の口からすべり落ちたそれ。
彼の耳がピンと立って大きな目をうるうるさせて私を見つめる。
「産んで! 結婚しよう、今すぐ」
迷いなく言う彼を改めて好きだと思う。
「うん……産みたい。ただね、私……仕事は辞めたくない。せっかく頑張ってきたから」
「仕事……は、身体に気をつけることができるなら続けてもいいと思う。しばらくは営業時間短縮してアルバイトの二人にもっと入れないか相談して、それか思い切って隔日営業とかさ……俺も休みの時は手伝うし……もしもの時は少し休んで、新装開店として新メニュー追加して宣伝してもいいと思うし。それで、俺と結婚は……?」
スラスラと具体案を出す彼はとっくに二人の未来を考えていたのかも?
そんな彼はへにょりと耳を下げて自信なさそうに私を見る。
彼となら、この先の苦労も頑張れる気がする。
「結婚しよ」
そう言った私を思い切り抱きしめた。
「丸ごと愛してる。ちゃんと守るし、協力するよ」
それから妊娠が確実なものとなって、彼がうちに移り住み、仕事に行く前に生地の仕込みをしてくれる。
開店の準備にアルバイトがやってきて、数種類のクレープを作り置きして持ち帰れるようにして、飲み物も太陽の光を浴びた水出し紅茶のサンティーとその日の気分で作るハーブティーのみ。
営業時間は昼前からおやつの時間まで。
売り切れたらおしまい。
イメージはファーストフードと一緒。
味気ないって文句を言いつつその場で食べていく人もいたけど、お土産に持ち帰る人が増えて、想像したより売り上げが落ちなかった。
産月が近づく頃にはお店はアルバイトに任せて裏に控えて出産に備え、もう一人アルバイトを雇った。
無事に産まれた後はしばらくは育児に専念。
彼と二人、わからないことだらけで右往左往しながら日々過ごしている。
でも彼の労いと愛情と協力があるから、産んで良かったと本当に思う。
「この子の首が座ったら、私も仕事復帰する」
「……わかった。無理をしないってことだけ約束して。…………大変な時は必ず言うこと。それから、なんでも相談して。俺が気づかないことも多いだろうから、ため込まないで言って欲しい」
「うん、ありがとう……」
腕の中ですやすや眠る我が子をしばらく眺めてから顔を上げると、彼から労わるような口づけが落とされた。
彼は言ったことを守る男で、そんな姿をますます好きになって。
私はこの後五人の子どもを産み、彼と一緒に育てつつ、時々新しいメニューを考案しながらカフェを営むこととなった。
夢を叶え、彼と出会って、私はたくさんの幸せを手に入れることになる。
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お読みいただきありがとうございます。
(ご都合主義です……)
応援ありがとうございます!
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