3 / 10
過去
ダンスを
しおりを挟むレオが十六歳になって、成人した。
もう結婚だってできる……私が十三歳じゃなかったら。
「ジュジュ、踊っていただけますか」
レオが差し出した手に、そっと私の手を重ねる。
叔母様がピアノの前に座った。
今度初めてレオが舞踏会に出ると聞いて、羨ましい気持ちと寂しさと、なぜか不安になってしまった私に、今日は特別な時間。
お母様達がこれは本番と同じよ、って小さな舞踏会を開いてくれた。
レオは焦茶色の髪に碧い瞳で、顔立ちも整っていて背も高い。でも、優しげな雰囲気だから仲良くしたいと思ってしまうし、一緒にお茶会に出るとみんなが彼を見つめる。
『レオはすごく、ものすごくもてるのね。……みんな見てるもの。私、心配だわ』
『……みんなが見ているのは、ジュジュだよ。今でもこんなに……綺麗なのに、デビューするのが心配だな』
少し前にそんな会話をしたのを思い出す。
会うたびにレオが大人っぽく、格好よくなっていくから、私だって綺麗に見えるように夜更かししないとか、甘いものを食べすぎないとか、すごくつらいけど気をつけている。
だから、レオに褒められると嬉しかったし、もっと頑張ろうって思えた。
「レオ、私がデビューする時は絶対にレオが一番に踊ってね」
レオは二つ年上の従姉妹をエスコートして、ダンスを踊ると聞いている。
従姉妹とは会ったこともあって、彼女は年下なんて興味がないと言っていたし、心配しなくてもいいはずなのに……これはやきもちなのかな。
レオが柔らかく笑う。
「もちろん」
私の手をぎゅっと握る。
それを見て叔母様がピアノを弾き始めた。
四組で踊る、カドリーユ。
辺境伯夫妻に、公爵夫妻、お兄様と婚約者、そして私達。
ずっとレオと踊れるわけではないけれど、みんなで手をつないで大きく回ったら、お辞儀をし合って、パートナーを替えながらステップを踏む。
女性同士で手を取り合ったりするから、少し複雑だけど、覚えてしまえばみんなで楽しめるダンスだと思う。
みんな近しい人達だから、間違っても大丈夫と思える気楽さがあってのびのび踊ることができた。
踊り足りないのは私達と、お兄様。
お兄様達は来月結婚するのだけど、いつ見ても友達同士みたいにみえる。
お兄様の婚約者のカサンドラは伯爵令嬢で、薬草についてすごく詳しくて変わり者だと言われているし、実際そうだと思う。
でも、とても面白い方でお兄様も同じように思っているみたい。
ジュジュ達みたいにお互いが好き合っている関係が珍しいって言われたし、レオのことで困ったことがあれば俺に言えよって。
お兄様はレオより四つ年上だからすぐに相談した。
レオのことが好き過ぎて困るって。
少し黙った後、よかったなって肩を叩かれて、助言をもらうことができなかった。
せっかく相談したのに!
「叔母様、ワルツを弾いてもらえませんか?」
お兄様がそう言うと、カサンドラが驚いた顔をして後ろに一歩下がった。
「……私、ワルツはちょっと……」
「カサンドラ、たまには練習しておこう。ここでなら、いくらでも足を踏んでいいんだから」
カサンドラはワルツが苦手みたい。
私はレオを見上げた。
「ジュジュに踏まれることくらい、たいしたことじゃない」
「……ありがとう。頑張ってみる」
私達の会話を聞いて、カサンドラがため息をついて言った。
「ごめんなさい。先に謝っておくわ」
カサンドラがお兄様の肩に手を置いた。
それを合図に叔母様がピアノを奏で、私達は踊り出した。
カドリーユと違って、二人の距離が近いから、どきどきする。私だって背が伸びているのに、レオがどんどん大きくなって見上げてばかり。
以前言われたように、レオに包まれて守られている気持ちになるけれど。
「……ジュジュ、上手だな」
「本当? ダンスは好きだし、いっぱい練習しているわ! それに……甘いものを食べすぎちゃった時も動くといいかなって」
「ジュジュは少しくらい太っても、綺麗だよ。……会うたびに綺麗になるから、心配になる」
「心配?」
レオに綺麗と思われるのは嬉しいけれど、どうして心配するんだろう。
私はレオしか見てないし、結婚するのもレオなのに。
「他の男に奪われないか、って。あと三年もあるから」
「私だって思うわ。レオと会うたびに格好良くなるから、他の女の人に取られないかって心配になるの……あの、私はレオだけが好きだから、安心してね」
小声でそっと伝える。
元々近い距離がもっと狭まって、恥ずかしい。
「俺も。……ジュジュだけだから」
心臓がキュンとなって、胸が苦しい。
どうしよう。大好きでたまらない。
「結婚するのが、レオで本当によかった」
******
お読みいただきありがとうございます。
カドリーユ(カドリール) フォークダンスの一種です。念のため。
2
お気に入りに追加
1,138
あなたにおすすめの小説
誰にも言えないあなたへ
天海月
恋愛
子爵令嬢のクリスティーナは心に決めた思い人がいたが、彼が平民だという理由で結ばれることを諦め、彼女の事を見初めたという騎士で伯爵のマリオンと婚姻を結ぶ。
マリオンは家格も高いうえに、優しく美しい男であったが、常に他人と一線を引き、妻であるクリスティーナにさえ、どこか壁があるようだった。
年齢が離れている彼にとって自分は子供にしか見えないのかもしれない、と落ち込む彼女だったが・・・マリオンには誰にも言えない秘密があって・・・。
どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします
文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。
夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。
エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。
「ゲルハルトさま、愛しています」
ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。
「エレーヌ、俺はあなたが憎い」
エレーヌは凍り付いた。
呪いを受けて醜くなっても、婚約者は変わらず愛してくれました
しろねこ。
恋愛
婚約者が倒れた。
そんな連絡を受け、ティタンは急いで彼女の元へと向かう。
そこで見たのはあれほどまでに美しかった彼女の変わり果てた姿だ。
全身包帯で覆われ、顔も見えない。
所々見える皮膚は赤や黒といった色をしている。
「なぜこのようなことに…」
愛する人のこのような姿にティタンはただただ悲しむばかりだ。
同名キャラで複数の話を書いています。
作品により立場や地位、性格が多少変わっていますので、アナザーワールド的に読んで頂ければありがたいです。
この作品は少し古く、設定がまだ凝り固まって無い頃のものです。
皆ちょっと性格違いますが、これもこれでいいかなと載せてみます。
短めの話なのですが、重めな愛です。
お楽しみいただければと思います。
小説家になろうさん、カクヨムさんでもアップしてます!
いつか彼女を手に入れる日まで
月山 歩
恋愛
伯爵令嬢の私は、婚約者の邸に馬車で向かっている途中で、馬車が転倒する事故に遭い、治療院に運ばれる。医師に良くなったとしても、足を引きずるようになると言われてしまい、傷物になったからと、格下の私は一方的に婚約破棄される。私はこの先誰かと結婚できるのだろうか?
届かぬ温もり
HARUKA
恋愛
夫には忘れられない人がいた。それを知りながら、私は彼のそばにいたかった。愛することで自分を捨て、夫の隣にいることを選んだ私。だけど、その恋に答えはなかった。すべてを失いかけた私が選んだのは、彼から離れ、自分自身の人生を取り戻す道だった·····
◆◇◆◇◆◇◆
すべてフィクションです。読んでくだり感謝いたします。
ゆっくり更新していきます。
誤字脱字も見つけ次第直していきます。
よろしくお願いします。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
「離婚しよう」と軽く言われ了承した。わたくしはいいけど、アナタ、どうなると思っていたの?
あとさん♪
恋愛
突然、王都からお戻りになったダンナ様が、午後のお茶を楽しんでいたわたくしの目の前に座って、こう申しましたのよ、『離婚しよう』と。
閣下。こういう理由でわたくしの結婚生活は終わりましたの。
そう、ぶちまけた。
もしかしたら別れた男のあれこれを話すなんて、サイテーな女の所業かもしれない。
でも、もう良妻になる気は無い。どうでもいいとばかりに投げやりになっていた。
そんなヤサぐれモードだったわたくしの話をじっと聞いて下さった侯爵閣下。
わたくし、あなたの後添いになってもいいのでしょうか?
※前・中・後編。番外編は緩やかなR18(4話)。(本編より長い番外編って……orz)
※なんちゃって異世界。
※「恋愛」と「ざまぁ」の相性が、実は悪いという話をきいて挑戦してみた。ざまぁは後編に。
※この話は小説家になろうにも掲載しております。
【短編】旦那様、2年後に消えますので、その日まで恩返しをさせてください
あさぎかな@電子書籍二作目発売中
恋愛
「二年後には消えますので、ベネディック様。どうかその日まで、いつかの恩返しをさせてください」
「恩? 私と君は初対面だったはず」
「そうかもしれませんが、そうではないのかもしれません」
「意味がわからない──が、これでアルフの、弟の奇病も治るのならいいだろう」
奇病を癒すため魔法都市、最後の薬師フェリーネはベネディック・バルテルスと契約結婚を持ちかける。
彼女の目的は遺産目当てや、玉の輿ではなく──?
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
不実なあなたに感謝を
黒木メイ
恋愛
王太子妃であるベアトリーチェと踊るのは最初のダンスのみ。落ち人のアンナとは望まれるまま何度も踊るのに。王太子であるマルコが誰に好意を寄せているかははたから見れば一目瞭然だ。けれど、マルコが心から愛しているのはベアトリーチェだけだった。そのことに気づいていながらも受け入れられないベアトリーチェ。そんな時、マルコとアンナがとうとう一線を越えたことを知る。――――不実なあなたを恨んだ回数は数知れず。けれど、今では感謝すらしている。愚かなあなたのおかげで『幸せ』を取り戻すことができたのだから。
※異世界転移をしている登場人物がいますが主人公ではないためタグを外しています。
※曖昧設定。
※一旦完結。
※性描写は匂わせ程度。
※小説家になろう様、カクヨム様にも掲載予定。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる