お菓子大好き修道女見習いの伯爵令嬢はコワモテ領主の婚約者になるようです

能登原あめ

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17 結婚式

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 背中の大きく開いたドレスは、ガルシア伯爵夫人にもバレンティ様が驚いて喜ぶわよと勧められたもの。

 ヴェールで背中は隠れるから心配しなくていいと言われて安心した。
 大人っぽくて少し恥ずかしかったけど、バレンティ様の視線が釘づけで、気に入ってくれたのかも?

「どうしてこんなに裾が長いんだ……」

 ドレスの裾がバージンロードの半分くらい隠れる長さで、とても綺麗だってみんなのささやきが聞こえる。
 でもバレンティ様は私の後ろにぴったり立てないのが不満らしい。

「おかしいですか? ガルシア伯爵夫人がこのくらいあったほうがいいって言っていました」
 
「もちろん、すごくきれいだ。だが、その裾の布地でなぜ背中を覆ってしまわなかったのか……綺麗すぎて誰にも見せたくないのに」
 
「裾の長さが幸せの象徴だと聞きました」
「そうか、長くて美しいな」
「はい」

 妊娠中のお姉様からお祝いの手紙とプレゼントが届いて、最新の流行のドレスのことも細かく書かれていた。ウェディングドレスの裾が長ければ長いほどいいんだって。
 
 産み月だから今日は来れなくて残念だけど、プレゼントの一つ、真珠が縫いつけられた美しいリボンを髪に編み込んでもらったから近くにいるみたいで心強い。子どもが産まれたら会いに行く予定でいる。
 
「だが、レアルの背中が」
「ヴェールで隠れていませんか?」
「多分、遠目には。俺にはよく見えて困る」

 時々バレンティ様の大きな手が背中に触れる。
 私が転ばないようにするためや、移動するためなのだけど、素肌に触れられると私もドキドキした。

 ガルシア伯爵夫人はバレンティ様だけじゃなくて私も驚いてドキドキすることまでわかっていたのかも。
 初々しい新郎新婦ね、って笑っていたから。

 結婚式の後に修道院で作られた甘いお菓子たちが振る舞われて、修道女たちにもお祝いされているみたいで嬉しくなった。

「フォンダンのかかったドーナツまであるんですね。私も食べたいです」

 プレーンのドーナツだけじゃなくて、クリーム状にした砂糖衣がかけてあるドーナツは年に一度のお祭りの時しか作らなかったのに。

「わかった、あとで俺たちの分をたっぷりもらおう。きっと、すごくお腹が空くから」
「はい……?」

 結婚式の後はこのまま私たちは湖のほとりに建つ別荘へ向かう。そこで一週間ほどゆっくり過ごすことになっている。

「今夜はお菓子パーティーですね! 楽しみです」
「…………ガルシア伯爵夫人から、今夜のことは何か聞いていないか?」

 そういえば、本当は母親が説明するのだけどって説明があった。

「バレンティ様は優しいからがっつかないだろうって。仲良くすればいいって言われました」

 お菓子の取り合いなんてするつもりもないし、バレンティ様が食べたかったら私はその分少なくていいかな。
 お菓子を好きなだけ食べていいなんて、今まで許されなかったけど、今日は特別な日なのだと思う。
 二人で分かち合えばいいんだよね?
 
「…………」

 バレンティ様は黙ってしまって、近くにいたベルニ様が笑い声を上げた。

「バレンティ、ごめん。母様の代わりに謝っておくよ」
「ベルニ様?」

 ガルシア伯爵夫人は結婚式までに、社交界のことや礼儀作法、なんでも教えてくれた。結婚式の準備だって大変だったと思う。
 何か私、間違って覚えたのかな?

「レアル、大丈夫だよ。母様は間違ったことは言っていないけど説明不足だなと思って。この後、バレンティが」
 
「ベルニ!」

 なぜかバレンティ様は顔を真っ赤にしてベルニ様に詰め寄った。
 もしかして、お菓子パーティーのこと知られたくなかったのかな。そういうのって内緒のお楽しみだもの。

「バレンティ様、もしかして独り占めしたかったんですか? いっぱい食べていいですよ」

 なぜかバレンティ様はもっと真っ赤になって、ベルニ様は笑いが止まらなくなった。
 結局よくわからないまま私は先にドレスを着替えることに。

「楽しんできてね」
「ありがとう、ベルニ様」
「黙れ、ベルニ」

 最後までバレンティ様とベルニ様は軽口を叩いていて、本当に仲良しだなと思う。
 それからみんなに見送られながら湖の別荘へと向かった。






「お待ちしておりました」

 別荘に着いて、ひとまわり案内してもらった後、私たちはそれぞれ湯浴みをして、私は特別にマッサージや肌の手入れをしてもらった。
 
 結婚したのだからと、薄地の丈の短いナイトドレスを着ることになって落ち着かない。
 ツルツルした薄手のガウンを羽織っても、何も着ていないみたいで、ソワソワした気分のまま部屋に案内された。

「わぁ、大きいベッド!」

 思わず飛び込みそうになって、白や淡いピンクの花びらがまかれていたのに気づいて止まった。

「……レアル」
「あ、バレンティ様……あ、えと、ごめんなさい。見てました?」

 子どもみたいにはしゃいで恥ずかしい。
 ベッドの端にちょこんと座って、バレンティ様から視線をそらした。
 ソファでお酒を飲んでいたらしいバレンティ様は、ガウンの下は何も着ていないように見える。

「ああ。そっちに行っていいか?」
「ハイ、ドウゾ」

 たくましい体がほとんど隠れていないガウン姿にどこを見ていいのかわからなくて恥ずかしくなった。
 私の隣に座るとベッドが傾いた。

「わっ」
「……大丈夫か?」
「はい」

 私はバレンティ様の上に倒れ込んで、しっかり抱きしめられた。

「可愛い。甘い匂いがする」
「……そう、ですか……?」
「ああ。俺が今夜食べるのは菓子じゃない。レアル、君を」
 
「私を食べるんですか?」
「ああ、そうなるな」
「あの……どこも甘くないと思います。あと痛いのは嫌です。手も足もなくなったら生えてこないから……」

「あぁ、そうだな。なくなったりしない。むしろ……。ところで、レアルは赤ちゃんがどうやってやってくるか知っているか?」

「それは習いました! 女性のお腹が大きくなって局部から生まれるんですよね」
「……局部」

「はい! 私もいつかバレンティ様の子どもが欲しいです。きっと神様がいい時期に授けてくださるんですよね」

「……わかっているのか、わかっていないのか難しいな。いや、大丈夫、なのか……?」

 バレンティ様がブツブツつぶやいた後、私の顔をのぞきこんだ。

「レアル、キスしていいか?」
「はい!」
「…………」
「……柔らかいんですね?」
 
 その後はびっくりすることばかりだったけど、私はバレンティ様と本物の夫婦になって、お菓子を愛する領主夫妻としていつまでも仲良く暮らしたの!



 
 



             終





 

 ******


 お読みいただきありがとうございます。
 この後はR18となりますので大丈夫な方はおつき合いくださいますと嬉しいです。
 
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