こんな愛ならいらない

能登原あめ

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前世の恋は悲恋だった①[改稿版]※

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* 改稿版は主に会話が変わっているかな、と。一話で完結。
* 無理矢理描写あり。ヒーローはヤンデレ気質です。ヒロインはM寄り。婚約後に前世で好きだった人に逢っちゃう話です。







******


 明日アキが結婚する。
 私以外と。

「……お慕いしておりました」

 迷いのない純粋な瞳でまっすぐ話すその姿に、手を伸ばしかけて拳を握る。
 そんな私の手をアキが両手で包んだ。

「ずっと一緒にいたかった……できることなら添い遂げたかった」

 私の言葉にアキが目を瞑る。

「もしも……もしも、来世があるなら……いえ、なんでもありません……」
「アキ……」
「もうお会いすることはないでしょう、さようなら、ナツさん」







 この夢を初めて見た朝は泣いていた。
 ナツとアキは小さい頃から仲が良くて寄り添っていたけれど、成長するうちに互いを意識して離れていき、遠くから見つめるようになっていた。
 想い合っているのに、結ばれることを許されなくて、苦しくて苦い。
 
 断片的に何度も見るこの夢はなぜか現実感があって胸が痛む。

 だから私の中のナツに気づいた。
 私がナツだったことに。
 
 アキを見つけて今度こそ二人で幸せになる、と小さい頃から長い間思い込んで、恋愛もしてこなかった。
 彼氏も作らず二十五を過ぎたあたりで、現実を見なきゃ、と焦りはじめたけど、そんな簡単に彼氏ができるわけでもなく。

 数年経って、恋愛よりスキルアップして仕事頑張ろうと気持ちを切り替えた時に出会ったのが、取引先の洋一郎さんだ。
 休日にばったり会ったのをきっかけに何度か食事に誘われて、そのままつき合うことになった。

 穏やかで優しい人。
 いつまでたっても第一印象と変わらない。
 月に三、四回デートしてそのうちの一回はどちらかの部屋に泊まって過ごす。
 つき合ったのも、キスも何もかも洋一郎さんが初めてだったから、打ち明けた時すごく感激してくれて、優しく導いてくれた。
 初めての痛みはこの人で良かったと、今でも思う。
 一緒にいると、お日様といるようなぽかぽかと心が暖かくなる。
 なんであんなに前世アキにこだわっていたんだろうと思うくらい。

 そんな私はあと三ヶ月で洋一郎さんと結婚する。
 彼の母親の具合があまり良くないから、結婚式はしないけど、両家で集まって食事会をすることになっている。
 そのまま一人暮らしの彼の家に住むつもりで、旅行はしばらく先の連休の予定。
 どこに行くかはパンフレットを眺めながらお互いの希望をすり合わせているところ。
 私たちはまだまだ知らないことが多いから少しずつ知り合って信頼とか愛情を積み重ねて行きたいと思う。
 まあ、ちょっと結婚に踏み切ったのは早かったかもしれないけど、歳をとっても穏やかに暮らす姿が想像できるから後悔してない。
 できることなら子どもも欲しい。








 その日、立ち寄ったのは会社の隣駅にあるカフェバー。
 仲の良い同僚と二人で会社の愚痴を話したり、恋バナをしたり。
 ふと視線を感じて見上げると、マスターに見つめられていた。
 ひげを蓄えているからだいぶ歳上に思えたけど、三十代後半くらいでがっちりした身体をもつ、色気のある男性だ。
 同僚に話しかけられてすぐさま視線を逸らしてしまったけど、もう一度盗み見る。

 彼はアキだ……。
 アキ以外に考えられない。
 まさか、こんなところで会えるなんて。

 その夜は彼と話すことはなく、翌日に一人で訪れた。
 早い時間のせいか、客もまばら。
 カウンターに座り、飲み物を頼んだところで話しかけた。

「あの……」
「ナツさん?」

 口を開いて、なんて切りだそうと迷ったところで、マスターにみつめられながら話しかけられた。

「……はい。アキ、ですね?……今度は私の方が歳下ですね」
「そうみたいだね、会ったらわかるもんなんだな」

 穴が開くんじゃないかと言うくらい見つめてくるからいたたまれない。
 多分、お互いに面影がある程度、魂が憶えているのかも。
 マスターが喉の奥で低く笑って、ごめん、と言った。

「まさか、本当に会えるなんてね思わなかった。俺は堂島だ。……過去は映画みたいなもんだと思ってるけど、あんたはどうだ?」

 突然のあんた呼びにびっくりする。
 一応客商売なのに。
 アキとの違いをみせてくれているんだろうか。
 こちらも簡単に自己紹介してから続ける。

「私も同じです。もうすぐ結婚するんですよ。ただ……驚いています。懐かしさと胸が痛む感じはありますし、映画を観た後みたいに余韻を楽しんだら感想を言いたい気分です」
「うん、わかる。俺は結婚してるんだ。……こうやって見つめていると、色々と思い出すからあの当時の気持ちがよみがえる。でも、今のあんたを好きになるわけじゃない、だろ?」

 ちょっと失礼な物言いだけど、笑って流した。

「私もです。昔はアキを見つけて結婚するって思ってましたけど、ないですね」
「ははっ、そんなこと考えもしなかった。俺はアキとは似ても似つかないからな。これじゃ、つき合ってもうまくいかなかっただろうな」
「そうですね。……また、おしゃべりしに来ていいですか?」
「もちろん、実はもう少ししたら子どもが生まれるんだ」
「おめでとうごさいます! なんだか親戚の子が生まれるような親近感がありますね」



 それから、週に二、三回一杯だけ呑んで、紹介された奥さんのみかさんと楽しくおしゃべりして帰るのが習慣になった。
 とても気が合って、たまに洋一郎さんに返信し忘れるくらい夢中で話した。

 今週末は洋一郎さんも忙しいらしく、特に約束はしていない。
 かわりに土曜日はみかさんとカフェバーで待ち合わせてランチをとってから、一緒にベビー用品を見に行くことになっている。
 彼女は安定期に入り、出産準備品を用意し始めたと聞き、私が姉の出産の時に買い出しにつき合った経験から忙しい堂島さんの代わりをすることになった。
 もうすでに親戚扱いだと思う。
 デパートのベビー服のフロアを一回りした後、お茶にする。

「堂島が荷物を取りに来てくれるって。トイレに行きたいから、もし入れ違いでここに来たら渡してくれない?」
「わかりました。いってらっしゃい」

 みかさんが言った通り、入れ違いで堂島さんがやって来た。

「お店、大丈夫なんですか?」
「昼間は俺がいなくてもみんな慣れてるよ」
「……何か飲んでいきます?」
「うーん、みかのを一口もらう」
「それ、嫌がりそうですけどね」

 さっきまでみかさんが座っていた向かいの椅子に腰かけて、大丈夫だろって笑った。
 二人で軽口を叩きながら待っていると、私の名を呼ぶ低い声が聞こえた。

「きよか」

 顔を上げて驚く。
 見たことのない険しい顔をした洋一郎さんに腕を掴まれ、私はその場を連れ出された。

 どうしてあそこにいたのか、なぜずっと黙っているのか訊きたいのに、声をかけづらい雰囲気に私は黙る。

 連れ込まれたのは洋一郎さんの部屋で、玄関の扉が閉まる前にその場に押し倒された。

「洋っ……んっ!」

 名前を呼ぶ前に唇を塞がれる。 
 上唇に噛みつかれ、痛みに顔をしかめると、強引に舌が滑り込んできた。
 そこにいつも見せる優しさはない。
 上から押さえつけられて、背中に硬く冷たい床が当たる。  

 それから太ももを撫でられ、捲り上がったスカートの中を彼の手が迷いなく進んだ。
 そのまま下着のクロッチをずらして秘裂を撫で、濡れていないそこに乾いた指を突き立てる。
 私が痛みにうめくと、陰核に触れて潤みを引き出した。

 どうしてこんなことになっているんだろう?
 頭の中がなぜでいっぱいだ。

 彼に慣らされた身体は深いキスと的確な指使いで柔らかくほどけた。
 そこへ、何も守られていない剛直が私を貫いた。

「……っ!」

 洋一郎さんが顔を上げて笑った。
 見間違えようのない狂乱が瞳に宿る。
 普段との差に私は怯え、震えた。

「……アイツが好きなのか?」
「違っ……あの人は」
「……嘘つくなよ……最近よく会っていたのは知っている。俺のこと、飽きた?」

 そう言ってゆっくりと抽挿し始めた。

「ああいう、野生的な男が好きなのか?」
「……洋一郎さん、違うっ、あの人……」
「浮気なんて認めない。……結婚するんだから子どもができてもいいよね」

 息を奪うように深く口づけられ、反論したいのに思考もぼやけてくる。
 避妊具をつけない感覚は想像以上に、気持ちよかった。
 彼の丸い先端が奥を突いて、内壁がそのカタチを味わうように締めつける。

 それに私の弱いところばかり突くから、はしたなく濡れて水音が鳴った。
 彼の思うままに腰を打ちつけられて私は声を抑えることもできない。
 見上げれば満足そうに仄暗い笑みを浮かべていた。
 
「無理矢理だったのに、ずいぶん……気持ちよさそうだ。俺が突くと震えて締めつける」

 穏やかで優しいと思っていたのに、私を乱すこの人の側面に、混乱する。
 もしかしてこれが彼の本質なの?

「……俺がきよかに教えたんだ。俺のカタチを覚えさせて、快楽を叩き込んだ。 今日はいつもより感じてるみたいだからこのままたくさん抱くよ。……俺も我慢の限界だ」
「……洋一郎、さんっ、本当に……なんでも、なくて、はっ、あぁっ」

 激しく揺さぶられて、どうしても話させてくれない。
 玄関だから声を抑えなければとか、それさえも些細なことに感じて何も考えられない。
 私が達すると、彼は苦しそうに腰を打ちつけた。

「すごい、締めつけ、だ……」

 生温かいものが中に広がる。
 ああ、中に出されたんだな、と私はぼんやりと彼の顔を見た。
 
「赤ちゃん、できるといいな」
「はい」
「……わかってる?」

 彼が私の身体を上にのせて、口内を嬲る。
 痛んだ私の背中をそっと撫でるから、激情の中でみせる優しさに私はやっぱり彼が好きと思った。
 そうしているうちに柔らかかった彼自身が私の中で力を取り戻し、今度は下から突き上げられた。
 さっき出されたものですべりがよく、粘着音が廊下に響く。
 
「よう、いっ、ろーさん……恥ずか、し……」
「何? これからもっと、いっぱい、出してあげる。早く孕むように」

 脇腹を撫でていた手が、お尻をつかんでぐりぐりと押しつける。
 洋一郎さんが身体を起こして向かい合った。

「ぁあっ、やっ……」

 服の上から胸に噛みつかれ、痛みに涙が溢れる。

「これ感じるの? ナカ、締まるね」

 服の中に手を入れて無理やりブラを上にあげて遠慮なく掴む。
 それから首筋に舌を這わせ、強く吸い上げ痕をつけると、その刺激に震える私を見上げて満足そうに微笑んだ。
 
「きよかの知らない場所をもっと探してあげる」

 鎖骨をガリっと噛まれ、耐えきれず彼の首に腕を回した。

「お願い、やめて……」

 けれど、ふぅ、と息を吐いて私を抱えたまま立ち上がり、私の背を壁に押しつけて何度も何度も突き挿れた。
 
「ほら、イって」

 その言葉だけで、洋一郎さんに慣らされた私は簡単に達した。
 彼はそのまま激しく抽挿して、私の中で二度目の欲望を吐き出す。
 お互い荒く息をついて、抱きしめ合っていたけど、洋一郎さんに脚を下ろされた後、見苦しくない程度に衣服を整えた。
 脚がだるく、一瞬でも気を抜いたら膝から崩れ落ちそう。
 見られているのは気づいていたけど、混乱してたから視線を合わせられない。
 話し合いが必要だけど、今の私には体力も気力もない。
 細く息を吐いたところでとろりと体内から溢れでるのを感じて小さく声を漏らした。

「きよか?」

 いつも愛おしそうに見つめてきた穏やかな男はそこにはおらず、熱を孕んだ瞳でこちらを食い尽くす気でいる男しかいない。
 それが嫌でない自分に困惑した。

「…………」

 急にふわっと持ち上げられて、反射的に洋一郎さんの首に腕を回した。
 こうしていると優しかった時と何ら変わりがないような気がして涙がこみ上げた。

 自分の、わけのわからない感情に揺さぶられて、見えないところでこっそり涙を拭いた。
 そのまま寝室のベッドに運ばれたけど、泣き顔を見られたくなくて、首に回した腕はほどかない。

「きよか、離して」
「……いや」

 洋一郎さんはため息を吐くと、静かに抱きしめた。

「……もう男と二人で会うなよ」
「会って、ない、です。もともと一緒にいたのは、奥さんの方で、妊婦さんだからトイレに行ったところに、旦那さんが荷物を取りにやって来た、だけ、なんです」
「……それなら、あの店に通っていたのは?」

 私も堂島さんも前世の記憶があって、過去に関わりがあったから懐かしくて通っていたと答えた。
 
「洋一郎さんのことも……話してあるんです……結婚するって……だから。……今度一緒に、お店に行きましょう、詳しく説明しますから」
「…………顔上げて」

 こっそり涙を拭ってから顔を上げた。
 泣き顔を見た洋一郎さんが顔中にキスして、ごめんとささやいた。

「きよかのことが好きすぎて暴走した。その話が本当なら、俺は許してもらえるまで何でもする。別れる以外のことなら」
「……次からは、ちゃんと話を聞いてもらえればいいです。……私が好きなのは、洋一郎さんだけです。いつもと違うから……驚いたけど……嫌いには、なりません」

 自分でも不思議だけど、怒りはわかなかった。
 過去の悲恋しか知らない私は、激しく愛されて求められることを知らなかったからなのかも。
 戸惑ったけど受け止めてしまえばすんなり納得できる。
 洋一郎さんが一度強く抱きしめてから顔をのぞき込んだ。

「本当にごめん。愛しくて大事で、でもめちゃくちゃに乱れさせたくてしかたない。早く俺だけのきよかにしたい」
「いいですよ……でも、今度は洋一郎さんに愛されてるって感じながら抱いて欲しいです。私だって、あなたの子どもが欲しいから」

 そうささやいたら、脚を開かれすぐさま剛直に貫かれた。
 驚いて目を見開くと洋一郎さんが口の端を曲げて笑った。

「いつだって愛したい……きよか、本当に愛してるんだ」
「私も、愛しています」

 お互いが繋がっているのも忘れるくらい優しい口づけと包み込むように触れるから、心が癒される。
 私が間違えなければ、彼はきっと、ずっと甘いはず。
 
「大好きです。私、言葉が足りなかったんですね……」

 不安にさせないくらい言葉も態度も示さないとだめなんだと思う。
 恋が実った経験がないから試行錯誤するしかないかも。

「全部知りたい。全部教えて。こっちも遠慮しないから」  

 穏やかなだけじゃない彼の熱に触れて、私は翻弄される。
 ゆっくりと揺さぶられながら見つめ合った。

「まだまだ余裕があるね」
「いつも、ありませんっ……今だって……!」
「そう?」

 二人を繋ぐ場所に手を伸ばされ、陰核の皮を引き上げると擦れるように抽挿し始めた。
 気持ちよすぎて今にもイきそう。

「んはぁっ……」
「きよか、可愛い」

 だけど、イきそうになるとぴたりと動きを止める。

「どこ突いて欲しい? ここ? ここ突くとすごくうねる……おねだりしないとイけないよ?」

 ポイントをはずしてゆっくり揺さぶるから物足りない。
 私の身体はただ熱がこもり、生理的な涙がこぼれ、息もあがって辛い。
 あと少しなのにと、恨みがましく見つめてしまう。

「ほら、なんて言うの?」
「……もっと……洋一郎、さんの……で、突いてっ……もっと、気持ちよくしてっ」
「……あぁ」

 私の中で質量が増す。
 洋一郎さんが言葉少なに激しく揺さぶるから、絶頂に打ち震えた。

「あっっ……」
「もっと、言って? どう、感じるか……知りたい」

 全身が快感に飲み込まれる。
 達しているのに、彼が生み出す熱を受け取り続け、頭の中もそのことしか考えられない。

「言うからぁ、もっとしてっ! あんっ、よう、いちろ、さんの、おちんちん……きもちっ、いい」

 男を知らなかった私が乱れる様に、彼が荒く息を吐く。

「……まだ、イきたくないな」

 快感に浸っている私の脚を持つと、器用にうつ伏せにされた。
 腰だけ高く持ち上げられ、ぐりぐりと奥に押しつけられる。

「んんっ!」

 背中に吸いつかれいくつもの痕を残す。
 続けて陰核と胸を同時に弄ばれて、腰を揺らしてしまった。

「まだ足りないか?」

 息を漏らすように笑われ、時々ゆっくりと奥を突きながら身体中を撫で回して痕を増やし、じわじわと煽っていく。

 物足りない。
 もっと動いて欲しい。 
 私の中の大きな存在感だけが頼りで。
 内壁に力を入れて締めつける。
 すると、中でぐりんと動いた。
 
「きよか、ちゃんと言わなきゃわからないよ?」
「……おねがいっ……おちんちんで、ぐりぐりして! いっぱいこすって、中にくださいっ」

 洋一郎さんは短く息を吐くと、わかったと呟いてから思い切り揺さぶり始めた。
 じゅぷじゅぷと水音が鳴り、お互いの肌が触れ合う音が部屋に響く。
 獣みたいに交わるのも初めてだったけれど、脳内が麻痺して気持ちのいいことしか考えられない。

「しんじゃう、こんなのっ……」
「ほら、まだ足りないだろ」

 耳元で吹き込まれた後、がぶりとうなじを噛まれた。

「あっ‼︎」

 痛いのにさらなる高みへとのぼりつめる。
 身体がびくびくと震え、一切の思考を放棄した。
 私の腰を持つ手に力が入り洋一郎さんはぐっと強く押しつけて白濁を吐き出す。
 ゆるゆると腰を振ってひくつく内壁を味わってからゆっくり引き抜いた。
 
「んぅ……」

 私は小さく息を漏らした後、洋一郎さんにあおむけにされてねっとりとした口づけを受けた。
 そのまま全身の力が抜けぼんやりしていると、上から覗き込まれて抱きしめられる。
 
「きよか……愛してる」

 これまで相当我慢してたのはわかったけど、毎回これだと日常生活が送れないかもしれない。
 
「私も愛してます。……あの、こんな風にするのは……たまに、がいいです」
「うん、ありがとう。たまにはこんな風にしよう」

 言い方、間違えた?

「…………仕事のない日で」
「いつ辞めてもいいからね」
「えっ、と……今の仕事、気に入ってるので」

 余計な心配をかけてストッパーをはずしてしまった過去の自分を罵りたい。
 今の洋一郎さんが嫌なわけではないけれど、こんなにわけのわからなくなる濃厚な営みは知らなくても生きていけたはず。
 知ってしまった今は……複雑だけど。
 とりあえず彼が落ち着くまでつき合うしか無いのかな。







***



「はじめまして、堂島です。こっちは妻のみかです。……この間は行き違いがあったようですね。大丈夫でしたか?」

 にやにやしながら私の顔と恋人つなぎをしている手をちらっと見る。 
 何か言いたそうにしていたから、私から先に口を開いた。

「少し話したけど、前世で私はナツと名乗っていて、マスターはアキだったんです……それで、私達は兄妹でした。お互いに不思議と覚えていて、ここで出会ったので昔話をしていました」
「からかっているわけじゃないですよ。妻のみかも知ってますから。妹の俺が、現在歳上なのが気になって、お互いの記憶をすり合わせていたんですよ……多分流行病か何かで先に命を落としたのでしょうけど」
「なぜ憶えてるかはわかりませんが、映画を観た後のような気分なんです。それ以上のことは何一つ、ありませんから」

 私の言葉に不思議なことがあるんだなと洋一郎さんが言う。
 テーブルの下で握り合わせた手に力が込められた。

「心配無用ですよ。俺はみか一筋なので」

 相変わらずにやにやしたままの堂島さんが私達を見て言う。
 洋一郎の豹変を知っている身としては、二人が禁断の恋に落ちていたことは絶対に秘密にするつもり。
 これは一度一人で来て、からかわれるのを覚悟で口止めしないと。

「はい、大丈夫ですよ。むしろ、二人の仲が深まりました。ありがとうございます」

 洋一郎がにっこりと爽やかに笑って続けて言う。

「それに、もしかしたら同級生が生まれるかもしれませんしね」
「洋一郎さんっ、気が早いですよっ!」

 赤くなった私にみかさんが笑った。

「それは楽しみだね」
 






 
              終
 






******


 お読みくださりありがとうございました。
 初期の作品です、お恥ずかしい。


 


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