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しおりを挟む13歳で優秀な生徒だけが通える寄宿学校に入学したレジナルドは、勉強と研究が忙しいと言って16歳になって初めて屋敷に帰ってきた。
まっすぐ愛情を受けて育った彼は、ジョン・ジョーを若くしたら今の姿なのだと思うくらい見た目は似てきたけれど、中身はとても聡明で、ライナスの影響を強く受けている。
来月から海を渡って留学し、そのまましばらくは帰ってこれない。
学業のことはライナスとやりとりをしていて、カトリオーナが聞くのは父子で相談して決めてから。
それは少し不服でもあるけど、2人のことを信用しているから口に出さなかった。
「すごく頑張ったのね。とても高度な研究機関だって聞いているわ」
「……学ぶことは楽しいです。これからも頑張ります」
レジナルドは照れ笑いした。
寄宿学校に入ってから、話し方まで変わっている。
成長を感じて嬉しいのに、離れていく寂しさを感じていた。
息子はこのまま研究職につくことになるかもしれない。
寄宿学校で出会った侯爵令嬢に見染められ、その父親から今後のためにぜひにと言われた。
しっかり学んで、誰にも文句を言わせないくらいの立場を手に入れることが彼の目標。
すでにレジナルドには侯爵家のサポートがついていて、結婚への道筋ができているのだとか。
もちろん自分たちも息子を応援することに決めた。
一月の間、家族全員が勢ぞろいしたからとても賑やかで、毎日がものすごく楽しい。
あと数年したら次男も学校に通うようになる。
全員がそろうこともだんだん少なくなってしまうのだろう。
考えるだけでさみしい。楽しい時間はあっという間に過ぎていった。
「せっかくだから街で一緒に買い物して、食事をしましょう」
レジナルドが船に乗る前日、カトリオーナと2人で出かけた。
彼のために万年筆と、こっそり頼んでおいた懐中時計も取りに行くことに。
「向こうの気候はどうなっているのかしら。心配だから衣類はもう少し買い足しましょう」
「いえ、十分です。それより本屋に寄りたいです」
「……わかったわ。本屋へ寄ったら食事ね?」
2人で楽しく料理を食べ、最近興味があることや、これからやりたいことについても話す。
最初は少しぎこちなかったけれど、好きなことを話す表情はとてもいきいきしていて、昔と変わらない。
その後は彼を時計の専門店へと連れて行き、店主に頼んでおいた懐中時計を出してもらった。
「このままつけて帰る? それとも箱に入れてもらう?」
「ありがとうございます。つけて帰りたいです」
なんだかもう、すっかり大人みたい。
寮に入る前はカトリオーナと同じくらいの背丈だったのに、今は首が痛くなるほど見上げるくらい背が伸びた。
「今日はレジーと過ごせて嬉しかったわ」
「私も、一緒に過ごせて楽しかったです。時計も……すごく嬉しい。これを身につけてこれからも頑張ります」
レジナルドが胸元の懐中時計をぎゅっと握る。
「すぐに会えない距離でさみしいわ……時々手紙を書いてね」
「はい……あまり綺麗な字じゃないけど」
ぽそっとつぶやくから、思わず彼の頬に手を伸ばして撫でる。
「元気だ、って一言でもいいのよ」
「それなら、多分。……期待しないで待っていて下さい」
レジナルドがくすぐったそうに肩を上げて笑った。つられてカトリオーナもほほ笑む。
ちょうど迎えの馬車がやって来て、2人は笑顔のまま乗り込んだ。
翌日家族全員でレジナルドを船まで見送りに行った後、泣き出した子どもたちだけ屋敷に降ろして、夫婦は商会へ向かった。
仕事を片づけた後、2人で街の様子を眺めながら歩く。
今日も街は賑わっている。
何が流行っていて、何が廃れてきたのか店や人々を見て、商会の今後の展開を考えるのだ。
兄が羊毛の生産、オリジナルの商品作りに力を入れていて、主力商品でもある。
ふと、視線を感じて辺りを巡らす。
「ローナ? どうかしたのかい?」
目ざとく気づいたライナスが声をかける。
特に知り合いの姿は見えないから、首を横に振った。
「何でもないわ。……ねぇ、最近はあの髪飾りが流行っているのね。次はなにかしら……?」
「難しいな。女性が身につけるものはローナのほうが詳しいから」
「男性だって、贈るじゃない。流行りのものを選ぶでしょう?」
「それは、何か催促しているのかい?」
「そうじゃないわ」
「いや、せっかくだから見ていこう。妻が綺麗でいると鼻が高い」
ライナスが宝飾店を目指して歩く。
「リーったら……記念日でも何でもないのに」
「そんなもの関係ないさ」
2人は笑い合い、ライナスが店の扉を開けた。
レジナルドから新生活の様子をつづった手紙が届いた頃、ジョン・ジョーの会社が破産するという噂が浮上した。
新しく立ち上げた事業にこれまでの資産のほとんどをつぎ込んだところ、共同経営者で恋人だったという女性が不正を行って、大金を持ち去り負債を抱え込んだという。
「それは大変ね」
今は見かけてもどうということはない。
彼はその後結婚したようだったけど、長続きしなかった様子。
あの長身の秘書とは長い間愛人関係にあったらしく、それが原因かもしれないしそうではないかも。
秘書はずっと独身のままで、結局一年ほど前に仕事を辞めたようだった。
噂では共同経営者で恋人だった女性に目の敵にされ、身一つで追い出されたのだとも。
ジョン・ジョーは金も家族も恋人も何もかも失ったらしいけど、今の私には何の関係もない。
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