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2 シリアスなのは多分ここまで。
しおりを挟む「こんな、雨の中、物騒だよなぁ。……俺たちが助けてやんよ」
「あの……御者知りません?」
男たちがドッと笑った。
うん、私も間抜けなこと言ってるって思ったけどさ。
まず自分の身の安全の心配しろって。
まさか男達に馬車ごと落とされたの?
ビビったジョニーが手綱さばきを間違えたのかも?
それで、ジョニーどこよ?
馬は……離れたところで別の男が押さえている。
見える範囲にいるのは三人ってところ。
こんな天気の時だから、たまたま遭遇しちゃったんだろうな~。
運が悪い。
「お優しいことで。あいつはもう逃げたぞ。ははっ、だーれも助けになんて来やしないから、嬢ちゃんは俺たちと楽しもうな」
クソったれ、ジョニーめ!
「観念するんだな。可愛がってやんよ、こんなところで逃げるなよ」
いや、もちろん、一か八かで逃げるよね!
きったない男の相手するくらいなら、山の中を走るよ!
くるりと背を向け、暗闇の中を走った。
分が悪いけど、かけっこは得意だった。
雨の中走ったことなんてないけど、男爵家に引き取られるまで山は私の遊び場だった。
夜は初めてだけど。
無謀だってわかっているけど!
「おい! こら、待て! そっちは崖だっ!」
そう言われても止まれない。
草木に引っかかりながら斜面を転がるように滑り降りた。
雨のせいで土がすべり、何度も足を取られ尻餅もついた。
それでも、足を前に出す。
男たちは深追いしてこなかったから、とりあえず少しでも離れようと歩いた。
アドレナリン放出中。
これ、後ですごく痛くなるかも。
でも今は身を隠せるような場所に逃げないとだし、濡れたままでは風邪をひいてしまうし、とにかく状況が悪い。
上へ上へ。
降るより登れって、遭難した時だっけ?
今も当てはまるかわからないけど、足場が悪いから無闇に走るのはやめて歩き続けた。
もともと夜目が利くほうだけど、雨で視界は悪いし、どこへ向かって歩いているかも分からない。
歩くべきじゃない。わかっているけど、立ち止まる場所もない。
マントのおかげで、人目につかないし、鉱山で足場が悪いかと思って頑丈なブーツを履いて来たし、中に着ているワンピース……は無事じゃないな。
きっと泥だらけで裾も破れてボロボロなんだと思う。
もう下着までぐっしょり濡れているし、なんとか動かしている体も、重い。
全部荷物は置いてきてしまったし、盗賊が持っていっただろうな。
金目のものは全くないから悔しがればいい。
そう思えば少し溜飲が下がった。
だけど馬はもったいなかったなぁ。
一つだけいいこともある。
今の状況は悪いままだけど、ここを乗り切れば、私は自由なんじゃないの?
だってきっと、死んだことになるはず。
頑張れ、私。
頑張れ、ベル。
「あれは、天国か、地獄か」
もしかして洞穴を見つけたかもしれない。
熊とか獰猛な動物がいたら命の終わり。
別の盗賊が寝ていたら身体の危機。
空っぽだったら天国。
さっきの盗賊の巣穴のひとつじゃなければね。
もしものための小石を握って、そっと近づいて中を伺う。
獣の匂いはしない。
火を焚いた後のような匂いもしない。
いびきも聞こえてこないし、当たりかも?
それでも奥には入らず雨のかからないところまで入り、マントを脱いで絞った。
ワンピースも本当は全部脱いでしまいたいけど着たまま絞り、もう一度マントを羽織る。
ブーツもそのまま。
焚き火して全部脱いで乾かせたらよかったけど、女一人でそれをやるのも難しい。
そもそも、火種も乾いた枝もない……虚しい。
洞窟の入り口に近い岩陰に寄り掛かって膝を抱えて座り、明るくなるまで仮眠をとることにした。
万一の時は逃げられるように。
目を閉じた私はすぐさま眠りに落ち、そっと近づくものの気配に全く気づかなかった。
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