5 / 7
5
しおりを挟むパストラーナ伯爵家の人々と顔を合わせた時、少し泣きそうになってしまった。
同じ出来事や会話が繰り返されて、再びあれは夢じゃなかったと実感してしまったから。
あの時の私も子供もきっと……。
神様がもう一度チャンスを与えてくれたのなら、今度は自分の頭で考えたい。
前と同じく父はすぐに帰り、パストラーナ伯爵家の人々にものすごく気遣われてしまった。
巻き戻る前よりも幼い印象を与えてしまったかもしれない。でもそれでよかったみたい。
社交界へのデビューは1年延ばしてもらえて、17歳になってから初めて出席したパーティには、出産後のクララ姉様もいてくれた。
「大丈夫よ、ローラ。にっこり笑って」
姉の顔を見ていたら、本当に大丈夫な気がした。すごく心強い。
それに、ラウデリーノ様と1年一緒に生活した分、前と違って親しさも深まったと思う。
「ローラ、一曲踊ろう」
「はい、ラウデリーノ様」
ダンスはやっぱり緊張したけれど、ラウデリーノ様のリードは踊りやすかったし、姉が注意深くて飲み物をこぼすこともなく、無事に過ごせてほっとする。
それでも帰りの馬車でラウデリーノ様とお互いにパーティは好きじゃないと話し合って、これからも最低限のみ出席することになった。
時間が巻き戻る前より驚くほどうまくいっている。
1年後の18歳で結婚した時は、私から白い結婚を申し入れた。
ラウデリーノ様はいつも通り落ち着いた様子で耳を傾けてくれる。
話しやすい雰囲気だったのもあって、ミゲルのことを隠しておくのが申し訳なく思って打ち明けてしまった。
私達は夫婦というより兄妹の関係に近いかもしれない。とはいえ、正直に言いすぎたかも、とうろたえる私にあっさり言う。
「わかった」
「……図々しいことを言ってごめんなさい」
「いや、ラギナ子爵家の援助と、ローラが用意してくれた本のおかげで、予想したより早く立ち直れそうだ。それにもっと本に載っていたことを試したい」
そう言ってもらえてほっとする。
「他には? まだ言いたいことがありそうだ」
「その、私……結婚して3年経ったら、子供ができないことを理由に離縁してほしいです」
「……白い結婚なのに?」
ラウデリーノ様が眉を上げた。
夫だと思うと気後れしてしまうけれど、兄だと思うととても頼りになる。
「はい、無理を言ってごめんなさい。でも、そうじゃないと父に再婚しろと言われると思うので」
「……ローラにとって良くないと思う。それに、すでに子供のいる後妻にと言われる可能性もある」
それは思いつかなくて、はっと息を呑んだ。
「相手はあと3年待つと言っているのか?」
「はい。今、隣国に留学中なんです。あちらで高度な学問をおさめて、仕事と住まいを決めなくてはいけないので……」
今も月に一度、手紙のやり取りを続けている。
ミゲルはひたすら勉学に励んでいるみたいで、いつも結びは準備を終えたら迎えにいくと書いてあった。
「そうか……」
「もし、彼が心変わりして迎えにこなくても、私は3年後に離縁してほしいです」
ラウデリーノ様は少し困ったように笑った。失礼なことを言ってしまったかも、そう思って口を開いたけど、彼が先に話し出す。
「もしも、相手が迎えに来れなくなったら、その時はまた話し合おう」
「はい……わがままばかり言ってごめんなさい」
勝手なことばかり言っているのに彼は少しも怒らない。今は集中して葡萄畑に取り組みたいから、後継のことは急がないのだとも。
「ローラこそいきなり連れてこられて大変だっただろう。それなのに、領地のためにありがとう」
「……皆さまが優しくしてくださったからです」
突然割り込んで婚約者になった私に、嫌な態度をとる人がこの地にはいなかった。
今回は侍女のパウラも来てくれたし、月に一度のミゲルとの手紙のやり取りも心強かったから――。
「ラウデリーノ様、今しばらくよろしくお願いします」
そうして、私達は白い結婚を続けた。
29
お気に入りに追加
722
あなたにおすすめの小説
公爵様、契約通り、跡継ぎを身籠りました!-もう契約は満了ですわよ・・・ね?ちょっと待って、どうして契約が終わらないんでしょうかぁぁ?!-
猫まんじゅう
恋愛
そう、没落寸前の実家を助けて頂く代わりに、跡継ぎを産む事を条件にした契約結婚だったのです。
無事跡継ぎを妊娠したフィリス。夫であるバルモント公爵との契約達成は出産までの約9か月となった。
筈だったのです······が?
◆◇◆
「この結婚は契約結婚だ。貴女の実家の財の工面はする。代わりに、貴女には私の跡継ぎを産んでもらおう」
拝啓、公爵様。財政に悩んでいた私の家を助ける代わりに、跡継ぎを産むという一時的な契約結婚でございましたよね・・・?ええ、跡継ぎは産みました。なぜ、まだ契約が完了しないんでしょうか?
「ちょ、ちょ、ちょっと待ってくださいませええ!この契約!あと・・・、一体あと、何人子供を産めば契約が満了になるのですッ!!?」
溺愛と、悪阻(ツワリ)ルートは二人がお互いに想いを通じ合わせても終わらない?
◆◇◆
安心保障のR15設定。
描写の直接的な表現はありませんが、”匂わせ”も気になる吐き悪阻体質の方はご注意ください。
ゆるゆる設定のコメディ要素あり。
つわりに付随する嘔吐表現などが多く含まれます。
※妊娠に関する内容を含みます。
【2023/07/15/9:00〜07/17/15:00, HOTランキング1位ありがとうございます!】
こちらは小説家になろうでも完結掲載しております(詳細はあとがきにて、)
白い結婚は無理でした(涙)
詩森さよ(さよ吉)
恋愛
わたくし、フィリシアは没落しかけの伯爵家の娘でございます。
明らかに邪な結婚話しかない中で、公爵令息の愛人から契約結婚の話を持ち掛けられました。
白い結婚が認められるまでの3年間、お世話になるのでよい妻であろうと頑張ります。
小説家になろう様、カクヨム様にも掲載しております。
現在、筆者は時間的かつ体力的にコメントなどの返信ができないため受け付けない設定にしています。
どうぞよろしくお願いいたします。
【R18】抱いてくださらないのなら、今宵、私から襲うまでです
みちょこ
恋愛
グレンデール帝国の皇帝であるレイバードと夫婦となってから二年。シルヴァナは愛する夫に一度も抱かれたことは無かった。
遠回しに結ばれたいと伝えてみても、まだ早いと断られるばかり。心だけでなく身体も愛して欲しい、日々そう願っていたシルヴァナは、十五歳になった誕生日に──
※この作品はムーンライトノベル様でも公開中です。
妻のち愛人。
ひろか
恋愛
五つ下のエンリは、幼馴染から夫になった。
「ねーねー、ロナぁー」
甘えん坊なエンリは子供の頃から私の後をついてまわり、結婚してからも後をついてまわり、無いはずの尻尾をブンブン振るワンコのような夫。
そんな結婚生活が四ヶ月たった私の誕生日、目の前に突きつけられたのは離縁書だった。
私に告白してきたはずの先輩が、私の友人とキスをしてました。黙って退散して食事をしていたら、ハイスペックなイケメン彼氏ができちゃったのですが。
石河 翠
恋愛
飲み会の最中に席を立った主人公。化粧室に向かった彼女は、自分に告白してきた先輩と自分の友人がキスをしている現場を目撃する。
自分への告白は、何だったのか。あまりの出来事に衝撃を受けた彼女は、そのまま行きつけの喫茶店に退散する。
そこでやけ食いをする予定が、美味しいものに満足してご機嫌に。ちょっとしてネタとして先ほどのできごとを話したところ、ずっと片想いをしていた相手に押し倒されて……。
好きなひとは高嶺の花だからと諦めつつそばにいたい主人公と、アピールし過ぎているせいで冗談だと思われている愛が重たいヒーローの恋物語。
この作品は、小説家になろう及びエブリスタでも投稿しております。
扉絵は、写真ACよりチョコラテさまの作品をお借りしております。
どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします
文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。
夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。
エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。
「ゲルハルトさま、愛しています」
ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。
「エレーヌ、俺はあなたが憎い」
エレーヌは凍り付いた。
皇太子夫妻の歪んだ結婚
夕鈴
恋愛
皇太子妃リーンは夫の秘密に気付いてしまった。
その秘密はリーンにとって許せないものだった。結婚1日目にして離縁を決意したリーンの夫婦生活の始まりだった。
本編完結してます。
番外編を更新中です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる