姉と妹がそれぞれ婚約者を押しつけてきますが、私の婚約者がおかしくなるのでやめてください!

能登原あめ

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8 姉の婚約者のエイダン様も

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「エイダン様、こんにちは」
「やぁ。忙しいところ悪いね。ちょうどよかった。君達は当日、同じテーブルでいいんだよね?」

 妹のメロディとチャーリーの話し合いがすんだのか、二人は目も合わせないでいる。

「はい、もちろんです。よろしくお願いします」

 私が答える前にウォードが挨拶した後にそう言った。
 ちらりと姉のエリザベスを見ると、顔を赤らめて目をそらす。
 下手に言い訳もできないし、ドレスが変わっていることにも気づいているのかも。

「私はリアお姉様達と同じテーブルがいいですわ」

 メロディがそう言うと、チャーリーも別で、なんて答えている。
 父はもう、置物のように固まっているから頼りにならない。

「わかりました。では、私達の結婚式まであと二週間切りましたから、私もこちらに移ります。皆さん、これからどうぞよろしくお願いします」

 エイダン様が姉の腰に腕を回し、そっと額に口づけした。
 姉は真っ赤になっていたけど、まんざらではなさそうだし、このまま捕まえていて欲しい。

「エイダン様、どうかお姉様をよろしくお願いします。繊細だから悪い方に考えすぎてしまうんですが、とても優しいんです」

 私の言葉にエイダン様が穏やかに微笑んだ。

「はい、知っていますよ。大丈夫、これからはずっとそばにいますから」

 笑顔も、言い方も、なんだかウォードと同じ性質のような気がする。
 それ以上に容赦がなさそう……。
 あまり見つめると、ウォードが嫉妬しそうだから、心の中で姉を応援した。







 そのおかげで、姉は無事に結婚式を挙げることができた。
 二人が幸せそうに笑い合っていてほっとする。
 姉は時々寝坊していたし、いつも気怠げだったし、虫刺されがひどかったみたいだけど……深くは考えないことにしよう。
 とにかくエイダン様と母がいれば、もう大丈夫。

 結局妹達は、領地も隣同士だからこの結婚式が終わった後で正式に婚約白紙となる予定。
 きっと父は胃が痛いだろうな。
 二人の様子から、すぐに噂は広がりそうだから。
 
 母に連れられてやって来た祖母は、元気におしゃべりしているから落ち着いたみたい。
 晴れの日によかったと思う。

「リア、次は俺達だね」

 耳元でウォードがささやく。
 私達は指を絡めて手を繋いで式を見ていたから、ぎゅっと握る。

「うん、楽しみだね。明日には移動だから、ね?」

 今夜は何もしないよ、の意味を込めて。
 だってこの二週間、夜にそっと私の部屋を訪れ、煽るだけ煽って、でも最後までしない。
 あんなに私を奪おうとしたのに。

 結婚前だから正しいのだけど、それならいっそ抱きしめるくらいでいいのに、って思う。
 そのほうがぐっすり眠れるのだけど。

「そうだね、だから馬車でゆっくり眠るといいよ」
「……そう? でも、あの、馬車でウォードと景色を眺めながら、おしゃべりして過ごすのも楽しいと思うわ」

 しばらく黙っていたウォードがにっこり笑った。

「馬車、か。……うん、いいね」

 なぜだろう。
 何となく嫌な予感がするのは。
 ウォードはそれ以上何も言わず穏やかな笑顔を浮かべていた。








 翌朝は、両親とウォードと朝食をとって家を出た。
 眠くてたまらない。

 でもそれは、ウォードとあれやこれやしたとかではなくて、生まれ育った場所を離れることの寂しさと、これからウォードと一緒に暮らせる嬉しさ、花嫁修業のことなどうまく婚家と馴染めるかという不安もあって。
 
 ほんの少しそんな気持ちを漏らしたら、ウォードは何も心配しなくて大丈夫だって抱きしめてくれた。
 
『一人で眠るのは今夜が最後だよ』

 珍しく、本当に本当にウォードがあっさり客室に引き上げた。
 ベッドがひんやりして、眠れないとか。
 寝返りを何度も打って、ウォードがいるのが当たり前になっていたことに気づいた。
 明け方になってようやく眠りについたのだけど……。

 馬車に向かい合って乗り込んで、あくびをこらえた。

「リア、眠れなかった? 膝を貸すからこっちにおいで」
「……いいの?」
「もちろん」

 ちょっとだけ、馬車の中で触れ合いたがるんじゃないかと思っていたからそう言われて嬉しくなった。

「ありがとう、ウォード」

 隣に座って肩に頭を乗せる。

「……こっち」

 頭をそっと膝に乗せられて、下から彼を見上げた。
 あんまりにも優しい顔をしてるから、安心して目を閉じた。

「ありがとう……ちょっとだけ眠ったら、起こしてね」
「わかった。おやすみ、リア」

 もうこれで、誰にも奪わせないって声が聞こえたような気がしたけれど、私は眠気に勝てなかった。









 すん、すん。すん、すん。
 息がかかってくすぐったい。
 私が目覚めると、ウォードが覆い被さるようにして髪の匂いを嗅いでいた。

「……ふう、……幸せだ」

 恍惚の表情に私は戸惑った。
 
「リア、起きたんだね。ちょうどいい。少し体を動かさないと痛くなるからね」
 
 頭を支えて起こしてくれる。
 確かにすでに体が痛いかもしれない。
 
「今度はこっちにおいで」

 膝の上に乗せられて、そのまま唇を奪われた。

「んっ……!」
 
 そのまま彼の手が私の背骨の際をゆっくり押す。

「リア、凝ってるな」
 
 寝起きのキスも、そんなウォードの労りも、優しすぎて混乱する。
 嬉しいのだけど。
 そうして私達は馬車の中で軽く触れ合って過ごした。
 


 



 
 
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