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5 妹の婚約者チャーリーは混沌を連れてきた
しおりを挟む姉の気持ちの浮き沈みもまだまだ気になるけれど、母があと数日で戻ってくると連絡があっで安心した。
心配性で悲観的な祖母は、今回体調を崩したことで、あとわずかしか生きることができないと思い込んでしまったらしい。
けれど、医師によると全く問題ないらしいので、元気になって、姉の結婚も祝ってほしい。
そして、穏やかな昼下がりに妹の婚約者チャーリーもやってきた。
「僕、リアさんとなら婚約してもいいです」
私の隣にいたウォードが無言で私の手を握り、チャーリーに笑顔を向けた。
「……なんだって?」
「ヒッ、え⁉︎ あの、メロディから聞いたんですが、僕達の婚約者を交換するって……」
そう言いながら、彼は父を見る。
でも、父は目を逸らしてモゴモゴつぶやいた。
「いや、それは……」
「あり得ませんよ。……ねぇ、リア?」
父がはっきりしないから、ウォードが私のほうを向いた。
「あのね、ウォード。メロディが言ってるだけだから、本気にしないで」
「ひどい! 私だけが悪いみたいな言い方して! 先にエリザベスお姉様が、エイダン様をリアお姉様に押しつけようとしたのよ!」
ウォードが笑顔のまま私の手を強く握る。
何この状況。
あとで説明が大変になるんだけど。
「お姉様が結婚に対して不安に思って気の迷いで言っただけで、解決してるわ。ね、エリザベスお姉様?」
「…………」
ちょっと、お姉様、ここで俯いて黙らないで!
「……私としては、このままリアと結婚するので、交換なんてあり得ませんね」
「私もウォードと結婚するのが楽しみなの」
そう言って彼に目を向ければ、微笑んでいるけど目が笑っていない。
ここにいる人達は彼の様子に気がつかないの?
これ以上、煽らないでほしい。
「本当に? でも、リアお姉様ってウォード様とデートの後はいつもぐったりしてるから、チャーリーのほうが気楽につき合えると思うわ! チャーリーと一緒にいたらそんなことないもの」
それは、ウォードが私の体に触れてくるからで。
俺を忘れないように、ってしばらく会えないのは寂しいからって私が何度も達するまで離してくれないから。
でも、そんなことは言えない。
だって私たちはまだ結婚してないんだもの。
というより、ここまでしていて今さら結婚しないなんて考えられない。
「僕となら楽しく過ごせますよ! 流行りの場所は知ってますし、僕に気なんて遣わなくていいですから」
チャーリーはニコニコして言うけれど、ウォードの顔は見てないのかな。
隣から冷気を感じて、怖い。
「ウォード様、一旦私と婚約したことにしてすぐ解消すればいいんですわ。……私達、うまくやれそうにないですもの!」
妹の言葉にぎょっとする。
みんなが見つめる中、妹があっけらかんと言い放った。
「私、デビューして思ったの! 私より可愛い子なんてほとんどいないわ。だからね、たくさんの方が私と話したがるし、ダンスに誘ってくださるの。いろんな方と出会って、私は真実の愛を見つけるべきだわ!」
私は顔が引きつるのを感じて、言葉を失った。
同じ親の元で育ったのにどうしてこうなってしまったんだろう?
父が甘やかし過ぎたんじゃないかと私が睨むと、視線に気づいて目をそらした。
早く母が戻ってこないと収集がつかないかもしれない。
そう思っていたら。
「……メロディ、チャーリーに謝って。チャーリーは素直でいい子じゃないの」
ずっと黙っていた姉が妹をまっすぐ見る。
「え? だって本当のことよ。お父様も頷いてくれたわよね」
「え、いや、その……」
さすがに父も本人の前で言葉を濁す。
そこははっきり否定したらいいのに。
「あなたは私達から見てもとても可愛いわよ。だけどね、縁があって婚約したのだから、そんなふうに言うものではないわ、メロディ」
姉がまともなことを言っているけど、最近まで結婚したくないって言っていたのを私は忘れない。
その調子でエイダン様と結婚してほしいから黙っているけど。
「エリザベスお姉様だって、結婚したくないって言ったじゃない! エイダン様とリアお姉様が結婚するようにって、お父様まで味方につけたくせに! ずるいわ! さっきから自分ばっかりいい子ぶって!」
癇癪を起こした妹が泣き叫ぶ。
もう、どうしたらいいんだろう。
ぎゅっと握られた手が痛いんだけど。
「僕がエリザベスさんと結婚すれば……。そのほうが幸せかもしれない」
チャーリーがぽつりと漏らした。
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