姉と妹がそれぞれ婚約者を押しつけてきますが、私の婚約者がおかしくなるのでやめてください!

能登原あめ

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2 妹の名はメロディ

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「は⁉︎」
「何を言い出すんだ、メロディ!」

 私と父が同時に話す。
 妹は小首を傾げて、可愛く微笑んだ。

「だって、チャーリーって私には子どもっぽいと思うの。小さい頃からの婚約者だし、隣の領地だけど、子爵家だし。私ならもっと素敵な相手が見つかると思うの……だからね、リアお姉様なら、ちゃんとチャーリーを導いていけるんじゃないかって思うのよね」

「なるほど! うん、そうだな。メロディならばそうかもしれん。年頃の王族がいたら、きっと見染められたんだろうなぁ……残念だ。……だが、宰相の息子も相手を探していたか、うむ。いいだろう、リア!」

 メロディがお父様が一番大好き!とか、嬉しい!とか理想の男性だのと心にもないことを言い出した。
 私はとうとう我慢の限界で。

「……みんな、私に婚約者がいるのを忘れてません?」

 あ、って顔するのやめて。








 私の婚約者のウォードは伯爵家の嫡男で、私の三つ年上の二十一歳。
 私のことをそれはそれは大切に、一途に愛してくれる人。

 出会いは九年前にさかのぼる。
 私はあの日に戻りたい、と思わなくもない。納得はしているけれど。

 九歳の私は、王宮で開かれたガーデンパーティで手に入れたお菓子をハンカチに乗せられるだけ乗せて、会場の端っこへ向かった。
 
 だって、美味しいものは先に取らないとなくなってしまうから。
 一人ゆっくり食べたくて半分隠れたベンチをめざしたのだけど、そこに私より年上の少年がいた。

「ご、ごきげんよう……これ食べる?」

 じっと、手の中の菓子を見てくるから、渋々言った。

「分けたくない、って顔してるけど?」
「……そうだけど、食べたいのかなって思って……どうぞ」

 本音は分けたくないけど、見られてしまったら仕方ない。
 姉妹でもそういうルールだから。

 お姉様に見られたら『妹だから分けてあげなさい』
 妹に見られたら『姉だから分けてあげなさい』
 真ん中に生まれた私は、モヤモヤしつつも従った。

「ふうん……」
 
 そう言って一枚だけ摘んだ。
 わたしもベンチに腰掛けて、口に放り込む。

「おいしい!」
「……甘い」

 彼が顔をしかめるから、私は包みを遠ざけた。

「あっちに、ミートパイやポテトパイもあったわ! そんな顔するなら好きなものをとってきたらいいの!」

 思わず口を突き出した私に、彼が笑う。

「そうする、大事なの、分けてくれたのにごめんな。じゃあ、俺もとってくるからここで待っていてくれる?」
「いいわよ」

 食べ終わるまではここにいるつもりだったからそう答えた。
 
「俺、ウォードだ。……名前は?」
「……リア」

 口の中のクッキーを飲み込んで慌てて答えた。

「わかった、リア。すぐ戻る」

 ウォードは私がクッキーを三枚食べる間に戻ってきた。
 しかも、私のために追加のデザートまで持って。

「これ、さっきのお詫び。俺も自分のものは、絶対に分けたくないんだ。でも、リアは分けてくれたから……特別だ」

 ハンカチにのせられていたのは、追加で出されたらしいバターケーキ。

「いいの? ありがとう、ウォード様は優しいのね!」
「ウォードでいいよ。リア」
「そうね、ウォードもリアって呼んでるものね」

 私達は黙々と食べた。
 誰にも奪われずに食べれる幸せを噛み締めて。
 でも、自分で持ってきた分だけでお腹いっぱいになった。

 ウォードに渡された分を食べたら夕食が全く入らないと思う。
 そしたら、お母様に叱られる……。
 でも、食べてみたい。
 私はバターケーキを見つめながら悩んだ。

「このまま持ち帰れば? ハンカチはやるよ」

 なんていい案!

「ウォード、すごいね! でも、いいの……? ウォードは困るでしょう?」

 スッと私の手の中のハンカチを引き抜いた。
 それからパラパラと菓子のくずを土に落とす。

「こっち、もらっていく。いいだろ?」
「うん……じゃあ、仲良くなった記念ね!」
「……あぁ、リア。また会おう」

 結局、私のハンカチにあった伯爵家の刺繍から、彼は家族を通し私を指名して婚約を申し込み、一度会ってあっさり婚約が決まった。

 びっくりしたけど、知ってる相手で嬉しかったから私はウォードの手をぎゅっと握って、

「私のたった一人の大切な伴侶になってくれるのね。ウォードのこと、大事にするね。これからよろしくお願いします」

 これって、よく父が母に言葉を変えながら伝えていたから当たり前のことと思って真似したのだけど。
 ウォードが嬉しそうに笑った。
 なぜか彼の両親が驚くくらいの笑顔だったらしい。

「よろしくな。リアが成人したらすぐ結婚しよう」
「はい、楽しみだね」

 周りもすごく喜んでくれて、私達はこれからもずっとずっと楽しく暮らせるものだと思った……その考えは少し、ほんの少し甘かったけれど。

 
 
 

 
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