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5 夜会①
しおりを挟む「貴様も来たのか。フッ……最後くらい華やかな世界に身を置きたかったということか」
公爵家の夜会でさっそくカッシオ殿下と遭遇した。
ステファニアと私、それから領地から戻って来たばかりのクレメンテ様とホールに入ってすぐのこと。
「殿下、少しお時間よろしいでしょうか?」
ステファニアがキリッとした顔で言う。
「……なんだ? 復縁などしないぞ。俺はエロイーザ一筋だからなっ!」
「それはかまいません」
「え⁉︎」
「私はお二人を祝福したいと思っております。殿下の幸せを心よりお祈りいたします……ただ、領地に関することはすべて撤回してほしいのです。領地に火を放つなどと」
「それは! 貴様たちが出ていけばすむことだ! 明日の夜……日付けをまたいだら火を放つ。本当に放つからなっ! 準備がまだなら帰ったほうがいいぞ? いいな? 父上や母上にエロイーザと別れさせられたら俺は死んでしまう!」
声高に宣言するカッシオ殿下に、周りがざわついた。興味津々で聞き耳をたてる者や、驚く者もいる。
最初は校内のランチタイムで宣言したから、知らない者も多くいたと思う。
パーティの雰囲気が台無しで、慌てて主催の公爵夫妻がやってくるのが見えた。
公爵は国王の従弟だし、大事になる前になんとか穏便にすませたいはず。
だけどそれより早く現れたのは――。
「カッシオ、お前にそんな権限はないだろう」
ヴィンチェンツォ殿下がぐるりと会場を見渡しながら言った。
「兄上⁉︎ なぜここに……? ですが! 結婚は俺の個人的なことです!」
「王族に個人などないだろう。だが、どうしてもその女と結婚したいと言うなら陛下に口添えしてもいい。……ただし、火を放つだのという愚かな宣言は今すぐ取り消せ」
突然の兄の登場に目を泳がせるカッシオ殿下はコクコクと頷く。
「ダンジェロ伯爵家の領地に火を放つことはない! だが、俺が結婚するのはエロイーザただ1人だ!」
「そうか、覚悟を決めたんだな。それならそれでよい……ダンジェロ伯爵家やその領民、ステファニア嬢を翻弄し、迷惑をかけたことについては、陛下から沙汰があるだろう」
「なぜ父上から……?」
「私はカッシオだけが王都に残るのは心配だと呼び戻されてね。何事もなければ表に出てくるつもりはなかったんだが。この騒ぎを聞いてすぐに陛下に連絡したよ」
「兄上! 俺の味方になってくれますよね⁉︎ ただエロイーザを妻にしたかっただけでっ! 彼女とは真実の愛で結ばれているのですっ!」
慌てふためくカッシオ殿下を私たちは黙って見つめる。
ステファニアは長年こんな相手が婚約者でつらかったと思う。でもこれからはエロイーザが引き受けてくれるというなら幸せになれるはず。
「あの……わたくし、カッシオ殿下との結婚を望んでいないのですが」
大きな声ではなかったけれど、エロイーザの発言に、ホールにいる人々がざわめいた。
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