ACE Girls

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第五部 失踪

5 - 2 捜索開始

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「いつもは祐希さんと一緒に遊んだりしているんですね」
「はい。昨日も駅前のお店で一緒に買物をしていました」

 警察に説明しながら髪の左側に付けている星をあしらったヘアピンを触る。

 祐希の母親が警察に事のあらましを説明し普段の様子を話し終わった所で、警察の聴取は亜美と霞に移った。女子学生である亜美と霞が聴取に協力してくれることは通報の時点で伝えてあったため、優しそうな婦警さんが聴取に来ていた。まずは「大変だったわね」と労いの言葉から始まり、少しずつ祐希についての話に移っていく。
 祐希の好きなもの、好きな食べ物、好きな場所。行動決定基準。行動力。普段のストレス。ありとあらゆる祐希の情報について、亜美と霞は知っている限りの説明を続けた。

 かれこれ2時間は話しただろう。既に10時をまわり、亜美たちももう祐希については語り尽くした所で、婦警さんは聴取を終了した。今日はゆっくり寝て下さいと言い残して、4人の警察官は祐希の家を引き上げた。祐希のお母さんが今日は遅いから泊まっていって頂戴と言うので、二人はお言葉に甘えて今日だけ泊まることにした。

 結局祐希はその日、帰ってくることはなかった。



◇◇◇



 翌日。祐希の家を出て一度自宅へ帰り、駅前のいつものカフェに向かう。昨日はあまり眠れなかったが、捜索とは時間との戦いである。既に警察が動いてはいるが、亜美たちも翌日から祐希探しを始めることにした。


「――祐希さんは”誘拐”の可能性があります」


 婦警さんの一言。三人が必死に頭の隅に追いやっていた言葉をあっさりと告げられる。ここまでの条件を照らし合わせても事故の可能性は著しく低く、どこかで倒れて救急搬送といった報告も無い。ただ家から学校まで登校していただけでどこかへ迷い込むなど考えられない。”いきなり体の自由を奪われる”状況など、そこまで多くない。結局たどり着くのは一つの答えなのだ。

「誘拐……なんで祐希が? 頭がいいから?」
「祐希ちゃんは頭がいいとは言っても大学の教授とかには流石に勝てないって前に言ってたよ」
「そうだよねぇ」

 二人はまず朝食としてモーニングを頼み、今日の行動計画を立てることにした。まずは祐希をさらう人がどんな人なのかを予測しなければならない。ただ闇雲に探していては日が暮れてしまうので祐希をさらった理由について考えていたのだが、どれだけ考えてもわざわざ祐希を狙う理由が分からなかった。
 もし”そこにいたから”なんて理由なら祐希探しは途方も無くなってしまうが、そっち方面は警察に任せることにして、二人のアドバンテージである”祐希について誰よりも知っている”事をできるだけ活かそうと考えたのだ。

 結局二人は手がかりを得ることができないまま捜索を開始することになった。まずは祐希と親しくしてくれた人を当たってみることにした。

「こんにちは」
「あら、こんにちは。今日はゲーム探しですか?」

 まずはいつも行っている電気屋、「北裏電気」に向かった。そこではいつものように美之璃が店員をしていたが、いつものように話しかけてきていつものように理由を聞いてくる辺り祐希については知らないみたいだ。いつもは三人で来ているので祐希が最初に美之璃と話してそこから4人で話に花が咲く、といった具合なのだが今日はその祐希がいない。
 二人は祐希が居なくなったあらましを伝え、なにか情報は無いか聞いてみたが、美之璃は何も知らないと言うだけで特段心配する様子は見られなかった。

「あの祐希さんのことですし、忘れた頃にふらっと帰ってくると思いますよ」
「そうだと良いんですが……」

 楽天的な美之璃に軽く呆れた亜美だったが、連絡先を交換してなにか分かったら連絡をもらえるよう協力を得ることができた。
 そのまま次の店へと向かう。

 その日は結局5店舗を聞き込みまわったが収穫はゼロだった。帰り際に霞が祐希の家に寄ろうと提案し、直接自宅へは帰らずに祐希の家へ向かった。そこでは祐希の母と一緒に、会社を休んでいた祐希の父がいた。二人を見ると昨日の聴取に協力してくれたことに対して礼を述べ、これからも祐希を探すのを手伝ってほしいと深く頭を下げた。亜美はいきなりのことにビックリしたが、すぐに取り直して親友としてやれることを全力でやるまでですと返した。

「祐希はこんなに優しい親友が居て幸せものだ……」

 祐希の父親は亜美の言葉に感激したのか、二人の目の前にもかかわらず泣いていた。

 祐希は昔から友人をあまり作らなかった。知り合いと言える人は多かったものの、家に招待して一緒に遊ぶほどの友人関係までになった人は多くなかった。その数少ない友人も進学と同時に疎遠になってしまうことが多く、それ故ここまで祐希と親しくしてくれる友人が居ることに両親ともに感激していたのだった。
 祐希が積極的に他の友人について話さないので亜美達は深い事情を知る由はなかったが、涙を流してまで感激されてしまっては祐希を見つけ出さない訳にはいかないと闘志を強く燃やすのであった。



◇◇◇



 次の日。亜美達は一旦学校へ向かうことにした。さくらには既に両親と警察から事情を説明されているが詳しいことは知らないはずだろう。二人は学校につくとまず初めに部室へと向かい、祐希についての情報収集を始めた。結局手がかりになりそうなものは見つからなかったが、既にコネクトで連絡を入れていた美穂と未来がちょうど部室へ来たので4人でさくらの元に向かうことになった。

「失礼します」
「あら、鹿嶋さんに大宮さんに……ゲーム部のみなさんが揃っていらっしゃいましたね。祐希さんについての話、色々とお聞きできますか?」
「もちろんです。そのために来ましたので」

 そしてさくらを含めた5人でもう一度持っている情報をすり合わせ、捜索の打ち合わせを行う。さくらは亜美の話にただただ驚くばかりで、途中からは涙すら浮かんでいた。
 話が一通り終わると、ゲーム部として祐希探しを本格的に進めるための計画を立てることにした。さくらは学校の教員から情報を集め、未来と美穂はそれぞれ中学の友人、高校の友人から情報を集める。亜美と霞は定期的に祐希の家に赴き、祐希の両親と情報交換をする。そして毎日集まると捜索の時間が減ってしまうため、3日に一回集まることにした。



◇◇◇



 祐希の捜索を続ける中、亜美達はBSSも欠かさずプレイしていた。4月にはWorld ACE ChampionshipWACが開催されるのだ。祐希と一緒にこの大会に参加するべく申し込みをしていたが、祐希が居なくなってしまい参加は難しいと皆考えていた。しかし亜美が「祐希が帰ってきた時にBSSの腕が落ちていたら祐希に申し訳ない」と言い張り、半ば強引に全員で一日一回は分隊戦を行うようにしていた。

「(こうでもしないと毎日毎日ストレスが溜まっていく……)」

 亜美は祐希の捜索という難題を前に、部員の精神的な疲れをかなり気にしていた。3日に一回集まるだけとした理由の一つに、このBSSで小さい報告はできるからという理由もあった。
 部員の皆も、さくらも、動きにぎこちなさが出ていた。やはり祐希の存在は皆の中でも大きくなっていたのだろう。そのいきなり空いてしまった穴を埋めることができないまま、毎日を過ごすのは辛すぎる。何としても祐希を見つけ出さないといけないと亜美は強く心に決めた。



◇◇◇



 時は遡り1月。さくらがまだ皆とBSSをやっていない頃。亜美はある人に連絡を取ろうと試みていた。

「(とりあえずフレンド申請を送ってみたは良いけど、こんな有名でもない1プレイヤーの私を承認してくれるのだろうか)」

 BSS内のフレンド管理画面でユーザー名を入れてフレンド申請を送っていた亜美は、誰も居ない空間で必死に文章を考えていた。もし、何らかの偶然や運命が重なってフレンド申請が通ったら、あるお願いをしようと考えていた。

――クラン戦である。

 分隊戦では相手の選定はランダムである。弱い相手と当たることもあれば、レートを越えてかなり強い相手と当たることもある。しかしBSSにはそれ以外にももう一つチーム戦が用意されていた。
 お互いにフレンド登録をしているリーダー同士でできる分隊戦。つまり親善試合、もしくは強化試合といったようなものだ。
 亜美は強いチームと戦いたいとずっと思っていた。しかし全員で戦える時間は限られており、”全員居ないと戦わない”というルールを決めているので試合数は限られている。レートは遅々として上がらず、上位陣との試合は運が良ければできるくらいのものだった。
 そこで亜美はゲーム部部長として分隊長の祐希に相談し、強い分隊のリーダーに連絡をとってクラン戦をお願いしようと考えていた。祐希もそれは良い案だと言ってくれた上、過去に一緒に分隊を組んでいた仲間のユーザーIDを教えてもらった。この人はとても強いし、今もリーダーとして強い分隊を組んでいると聞いていると言ってたが、じゃあ祐希が連絡取ってくれれば話は早いんじゃない? と言ったらそれは部長のお仕事だとか言って押し付けられたのだった。

 次の日、亜美がBSSにログインすると通知が2つ来ていた。一つは祐希からのメッセージで、申請はどうだったかという内容だ。もう一つは昨日のフレンド申請の結果だった。件名は――

『フレンド申請の承認』

 亜美は心の中でよっしゃとガッツポーズをして、その通知を開いた。
 申請の時には一緒にメッセージを送ることができる。そのメッセージ欄に亜美は祐希と同じ分隊であること、祐希にあなたを紹介してもらったこと、分隊戦があまりできずにレートが上がらず、強い相手と当たらないこと、そしてクラン戦をお願いしたいという事を短めに書いていた。正式に後でお願いするつもりだが、どうしても待ちきれずに書いてしまっていたのだ。
 そして承認のときにも同様にメッセージを送ることができるのだが、そのメッセージ欄にはこう書かれていた。

『祐希さんがBSSに復帰していたなんて驚きです。多分祐希さんのことだから皆さんもガッツリ教育されているのでしょうね。クラン戦が楽しみです。来週の土曜日などはいかがでしょう?』

「いよっしゃあ!」

 今度は声に出ていた亜美だった。
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