ACE Girls

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第四部 部活

4 - 5 家でも遊びたい

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 12月の日曜日。お昼も過ぎておやつ時の駅前の電気屋に、彼女は居た。

「(ここまで変装すればバレませんよね……)」

 パーカーの帽子をかぶり、マスクをし、サングラスを掛けたその女性は、電気屋のゲーム売り場の前で中の様子を伺っていた。

「(やっとここに来れました。さっき警備員がこっちを見てなにやら無線でやり取りしているのが見えたけど多分気のせいでしょう。さっさとお目当てのものを買って帰りましょう!)」

 さくらは、亜美から毎週送られてくるスクリーンショットや動画を見ているうちに、そのゲーム好きの魂が燃え上がってBSSへの興味が抑えきれなくなってしまったのだ。結果、こうやって休みの日にBSSを買いに来ているのである。

「すいません、Blue Sky Squadというゲームが欲しいのですが」
「お待ち下さい……このゲームはDream Dazeというゲーム機専用のゲームです。既にお持ちですか?」
「はい。これでお願いします」
「では、会計をあちらでお願いします。商品はその場でお渡し致します」

 合成音声はかなり早い時代から発達しており、今では全世界50億人の誰の声でも再現可能だ。そして目の前のロボットは見た目こそゴツゴツしているが、その愛嬌と可愛い声で多くの店舗で会計や案内をこなすようになっていた。

 腕についているデバイスで料金を支払うと、ゲームの箱が出てきた。パッケージには『プレミアムコンプリートキット』と書いてあり、よく読むとゲームだけではなくオリジナル・サウンドトラックが付いていたり、特別な塗装が最初から開放されている、と書かれていた。さくらの”どうせ買うなら良いやつ”精神はここにも現れていた。

「(コンプリートじゃなければダウンロードで良いんですけどね。サウンド・トラックはやっぱり欲しいです)」

 そう言うとそそくさと出口へ向かう。長居していると、学生の誰かと鉢合わせる可能性もあるのだ。今のゲーム部以外にゲーム好きがバレることだけは何としても避けたかった。大丈夫、今までの人生かなり運が良かったほうだ。今日だってやってみせる。誰にも見られずに家に帰るというミッションを!
 しかしそんなさくらのミッションに、早々に失敗の匂いが立ち込めることになる。

「(――なんで今ここにいるんですか!?)」

 そこにいたのは、ゲーム部のメンバーだった。


◇◇◇


「やっぱり高いんじゃないの~?」
「まあ、まずは見てみないとだよ?」
「タイムセールとかやってるかもしれんしな」
「お小遣い貯めておいたけど足りるかなぁ」
「アプリの広告費で余裕で買えるし値段なんて気にしないけど」

 ゲーム部の5人は、自宅でも遊べるよう自分用のDDを買いに来ていた。しかし、DDは普通に買うなら3ヶ月は必死に働かないと買えない程の値段であり、当然亜美達の手には届かないシロモノだった。そこで祐希が、

「タイムセールとかあるんじゃね?」

 と言い出したので、休日に皆で遊ぶついでに見てみようという事になったのだった。
 寒い中温かい店内に入った亜美達は、早速ゲーム売り場へ向かった。

「なんかかなり怪しい人がいるんだが」
「亜美ちゃん、目を合わせちゃだめだよ」
「えー、なんかどこかで見たことあるような気がするんだけど……」

 じっと怪しい人を見つめる亜美。

「……いや、まさかね」
「どうしたの? 亜美ちゃん」
「いや、なんでもない!」

 亜美はそれ以上は深く気にしないことにした。今はDDがどれくらい安いかが重要だ。店員であるロボットに値段を尋ねる。

「Dream Dazeはいくらですか?」
「現在、Dream Dazeは取り扱っておりません」

 そのロボットは、顔に悲しいという意味の顔文字を浮かべる。

「な……!」
「あちゃー」
「そもそも売っていませんでしたね」
「最近新しいゲームが発売されてましたし……」

 売ってないという事で今日の買い物は諦めようとしていた時、霞が祐希がいないことに気がついた。先程からまわりをチラチラと見ては何かを探しているようだったが、いつの間にかそこからいなくなっていた。
 亜美が連絡を取ると、すぐに返事が返ってきた。

『すまん、レジまで来てくれ』

 短い文章だけが返ってきたのでこれは何事かと全員でレジに急ぐと、祐希は知らない人と親しげに話し合っていた。ロボットの管理者なのだろうか。

「いきなりいなくなっちゃってビックリしたよ、どうしたの?」
「いやすまんね。この店員さん、3年前に知り合ってからよく話すようになったんだけど、最近お店行ってなかったから久しぶりに話し込んじゃってさ」

 そう言って隣にいる店員さんを紹介する祐希。

「鉾田美之璃です。よろしくね」

 結局DDを買うことはできなかったが鉾田もゲームが好きでここで働いていたため、BSSや他のゲームについての話でかなり盛り上がった。ゲーム部らしく色々とゲームの情報を仕入れておきたいと思った亜美は、この日以降も定期的にゲームについて色々と話をする仲になったのだった。


◇◇◇


 もう日も暮れた6時前。駅で解散する時に、亜美がふとつぶやいた。

「潮来さんに頼めば良いんじゃ……」

 小さいつぶやきだったが、霞がすかさず拾い上げる。

「潮来さんかぁ……でも既に5個も貰っちゃってるんだよね」
「それに部活とは全く関係ない私物用に提供してくれるのか?」
「ちょっと難しい気が……します」
「とりあえずやってみるのが一番、かと」

 様々な意見が出たものの、潮来さんに聞くという案でまとまった。



「てことで、よろしくお願いします!」
「「「「よろしくお願いします」」」」
「そ、そんな事言われてもですね……」

 翌日。すぐに行動に移したゲーム部の面々はさくらの教員室へと押しかけ、昨日まとめた考えを説明していた。

「一応、潮来さんに話はしておきますが……」
「ありがとうございます! よろしくお願いします!」
「はぁ……」

 さくらは乗り気ではなかった。学生に部活動外での活動目的でゲームを与えるのは、先生としては意に反する行為である。しかし、ゲーム部顧問としては、亜美達の言っていることは分からなくもなかった。ほかの部活で言うところのラケットやウェアと違って、親に買ってもらうにはそれなりに難易度が高い物である事はさくらも重々承知していた。

 さくらはその場で潮来にメッセージを送ると、仕事中のはずなのにすぐに返事が返ってきた。

「えー、『いいですよ、今そちらに6台送っておきます』って本当ですか……しかも何故か1台多いですね」

 返事を読み上げながらその内容に不思議がるさくら。しかし亜美は約1年前、初めてDDを送ってもらったときのことを思い出していた。

「そう言えばあの時も1台多かったような……やっぱりさくら先生の分なんじゃないですか?」
「そんな事ありません! 私は自分の分を既に持って――」

 そこまで言って、さくらは自分の失言に気がついてしまった。

「えー! さくら先生もDDやってるんだー!」
「なんだか意外です……」
「あれ? 言ってなかったっけ? さくら先生はゲームが大好きなんだよ」
「また知ってる人が増えてしまいました……」
「にししー」

 亜美たちは気を使って言っていなかったのだが、結局年下組にも知られてしまうこととなってしまったのだった。

「そ、それより、既に送って頂いてるようなので、一台はこちらで保管して残りをお渡しします。渡す前に学校の備品として登録しますので、でき次第部室に送っておきますね」
「よろしくお願いします!」


◇◇◇


 部室では、ゲーム部らしく”カタン”と呼ばれるボードゲームをやりつつゲームを待っていた。
 カタンとは敵である他のプレイヤーと交渉をしながら自分の土地を有利になるように拡張していく、といったゲームである。舞台となるゲームエリアにはそれぞれ産出される資材が設定されており、サイコロを振って資材を手に入れて土地を拡張していくのだ。しかし、すべての資材を手に入れられるとは限らない。
 そんな時、プレイヤーの一人が自分が欲しい素材を持っていて、なおかつ自分の持っている資材を欲しているなら、物々交換を提案することでその資材を手に入れることができる。もちろん交渉は断ることができるが、交渉をすることで後々の信頼関係を結んだり、他にいるプレイヤーに対し共同戦線を張ったりすることができるのだ。

「もー! なんで9がこんなに出ないのさ!」
「亜美ちゃんはバーストする前に交換とかチャンスカードとか取っておいたほうが良いと思うな~」
「美穂は交渉に応じすぎだよ~もっと交渉していいか考えないと」

 霞が亜美にアドバイスをし、未来はニヤニヤしながら美穂に忠告する。カタンはゲーム部の中でBSSの休憩時間に遊ぶゲームとしてかなり人気だった。4人用が普通だが、ステージを少し大きくした5人用が売っていたため、それを購入してもらっていた。

 すると、ちょうどゲームが終わった頃にDDが届けられた。そのDDには”霞ヶ浦学園”という文字と学園章が刻まれていた。学園章はこの学園の名前の元になった湖の形をバックに、薔薇の絵が描かれたものだ。亜美は個人的にこの学園章を気に入っていた。また、各デバイスには名前が書かれていた。

 亜美たちはそれぞれ自分のDDを手に、家へと帰るのだった。
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