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第三部 分隊

3 - 4 心理戦

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 機械倫理。

 まだ機械が意思を持つ時代は来ていない。シンギュラリティ技術的特異点は結局のところまだまだ遠い未来の話のようだ。でも、そんな時代が来てから倫理を学ぶようじゃ遅いってもの。機械が意思を持ち始めたら? 機械と共に生活するような未来が来たら? その時我々が取るべき行動は? 考えることはとても多い。

「――であるからして、AIの発達によって人間よりも的確に最適解を出せる時代が来たらどうなるのか。人間は皆そのAIの言うことを聞くようになるだろう。これは既にAIに支配されている事と変わらない。信仰や武力によって絶対王政を築いた大昔とは違って、「優秀さ」によって絶対王政を築く。AIの言うことは間違ってないから、結局AIに従うことが我々にとっても一番いいことなので、絶対王政を抜け出すことは無くなるだろう。抜け出すことによるメリットが今の所なさすぎるからだ。しかし何らかの問題が生じて、いざ抜け出すメリットができてからこの絶対王政を倒そうと思っても手遅れなのである。そのときには既にAIに逆らえなくなる可能性が高い。そうなってしまったらもうこの世界はAI無しでは成り立たなくなる。我々は被支配者となるのだ。そんな未来がいつ来るか分からない今、機械倫理はとても重要である」

「うーむむむ……難しい話よ」
「まあ、AIが支配する世界なんて想像できないよね」
「しかしこの話は論理的な根拠がなさ過ぎるな」
「はえ? どーいうこと?」

 祐希は亜美と霞とは学科が違うので授業は別のはずなのだが、この授業は共通科目なので一緒だった。亜美は祐希の頭の良さに先程から感心ばかりだ。

「まあ、簡単に言えばこの話は空想上のもので実際にはそんな事にはならないでしょって事」
「そうなんだ~」
「機械は実質的な支配者にはなれない。あくまでも人間をサポートする立場さ」
「うん、そうあってほしいよね」

 結局、機械倫理ってなんなんだ……と思いつつ、テストに出ると言われた場所をマークしていく亜美であった。


◇◇◇


 放課後。ここ最近ずっと放課後が待ち遠しい。早く祐希と空を飛びたい、祐希から技術を吸収したい、そんな意欲が亜美を駆り立てる。霞も、亜美だけでなく祐希が加わったことで二人に追いつこうと密かに闘志を燃やしていた。二人はその事を知る由も無いが。
 今日から分隊を組んで三人でオンラインに潜る事になっていた。

「そうだ、分隊名考えてないよね」
「そうだな。分隊名は呼びやすいものが良い」
「ふっふーん。既に考えてあるのだよ、諸君」

 亜美は今朝から授業中に至るまでずっと分隊名を考えていた。呼びやすく、聞き取りやすく、他と被らず、かっこよさげな名前。
 そんなとき、歴史の授業で先生がこの辺りの昔の地名を読み上げていた。国名にもなった武蔵や、上総、下総、磐城、そして常陸。
 先生はこの磐城と常陸を合わせて、常磐じょうばんと呼ぶとも言っていた。

「この常磐だけどな、『常盤』と書くことで」



「”ときわ”、と読むこともできるんだ」



 亜美は聞き逃さなかった。

「トキワ……!」

 すぐに意味を調べる。

『常磐(常盤、ときわ)とは永久不変な岩の事を指し、転じて永久不変なことを指す』

 永久不変。これはカッコいい! 地元に関係のある言葉だし、これは良いかも!
 にしし、これでかすみんと祐希をあっと言わせてやる!

あっと言わせる方法がなんとも亜美らしいが、それは置いておく。

 そんなこんなあって、分隊名は<<トキワ>>が良いんじゃない? と亜美は提案したのであった。
 二人とも異論はなく、結果分隊名は無事に決定した。
 分隊長は実力を鑑みて祐希に、副隊長を亜美が務めることになった。
 また、分隊にはエンブレムが必要だと祐希が言っていたので、霞が昨晩のうちに何個か案を描いてきていた。色々あったが、全員が気に入った薔薇の絵を選ぶことにした。
 そんなこんなあって無事に分隊を結成した三人は、早速分隊戦に挑むことにした。



 初戦。人数はできる限り一緒になるようマッチングするらしく、3vs3だった。
 結成してすぐだからか、レートが低く相手も弱かった。祐希が全機機銃で落として勝利。亜美と霞は手を出すこともなかった。

「だめだ、相手が弱すぎる」
「まーそうよね、レートまだ低いもんね」
「地道に上げていくしか無いね」

 三人は何度も戦闘を繰り返し、どんどんレートを上げていった。一日で上位5%に入り込むくらいには連勝した。祐希が強すぎたのだ。霞は後半になるとだいたい5回に1回は撃墜されるくらいのレベルだったが、亜美は攻撃を食らう事はあっても撃墜は0、祐希に至っては被弾すら0という有様だった。

「明日以降に期待だな」
「今日はもうおーわり!」
「連戦しすぎて疲れた疲れた……」

 そして翌日。放課後になるとまた三人は分隊戦に潜り込んだ。
 昨日に比べるといくらか相手は強くなっていて、今日の後半には亜美がとうとう撃墜されてしまった。といっても撃墜されたのはその一回だけでその他は生き残っているのだが。
 霞は相変わらず5回に1回くらいで撃墜される。だいたい一人を追ってると残りのメンバーに撃ち落とされるパターンだった。祐希がその兆候を感じ取るとすぐにカバーに入るので大体は撃墜されないのだが、遠いところにいると間に合わないことがあった。
 霞は次の戦闘で活かそうと毎回戦闘後に反省会を自分の中で開いていて、その甲斐あってか少しずつ上達していくのが二人の目にも見て取れた。そして祐希は今日になっても被弾すら0。撃墜数は2位の亜美に3倍差をつけていた。


◇◇◇


「心理戦、かぁ」
「多分、私が祐希に勝てないのはそこが理由だと思うんだ」

 亜美は休憩時間にお茶を飲みながらレクチャーをお願いしていた。霞も気になるようで、祐希に目線が集中している。ちょっとバツが悪そうに笑いながら祐希は語り始めた。

「とりあえず後ろに付かれた時、逃げることを思考の外に投げちゃおう」
「ええ?」
「逃げる、じゃないんだ。相手の一番意識していない所に移動する。もしそれが相手に近づく方向であってもね」

 祐希が言うには、どの方向から自分が捉えられているか、視線の移動、太陽の位置が重要なポイントらしい。もし一直線に視線が動いてきたのなら、その先に逃げたってすぐに追いつかれる。そこで一気に視線のルートを外れるように移動すると、反応が遅れるらしい。その時、太陽側に逃げれば更に効果的なのだとか。そう言われると、一度祐希をロックオンした時、太陽の真横に逃げられて見失った事を思い出す。
 そうか、太陽か……ちなみに夜の場合は月のない方角だそうだ。くらい所に逃げることで少しでも反応を遅くさせる。雲が多い昼は海面や地面に近い方。下を見がちな人間だが、実は上を見るより下を見るほうが難しいんだって。よく知ってるよねぇ……

「あと、相手の行動パターンは時間が経つにつれてどんどん分かりやすくなるから、先読みもしやすくなる」
「それはよく分かるよ。いつも最後のほうだと同じ回避しかしてない気がする」
「それは相手も同じ。だから少し隙を作ってあげて、そのパターンに誘い込む。誘い込めたらあとはもう一方的に攻撃するだけ」
「それで抜け出せなかったのかぁ~」
「それだけでも無いとは思う。結局は経験さ」

 経験の差は如実に現れていた。先程の分隊戦でも、どんな戦法で向かってこようが祐希はすぐに的確な指示を出していた。

「(私にはあそこまで的確な指示は出せないなぁ。かすみんならできるかもだけど)」

 一人勝手に尊敬する亜美であった。

 その後、休憩が終わってもう一度ダイブした亜美は祐希の戦法を試すことにした。簡単だ、逃げる方向を変えるだけ。そしてそれはかなり効果を発揮していた。敵の追跡を簡単に剥がすことができたのだ。

 改めて祐希の凄さを思い知った亜美は、更に闘志を燃やすのであった。
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