ACE Girls

ふろいむ

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第二部 学校

2 - 2 ゲームサークル

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 思い立ったが吉日。
 善は急げ。

 私の好きな諺だ。構想からたったの5時間で、私は自分の「居場所」を手に入れることができた。

 ゲームサークル。

 まさか、ただゲームするだけのサークルが認められるなんて、言い出しっぺであるはずの私がいまだに信じられないでいた。かすみんも何故か乗り気だし。ってかこんなに積極的だったっけ?もっとこう、「いや無理でしょ、ちゃんとしたの考えよう」とか言ってくるとばかり思っていたんだけどなぁ。

 霞の「亜美ちゃんみたく行動力をつけたい」という思いは流石に亜美の知るところではない。

 しかも私がサークル長ときた。こーいうのはかすみんの方が向いてると思うんだけどなぁ。まぁ、私が言い出したんだしやってみるっきゃ無いよね。とりあえずサークル長って言いづらいから早いところ部活に昇格させたい。部長……一度でいいから言われてみたいものだ。
 ただ、まだサークルとしても方向性が決まってないから最初のうちはかすみんと二人でやっていくかね。あと一人くらい来てくれても良いとは思うけど。


◇◇◇


「とりあえず部屋を作ろうか」

 鍵を受け取り、その足で部活棟へと向かった私たちは、我らがゲームサークルに割り当てられた部屋の前に来ていた。

「そだね。まだ何も部屋にないし、とりあえず机と椅子ぐらいは持ってこないと」

 かすみんの提案に頷きつつ、部屋へと入っていく。新しい部室には前の壁にホワイトボードが、後ろの壁に黒板が、南側に窓が、そして廊下側と後ろ側にはロッカーがあった。でもそれ以外は一切部屋にはなく、倉庫から必要な分だけ備品を運ぶ必要があった。
 この時期は年度明けで部室の移動や私たちのような新規部活、サークルが多く、部室棟はかなり忙しない雰囲気だった。用務のおじさん達が備品を運んでくれるので体力的な心配はいらないけど、部屋の中での移動は自分たちでやらなければならない。私たちは汗をかきつつ部屋づくりに勤しんだ。

「ふい~」
「ようやっと終わったね」
「良かった良かった、しかしなんでまあ冷蔵庫やベッドなんて備品があるんだねうちの学校は」
「最初は運動部がスポドリの保管や熱中症の時用に欲しいって言い出して、なんか去年の総会で運動部だけだと不公平だって言い出した人がいるらしいよ」
「その人は平等と均等を一緒に考えてるよね~」
「まあ、うちらとしてはありがたい話だよ」
「まーそうだね、存分に活用させていただきましょ」

 早速ベッドに寝転がる私を横目に、かすみんは廊下に『ゲームサークル』と書かれた札を掛けに行った。そういやすっかり忘れてた。こういうところ、かすみんはよく気が付くというか。ほんとありがたい。



 廊下は備品を運ぶ用務員さんたちが行き来していた。

「ゲームサークルか、これはまた面白いサークルができたもんだ」
「まだ二人しか居ないんですけどね~」
「はは、まあこれから少しずつ増やしていけばいいさ。部になればもっと大きな部屋になるぞ」
「はい。ありがとうございます」

 私は用務のおじさんの応援にお礼を返し、再び札を見た。サークルだからまだ小さい部屋しか割り当てられていないけど、それでも立派なサークルだ。今は二人だし十分広いけど、今後メンバーが増えたら確実に狭く感じるよね。

「(まあそうなった時は部活に昇格して新しい部屋に移るのが普通なんだけど、そう上手くは進まないだろうなぁ……)」

 部活へ昇格するには正式に部の顧問を誰かにお願いしないといけない。先生方は顧問の仕事が増えるのがあまり好ましくないのか、簡単には引き受けてくれないのだ。しっかりと部活の目的、意思、やる気を見せて、先生へ『プレゼン』をすることで顧問のお願いを引き受けてもらうのがこの学校の習わしだった。
 札をかけ終わったので部屋の中に戻ると、亜美ちゃんはベッドの上で寝ていた。

「亜美ちゃん、そのまま寝ちゃったら帰れなくなるよ~」

 私が外から帰ってきたのをベッドの上から見やり、しかしてそのまま寝っ転がりつつ。

「もう少し横にさせて~」
「もう……」

 そう言いつつ私は冷蔵庫から飲み物を取り出した。

「色々備品買わないとだね」
「え~他に何が必要かなぁ」
「サークル長しっかりして~」
「へいへい、まずは食器とマグカップかな」

 やっぱりサークルと言えば皆でお茶会だよね。でも、亜美ちゃんは何か重要なものを忘れてるよ?



 寝っ転がっていたらかすみんが帰ってきた。今は冷蔵庫の中に入れてあるペットボトルの飲み物しか無いし、早めにマグカップを買って紅茶を飲みたいかな。
 ……かすみんが何故か笑っているように見えるけど、何かおかしいこと言ったかな?

「それも欲しいし、まずはなんと言っても『ゲーム』が必要だよ」

 ――あ。

「あー! 忘れてた!」
「ちょっと……」

 ゲーム。そういえばうちらゲームサークルなんだよね。なんてこった。すっかり忘れてたよ。さて、どんなゲームをしようか。最初の最初だし慎重に選びたい。

「ボードゲーム、カードゲーム、デバイスゲーム……はディスプレイがないからまだ無理か」
「メガネ型でもできるゲームは結構あるみたいだけどね」
「そもそも買ってくれるか怪しい」
「ははは……」

 ここで少し説明。デバイスゲームはその昔ビデオゲームだとかテレビゲームだとか言われてたっぽいけど、最近は大型ディスプレイ自体結構廃れてきていて、ウェアラブルデバイスで遊ぶことが主流になったからこう言われるようになったみたい。てか大型ディスプレイなんてデカブツどこに置いてたんだか。重いしコードのせいで動かしづらいしで良いことないじゃん。やっぱ網膜投影型が一番ラクでいいよね。高いのが難点だけど。
 今はお金がないからタブレットとメガネ型で我慢してるけど、それでもディスプレイに比べれば綺麗で大きな画面で遊べる。ディスプレイは値段が安いという利点しか無いと言っても過言ではない。

 ……でも今はその利点がゲームサークルにとっては大きな利点でもあるんだけど。

「とりあえずボードゲームで良いんじゃない? 将棋とかは?」
「将棋ね~知っての通り私弱いんだよね~」

 将棋は苦手だ。いつの間にか王手飛車取りとか割り打ちの銀とか垂れ歩とかやられてボッコボコにされるのがオチ。ちなみに割り打ちの銀とかって言葉はかすみんに教えてもらった。

「まあ、私に勝ったこと無いよね」
「それはかすみんが強すぎるだけ~」

 かすみんは地域の将棋大会で並み居るじーさんばーさんをバッタバッタと倒していった凄腕の持ち主である。凄腕というか凄脳?
 とりあえずゲームサークルとしてはうってつけの逸品である。早速申込書に書いておく。

「他には~?」
「やっぱりデバイスゲームも気になるなぁ、私あーいうゲームやったこと無いし」
「へ~意外。かすみんがデバイスゲームに興味を持つなんて」

 かすみんは将棋とか囲碁とかそっち系のゲームを提案してくると思ってたけど意外だ。

「とりあえずデバイスが必要だよね。さくら先生に頼んでみるか~!」
「許可してくれると良いね」

 デバイスと言えば最近だと上栖工業が高性能なインテリデバイスを開発したとかなんとか。網膜投影型の極致とも言える精巧さで、揺れによる振動も全て補正してくれて輝度調整も今までよりもスムーズで自然。バッテリーは温度差発電と太陽光発電で装着していればずっと使えるらしいし、もうこれより良いデバイス作れるの?って感じ。ぜひとも欲しいけどお値段もそれなりだから個人で買うのはちょっと手が出ないシロモノである。


 ◇◇◇


 翌日。
「分かりました。機種については先生あまりわからないから、とりあえずこれをそのまま買いますね」
「えっ本当に買ってくれるんですか!?」
「何言ってるの、鹿嶋さん。あなたはゲームサークル所属でしょ? ゲーム買わなくて何するの?」
「ええ……」

 こんなにあっさりok出してくれるものなのか。てか通る気しなくて上栖のインテリデバイスで記入しちゃってるけど……

「あ、そう言えば先生の友人に常陸で働いている人がいるのですが、ゲーム部門にいた気がするので今度あったら色々話聞いてみますね」
「常陸!?」

 常陸といえばあの常陸である。我が武蔵国の中でも最古参と言える会社で、会社規模も世界随一である。当然入社するだけでもかなり難しいのだが、そんな常陸に入社しているっていったい……さくら先生の友人、恐るべし。


 ◇◇◇


「え!? 許可通ったの?」
「うん、ふつーに」
「なんてこった……」

 まあこの反応も頷ける。私も同じ反応したし。学校のお金でゲーム買ってくれるってどういうこっちゃ。まあこちらとしてはありがたい話だけどね。
 あと1時間もしないうちにドローンで運ばれてくると思うとワクワクが止まらない。憧れのあのインテリデバイスが。この手に。

 ……まあ「この手」というか「このサークル」なんですけどね。

 待ち時間でかすみんと絵しりとりで遊んでいると早速荷物が届いたようで、用務のおじさんが連絡しに来てくれた。

「ゲームサークルさん、備品届いてますよ~」
「あ、ありがとうございまーす」



「おぉう……」
「先生、なんでまたこんなのを……」

 二人の前に現れたのは、いかにも高級そうな将棋盤と将棋の駒。漆で黒く染めた駒に金色の文字。文字が凹んでなく、インクで浮き上がっているので相当の逸品である。将棋盤もまた豪勢で、これも漆で塗られた木製の板に金色の罫線。

「これ、モノホンの金じゃないよね……」
「……」

 さっきから納品書を見ているかすみんが固まっている。

「どうしたの? かすみん」
「じゅ……」

 じゅ?

「純金だこれー!?」
「えええーーー!?」

 まさかの純金でした。先生何やってるんすか。漆に金で作られた駒なんて恐れ多くて使えないですよ。

「これは家宝にしましょう」
「そうしましょう」

 さて、次のシロモノが本命だ。本命だった、のほうが正しいかもしれない。だってさっきの将棋セットのほうが絶対高いでしょ。
 ……ちなみに、さくら先生は「どうせなら良いものを」と、探した中で一番高いものを注文したのであった。

 まるでクリスマスの日の子供のようにパッケージの中を漁り始めた。空を飛んでくるので緩衝材が多く入っていた。

「やっぱり! 上栖のインテリデバイスだ!」
「先生、本当に買っちゃんたんだね……」

 しっかり上栖のインテリデバイスでした。早速開封。

「なかなかこれは」
「良いものですな」

 キャッキャウフフと遊んでいると、部屋に取り付けられているディスプレイから呼び出し音が鳴った。
 私が代表して対応すると、そこに映っていたのはさくら先生だった。

「あっさくら先生」
「だから太田先生って言いなさいって……ってそうじゃない、今常陸に勤めてるって言ってた友人が学校に来てくれることになって、是非あなた達と話がしたいって」
「本当ですか? でも私達と?」
「ええ。とりあえず、30分後に私の教員室に来れるかしら?」
「分かりました。かすみんと一緒に伺います」
「大宮さんね。よろしくね」

 う~ん、常陸の人が私達と話がしたいだなんて、どんな話なんだか。私は常陸に入れるほどの頭持ってないしなぁ……かすみんなら行けるかもしれないけど。
 私は頭を悩ませつつかすみんと一緒に教員室へ向かった。
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