ACE Girls

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第一部 演習

1 - 1 凄腕の分隊

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「敵機発見! 方位280、高度6000! NF-14<トムキャット>!」

 トムキャットか、随分古い戦闘機を使っているんだな……もしや可変翼フェチか?
 仲間からの報告に返事を返しつつ、今の編隊で迎え撃てる最良の作戦を考える。自分に任されている一番重要な仕事のひとつだ。ついでに相棒にも作戦の確認をしておく。

「まずはプランAからかな」
「……よし。亜美あみかすみは高度を取って敵の上から回り込んで。未来みらい美穂みほは左右から回り込み。さくらは俺といっしょに来て。いつもの作戦プランAで行くよ!」

 了解ラジャーを全員から受けつつ、俺とさくらだけ高度を変えずに機首を敵機に向ける。今までに何度もやってきた作戦だけあって、みんなの動きもスムーズだ。
 敵機の特徴は何と言っても近接だろう。はっきり言って格闘戦では不利な状況だ。NF-14は超長射程ミサイルを搭載することができるのだが、いかんせん追尾性能が弱い。そして機体性能が格闘寄りな面もあって使用率はとても低かった。結局よく使われているのは射程距離はそこそこの追尾性能が高いミサイルだ。今回もそれを持ってきていると想定すれば、ミサイルの射程距離に関しては自分達の機体であるNF-7に比べて短いはず。それならば出来るだけ接近は避けて得意のアウトレンジ攻撃に限る。

 作戦Aは、俺とかすみが囮として正面からミサイルを撃ち込み、敵がブレイク散開した所を上と横から大きく回り込んで相手を挟むことで逃げ道を無くし、四方八方からミサイルで撃ち落とす作戦だ。それぞれ個人の力が相当なものでないと取れない作戦だが、このチームならやってくれると信じている。そして今までもこの作戦で敵を倒してきた。
 ただ、敵も案山子じゃないから相応の対処をしてくる。今までに多くの敵に対してこの作戦を使ったが、大体3パターンの対処に別れた。一つは囮と主力隊に分かれ、主力隊で左右に別れた未来か美穂を追い、囮は撃墜覚悟で残りの三人の足止め。その内に主力隊が一人を倒し終えて次の一人をまた狙う、というパターンだ。このパターンは主力隊が素早く狙った機を倒せれば良いが、そこで時間を取ってしまうと囮が撃墜させられて挟まれてしまう。いかに素早く撃墜させるかが重要だ。こちら側としては、狙われた1機は出来るだけ敵の主力隊から逃げつつ仲間の合流を待つのが基本。このパターンの対処に関しては勝率は9割にのぼる。
 そしてもう一つのパターンが、全機が上側の二人に対して攻撃を仕掛ける対処だ。この対処は攻撃されない左右の二人がフリーになるため敵機の後ろ側を取りやすい。結果的であるが集団的なサッチ・ウィーブ戦法に似た形になる。また全機で上に攻撃するのではなく、二手に別れてそれぞれでサッチ・ウィーブを仕掛けてくる敵も多い。この時は混戦になるがある意味技術力が一番モノを言う。この場合は勝率は8割弱といったところか。

 ただ、このように対処されるのは相手がそこそこ強いときだけで、普通以下の相手だと周りを見ずに一機だけになって横に広がった未来や美穂を狙い、気付かない内に後ろに回った亜美や霞のミサイルをケツに貰うか、逃げ場を求めて下へ逃げ、結局ミサイルの餌食になるか、などなどのようにチーム戦の強みを活かしきれずに墜ちていくのがいつものパターンだ。

 そして、全ての想定において全く関わっていない機がある。それこそが俺とかすみであり、どのパターンに対しても能動的に動くことができる立場にいる。俺達の役目は敵機の撹乱であり、四人に対応している隙にいずれかの機の後ろに回り込み撃墜する。撃墜とは行かずとも誰かが狙われていたらその狙いを外すだけでも十分な意味がある。所謂遊撃部隊って所だ。古い戦術だがロッテ戦術というものを参考にしたこの戦法で俺たちは今まで何度も勝ち抜いてきた。

 すでにミサイルの射程範囲に入ったので全員が適宜ミサイルを発射していた。当たるとは思っていないが、これで墜とせたら儲けものだ。さて、どう出るかな? 今回の相手はそこそこ強いと聞いたが……

「敵機ブレイク! これは……なんだこりゃあ!?」
「美穂、報告は端的に完結に客観的に」

 少し先に出て索敵をさせていた美穂から報告……のようなものが届く。いつもは未来の役目だが今日は美穂が練習がてらやっていた。

「ええっと……そうそう、全機バラバラに散開しています!」

 バラバラ? どういうことだ? 一対一での格闘戦に持ち込むつもりか?

「了解。各機、2対1であたれ。過度な近接戦闘は避けるように。近づく前に墜としてやれ。くれぐれもケツを取られるなよ」
「「「「了解ラジャー!」」」」
「さくら、俺たちは4人の戦闘支援。回り込もうとした機体を追い払う!」
「了解です!」

 なんてこった。まずったか? 格闘戦だとこちらが不利だ。こちらが一方的に撃ち落とせる距離のうちに仕留めたい。
 しかし敵さんは余程の自信があるようだ。この形は一対一で撃ち落とせる前提でないと成立しない。散開して各個撃破されたら一巻の終わりだ。この戦法を取るということはそれだけ個人の力を信用しているということ。それだけの強敵だとしたら一機ぐらい落とされるかもな。やっぱりなるたけ遠距離から撃ち落としたいんだがなぁ。ここは俺のミサイルでぽちぽち撃ち落とすのが正解か? しかし当たる気がしないしなぁ。

「未来、1機だけ俺の前に持ってこれるか?」
「やってみるよん、操縦はよろしくね」

 未来に敵機の誘導を任せて、対空ミサイルの準備をする。このゲームのミサイルはすぐにECMで対処されてしまうため、飽和攻撃などでECMを切らす必要がある。しかし、それも敵がミサイルに気づいていれば、の話だが。どういう意味かって? いまお見せしよう。
 未来は敵から逃げるように見せかけて上手く自分の前にやってきた。

「ブレイク!」
「あいさー!」

 未来がブレイクする寸前でミサイルを発射する。未来に対して機銃を撃っていた敵機はいきなり現れたミサイルに頭から突っ込む。まさかヘッドオンでミサイルが飛んでくるとは思わなかっただろう。こうやって不意を突けばECMも間に合わない。

「もらった!」

 ようやく気づいた敵さんだがもう遅い。焦ってフレアを焚いたようだがNF-7のミサイルは画像認識なのだよ。ECMを起動する時間もありはしないだろう。

 敵機は正面からミサイルに飛び込みあえなく撃墜された。
 さくらも霞の後ろについた敵機を難なく撃墜していた。

「やーばーいー!」

 亜美からの無線に目をやると亜美の後ろには2機の敵機が張り付いていた。霞とさくらがさらにその敵機の後ろにつこうとするが、機動性で勝てず機銃がなかなか当たらない。格闘戦では機体差が如実に現れていた。

「いま行きます! ……いくよ!」

 未来と美穂は上手くコンビネーションで2機を撃墜して、亜美の支援に入ろうとする。とその時、

「うーん、できるかなぁ……うぉりゃー!」

 亜美は滅多に成功しないコブラ機動で敵機の後ろを取り、

「よっし! おかえしだー!」

 機銃で瞬く間に1機を撃墜した。もう1機はというと、焦って自分の目の前に飛び出してきたので機銃で撃墜しておいた。
 6機全部を撃墜した為、視界が暗転しリザルトスコアが表示される。撃墜数はわたしと未来が2機、亜美とさくらが1機だ。時間は13分57秒。残機数6対0の圧勝だった。


◇◇◇


「いやぁ~勝った勝った」
「亜美はいっつも後ろ取られてるよね~」
「いつもじゃないし~」
「ほんとに~?」
「ほらほら始めるよ~」

 試合後、いつもの場所でお菓子を広げつつ反省会を開く。今まで何があろうと試合後に反省会をやらなかったことはない。毎回何が良かったか、何が良くなかったか、気づいたことを全てメンバー間で共有する。

「やっぱり祐希ゆうきは凄いね~、最初の撃墜は見事だったよ」
「亜美はもうちょっと逃げる方向を考えたほうがいいな。指示の出し方をもう少し細かくしてみよう。出来るだけ仲間の多い方に誘導できるようになればいいんだが」
「未来と美穂も相変わらずのコンビっぷりですね」
「逃げるだけなら……私もできますから」
「やっぱり美穂が逃げる時って敵機がシンプルな機動をするんだよね~撃ち落としやすいや」
「さくらも良かった、今回は霞を救ったわけだ」
「ほんとに助かったよね~。ありがとう、さくら!」
「そんなそんな~照れるわねぇ」

 と、のんきに感想を言い合うだけだが、これが次回以降のコンビネーション向上に繋がると信じている。
 そして今回の一番の議題。

「それでだ。今回の相手はあまり見ない対応をしてきたわけだが」

 バラバラに散開。よくよく考えると普通にありえる戦法なのだが、今までそのような戦法を使ってきた敵は居なかった。散開すると2対1の状況になりやすく、各個撃破の格好の的になるからだろう。しかし今回の一戦でこの戦法に対する明確な対処法を考えていなかった事が良く分かった。

「今回の場合は作戦Aではなくて作戦Cの方が良かったのかもですね~」

 作戦Cとは2機ずつに分かれて2対1で各個撃破する、という戦法だ。Aとは違い俺とさくらも最初から突入する。結果的に今回は作戦Cになっていた。

「そうだな、作戦Cも頭に入れておくか」

 そうやって今回の戦いの評価を行い、何が適切な答えだったかを確認する。この繰り返しこそが強くなる為の王道だと思っている。

「それじゃあ、今回はここまで。未来はそろそろ塾の時間じゃなかった?」
「あー! やばいやばい! それじゃ、またねー!」

 そう言ってすぐにログアウトした未来に続いて、他のみんなもログアウトしていった。このチームは全員揃ってのチームであり、一人でも欠けたら戦いには出ない。それがこのチーム、「ACE Girls」の鉄則ルールだった。
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