リリアンナ・セフィールと不機嫌な皇子様

束原ミヤコ

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番外編

 アニスと野良猫 3

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 見開いた瞳から涙が零れた。
 婚約者になると、こんな屈辱に耐えなければいけないのかしら。

「あ、ああ、あぅ……っ、ん、……シリウス、さまぁ、あ、ぁあ……っ」

「良いね、アニス。もっと呼んで。そうしたら、もっと気持ち良くしてあげる」

「ゃ、……っ、いらない、わよ……っ」

「こんなに物欲しそうにしてるのに?」

 シリウス様は一番気持ち良いところを舐りながら、長い指をぬかるんだ私の中へと差し入れた。

「可愛いね、アニス。ほら、君の中は、俺が欲しいって言ってる」

「ちがう……っ、く、……あ、ぅ……っ」

 ぐちぐちと中を押し上げるように刺激されて、同時に花芯を何度も優しく舐られると、逃げ出したくなるほど気持ち良い。

 シリウス様は酷いことを言うけれど、痛いことはしない。
 私を貶めたいのなら、服従させるために痛くすれば良いのに。

 どろどろに体が溶けてしまうぐらいに優しくて気持ち良くて、それが、辛い。
 内壁に優しく触れられて、長い指でかきまわされて、私は背中をそらせた。

 すぐそこまで何かがきているのに、手が届かない感覚がある。
 まるで、ベッドの上で溺れているみたいだ。

「言って、アニス。俺に愛されたいよね? 俺だけを、愛して」

 優しい声が、毒のように体を支配していく。

 まるでこの世界にはシリウス様しかいなくて、シリウス様の声を聞いて、従っていれば、その先に幸せがあるような――隷属することを望んでいるような、感覚。

 何もかもを明け渡して縋りつきたい。

 だって――お母様に捨てられてしまったら、私は独りぼっちになってしまう。
 リリアンナには殿下がいる。
 でも、私には――。

「シリウス様……っ、愛して、くださ……」

 快楽で理性が蕩けて、心の中の柔らかいものをむき出しにされたようだった。
 どうしようもなく、それが気持ち良い。

 シリウス様はとても嬉しそうに微笑んで、私の戒めをといてくれた。

「アニス、素直になれたね、良い子。愛しているよ」

 唇が触れ合い、舌が絡みあう。
 口付けも、どこまでも優しくて、触れた皮膚が全てとろりと溶けて、私が私でなくなってしまう。

 ぼろぼろと涙が零れた。
 心の奥に隠した大切な物を抱きしめられているような心地よさと幸福感が体に溢れて、シリウス様に触れられた場所が全部気持ち良くて――。

 私の中にあつい塊が入ってくるのがわかる。
 じゅぶりと先端が一番奥にあたると、お腹の奥から指先まで、ひたすらに気持ち良い。

「あ、あっ、ああ……っ、シリウスさま、ゃ、あああ、あ……!」

「アニス、君とひとつになれて嬉しいよ。こうしていると、寂しくない、よね……っ」

「っ、あ、あ……っ、シリウスさま、っぁ、ひ、ああ……っ」

 ずじゅ、じゅぷ、と、卑猥な水音が私の部屋に響いている。
 ギシギシとベッドが軋み、抱えあげられた足が跳ねた。

 薄く目を開くと、滲んだ視界にうつるシリウス様の頬が快楽で色づいている。
 赤い瞳は熱心に私を見ている。

 私を――見てくれている。

「シリウスさま、シリウスさま……っ」

 全身が茹だるように熱い。
 今まで、私を見てくれる人なんて、だれか一人でもいたかしら。

 お父様は優しいけれど、愛妾の元へと行ったきり帰ってこない日も多い。
 お母様は私が幼い頃からずっと、リアン公爵夫人への呪詛に夢中で、私を通り越して知らない誰かを見ているようだった。

 だから――。

「うん。アニス、ここにいるよ。ずっと一緒に居ようね、アニス。君には、俺しかいない。俺を見て、アニス」

 腰を揺らして私の体を突き上げながら、シリウス様が私の顔を覗き込んだ。
 長い黒髪がカーテンのように落ちて、シーツに触れている。

 私はうっとりとシリウス様を見上げて、甘えるように両手を伸ばした。
 きつく抱きしめてくださるのが、すごく、気持ち良い。

「シリウスさまぁ……っ、あ、あ……、ゃああ、ぃく、もう、いく……」

「イって、アニス。俺も、一緒に。俺で、いっぱいになって、アニス」

 激しく何度も穿たれて、私は悲鳴染みた声をあげた。
 瞼の裏がちかちかとひかり、堪えきれないほどの快楽が体を駆け巡る。

 シリウス様は私の体を更にきつくだきしめた。
 はじめて、体が軋むような痛みを感じた。

 体の奥に注がれる何かがあつくて、甘えるように私に縋りつくシリウス様が――なんだか愛しかった。


 すやすやと、私の隣で寝息をたてているシリウス様は、背の高い大きな体を小さく丸めている。
 眠るときの癖なのかもしれない。

 朝に強い私は、昨日の夜色々あったもののカーテンの隙間から差し込む朝の光とともにすっきりと目覚めて、今だ私の隣で惰眠を貪っているシリウス様の端正な寝顔を見下ろしていた。

「……良く分からないわね」

 何を考えているのか分からないけれど、どうにもほうっておけない、気まぐれな野良猫みたいだ。 
 どこまでが本気で、どこまでが嘘かもまるでわからない。

 でも、――何度も、言っていたわね。
 自分を見て欲しい。愛して欲しい、って。

「愛されたいのは、あなたなのではないかしら、シリウス様」

 私の言葉は眠るシリウス様には、きっと聞こえていないだろう。

 私は溜息交じりにシリウス様の黒い髪をさらりと撫でた。
 艶々の長い髪は、野良猫の割にはとても触り心地が良かった。




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