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聖誕祭と希望の冬
聖女再臨 2
しおりを挟む私にはフィオルド様がいる。だから――大丈夫。
「聖女とは、うまれながらにして聖女である。皆はそれを知っているだろう。最後の聖女が現れたのが百年も昔のことなのだから、その真偽は定かではないが、それは古くからの伝承である。リリアンナが生まれてから、およそ十七年の月日が経った。今更と、疑問に思うものも多いだろう」
どこからか「そうだ」「信じられない」という声が、小さく聞こえる。
表立って反発することは、陛下や公爵家を前には難しい。けれど、ざわめきに紛れるようにして、確かに疑問の声が響いてくる。
「とある事情で、リリアンナは聖女の力を封じられていた。その封印はリリアンナの婚約者である我が息子フィオルドの献身的な愛によって解かれ、リリアンナは聖女の力を取り戻した」
陛下が、やや芝居がかった口調で、大袈裟な身振りを加えて言った。
女性たちの感嘆したようなため息が、広間から聞こえる。陛下の口振りに、まるで酔っているようだった。
陛下は女性が好きなのだけれど、女性も陛下が好きなのだと、アミティ様がいつか教えてくださった。
確かに陛下は女性たちから人気があるように見える。
「そしてさらに喜ばしいことに、リリアンナとフィオルド、二人の愛が奇跡を起こし――我が国に、翼あるセントマリアの力の象徴である、聖剣ロザリオスが再びその姿を表した。それはリリアンナが聖女であることの証明となる」
陛下の熱を帯びた声に促されるようにして、私とフィオルド様は向き合った。
心配そうなフィオルド様のよく晴れた空のような瞳と目があって、私は小さく頷く。
「その美しき白刃を、皆に見せるのは、この一度きりとなるだろう。さぁ、その力を示せ。不満を漏らしたもの、疑問を口にしたものは、とくと見るが良い。この国を守護する、聖なる力を!」
私はフィオルド様の手に、自分の手を添える。
魔力が混じり合うのを感じる。
頭の中に、金の聖杯が思い浮かぶ。魔力を、聖杯へと注いでいく。
大広間の何もない天井から、青い花弁が雨のようにひらひらと舞い落ちてくる。
フィオルド様と重ねた手のひらがあつい。頭がくらくらする。体が、深く繋がっている時のように熱を持っていく。
「……なんて、神々しい」
感嘆したように陛下が呟く。
フィオルド様と私の重なった手には、白く光る美しい剣が現れた。
光があふれて、大広間を眩しいぐらいに照らした。
あふれた光は閃光のように円形に大広間を切り裂いた。
フィオルド様が聖剣を一振りすると、聖剣は瞬く間にその手から消えてしまった。
広間の方々は、祈るように膝をつく方や、腰を抜かしている方など様々だ。
やがて小さな拍手から、それは大きなうねりのようになって広間に湧き起こった。
フィオルド様は、頬を紅潮させてぼんやりフィオルド様を見上げている私を皆の視線から隠すようにして、すっぽりとその腕の中に抱きしめた。
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