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聖誕祭と希望の冬

聖誕祭の支度

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 胸の下で膨らんだスカートは、何枚ものシフォンが重ねられていて、布の量はたっぷりと多いのにとても軽い。

 白から水色に歩くたびに色が変化する複雑な重なり方をしていて、装飾は少ないけれどそれだけでもとても華やかに見える。

 首にはフィオルド様がくださった、雪の結晶を模した首飾りをつけた。

 髪にはドレスの色に似た水色のリボンを巻いてもらっている。


「お嬢様! 艶やかかつ美しく、愛らしくもある、雪の妖精のような私のお嬢様! 今日は大切な日、気合を入れて頑張りましょうね!」


 ドロレスが両手を握りしめて、私の応援をしてくれた。

 今までドロレスは私に甘かった。

 私に「頑張れ」と言うよりも「お嬢様はそのままで良いんですよ」と言うことの方が多かった。

 けれど最近は、緊張する私の一歩が踏み出せるように、背中を押すようにして励ましてくれる。


「うん。頑張るわね、ドロレス。今日はアニスさんたちの婚約発表もある、大切な日だから、私もきちんとしていないといけないわ」

「お嬢様はいつも結構きちんとしていますよ。お部屋から外に出たら、ですけれど」

「きちんとしているというか、緊張して顔がこわばってしまういうか……ドロレス、今日のために笑顔も練習したの。フィオルド様の隣で、怖い顔をするわけにはいかないもの」


 私はドロレスに向かってにっこりと微笑んでみせた。

 ドロレスは「あぁぁぁ」と謎の声をあげながら、床に膝をついてうずくまった。


「可愛い、お嬢様、可愛い、まさに天使の微笑みですお嬢様! けれどお嬢様、ご安心を。殿下の側にいるお嬢様は、最近は表情筋がそれはもう心配になるぐらいに緩みまくっていますので、自然と笑顔になっておりますよ」

「……本当?」

「ええ、ええ。殿下も同様に。お二人とも雰囲気が柔らかくなられました。これはアニス様とシリウス様にも言えることですが。お嬢様と殿下の姿を見ていたら、いがみあうことなど無意味、愛こそ全てだと思えてくるのかもしれませんね」

「……よかったぁ……できるだけ、フィオルド様にご迷惑をかけたくないもの。以前みたいに、……無愛想で、高慢で、嫌な女だと思われたら、私は良いけれど……フィオルド様に申し訳なくて」

「過去の私は、お嬢様の可憐さは知る人のみ知っていれば良い。大袈裟に言えば、私だけが知っていれば良い、と思っていましたが、今の私はお嬢様の可憐さを見せびらかしたくて仕方ありません。私のお嬢様は吐血するほど可愛い。殿下も認めるほどの可愛さ。……だから、大丈夫ですよ」


 ドロレスは、いつもとは違う落ち着いた口調で言った。

 それから私の髪を、まるでお母様がそうするように撫でてくれる。


「さぁ、お嬢様。殿下がお迎えに来てくれましたよ。胸を張って、堂々と、私は聖女です! っていう心意気を忘れずに。行きましょう、お嬢様」


 お城のお部屋の中央に置かれた椅子に座っていた私を、ドロレスが手を引いて立たせてくれる。

 背丈ほどある姿見にうつった私は、何故だか以前よりもそこまで悪女のようには見えなかった。

 ドロレスが扉を開くと、フィオルド様が待っていてくださった。

 白を基調とした、バルツス様がいつも身に纏っているものに似た皇帝の衣服に、肩からは黒に近い青いマントを羽織っている。

 
「リリィ……なんて美しい。触れたら溶けて消えてしまいそうな、儚い新雪のようだ」

「フィオルド様もとても素敵です……すごく、格好良いです」


 格好良いとしか言えない私がなんだかとても情けない。

 もっとフィオルド様を褒める言葉がたくさんあるはずなのに、格好良いとしか出てこない。だって格好良いんだもの。


「ありがとう、リリィ。……少しは、惚れ直してくれただろうか」

「……はい……っ、フィオルド様に、毎日、恋をしているみたいです、私……すごく、胸がドキドキして、好き、です」

「…………私は今日、死ぬかもしれない」

「同感です、殿下。致死量の可愛さを摂取すると人は死ぬ。真理ですね」


 フィオルド様の背後にいつものように雪が舞い落ちて、ドロレスが壁に手をついてうめくように言った。

 フィオルド様が私の腰を引き寄せて、抱きしめてくださる。

 首筋を軽く噛まれると、小さな跡が最後の飾り付けのように肌に残った。


「殿下、リリアンナ様、もう準備ができましたか? ……って、何事です、雪が……リリアンナ様の可愛さにまた死にそうになっているんですか、殿下」


 私たちを呼びにきたフォルトナ様の呆れた声が聞こえる。

 今日は特別な日だけれど、いつもの日常の延長線上のような光景に、私はほっとして、フィオルド様の腕の中で体の緊張を解いた。




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