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聖女の魔力と豊穣の秋

 もう一つの秘密 2

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 私は魔力を吸われただけだったけれど、魔物たちは普通は、文字通り、人間の肉体を溶かして食べてしまうのだとフィオルド様は言っていた。

 力を持たない人たちがあんなものに襲われたら、とてもではないけれど、助からないだろう。


「聖女の力が、魔物の脅威を退けるものだとしたら、それは必要なことです。私にそれができるのなら、……私は、みんなのために頑張るなんて、大きなことは言えませんけれど、……フィオルド様のために、聖女の役目を果たしたいと、思うのです」

「リリィ……お前は、本当に清らかで美しいな。愛している、リリィ。心の底から。聖女だから、ではない。何者でもないリリィを、私は愛している。どうか、信じてほしい」

「はい……っ、フィオルド様、私も……愛しています。だから、頑張ったら、たくさん褒めて、可愛がってくださいね……?」

「あぁ。……それは、私への褒美ではないのかと思うが、……封印が解かれたら、存分に。……ただ、リリィ、……落ち着いて、聞いてほしい」


 フィオルド様は逡巡するように、一度深く息を吸った。

 それから抱きしめていた私の体をそっと離して、私の顔をじっと見つめる。


「……私は今まで、何度もお前を抱いた。だが、……いつも、己に魔法をかけていた。避妊のための。……それがお前を汚すことの、免罪符になるような気がしていた。せめて正式に婚姻をするまではと、思っていた」

「そうなのですか……? ……良かった。……たくさんしていただいているのに授からないのは、私の体に問題があるのかと、思うこともあって……」

「そんなことは……! すまない。余計な心配をさせてしまったな。……もっと早く伝えれば良かった。お前に非道なことをしているような気がして、言い出せなかった」

「フィオルド様は、私の体を思って、そうしてくださっていたのでしょう……?」

「あぁ。……負担にならないようにとも、思っていた。……だが、お前を前にすると、どうしても触れたくなってしまう。お前を抱くことを、耐えることはできなかった」

「私は、……我慢しないでいてくださる方が、嬉しいです。……フィオルド様、いつも、優しくしてくださいますから……」


 フィオルド様にしていただくことなら、なんでも好き。

 それはずっと、変わらない。

 でも、どうして今のその話をするのかしら。魔力の封印と、何か関係があるのだろうか。


「リリィ……避妊の魔法は、本来なら放たれるはずの子種を、魔力へと変換するものだ。お前は、私の魔力をその体で何度も受け入れてくれている。何度も繰り返したせいで、お前の体に私の魔力が満ちて、封印に綻びが生じている。だから、……お前は時折、魔力暴走を起こした」

「葡萄の木や、……庭園でも……植物園の雨も、そうですね……」

「あぁ。綻び溢れた魔力は、葡萄の木を育て、庭園に植物の檻を作り、植物園に恵みの雨を降らせた。……ヴェルダナ辺境伯がお前を見れば、すぐに気づくだろう。綻びがあること。それが、私の魔力を幾度も受け入れているせいだと」

「……っ、その、恥ずかしい、です……」

「指摘される前に、伝えておきたかった。……もしかしたら、お前が傷ついてしまうかもしれないと思って」


 私は少し考えて、フィオルド様の背中に腕を回して、体をぴたりとくっつけた。

 心臓の音が、いつもよりも早い。

 フィオルド様は秘密を打ち明けてくださった。落ち着いているように見えたけれど、緊張なさっていたのかもしれない。
 どこまでも私のことを気遣ってくださるフィオルド様の繊細さが、愛しい。


「今度から、魔法、使わないでください……ドロレスが、フィオルド様は我慢しているって、ずっと前に、言っていました。魔力を、出すのと、……その、本当の、……子種を出すのとは、違いますよね……?」

「……そう、だな。違うのだろうな」

「我慢、しないでください。私、フィオルド様との赤ちゃん、欲しい、です……」

「……いますぐ、抱きたい。……リリィ、それは反則だろう」


 フィオルド様の声に、艶が灯る。

 私は慌てて、首を振った。

 私もフィオルド様に愛していただきたいけれど、今は駄目だ。


「フィオルド様、辺境伯が、待っていらっしゃるので……っ、フィオルド様は、五分で終わらないですから……っ」

「五分?」

「は、はい……アニスさんが、シリウス様は五分で終わるのだと言っていて。……フィオルド様、いつも、数時間は、してくださるから……」

「…………そうか。……リリィ、全てが終わったら、ゆっくりお前に触れたい。……魔法、なしで」

「はい……っ」


 私は頷いた。
 フィオルド様は艶やかに微笑んだ後、「シリウスは大丈夫なのだろうか……」と小さな声で呟いていた。


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