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聖女の魔力と豊穣の秋
お城への呼び出し 1
しおりを挟むフィオルド様とシリウス様、私とアニスさんの四人が、お城に呼ばれたのは、マリアテレシア生誕祭を目前に控えた、秋も深まった冬の入口のある日のことだった。
式典のためのドレスの色やデザイン選びと採寸を行うという名目だったけれど、フィオルド様が「リリィとアニスに会いたいと、母上が言っている」のだと教えてくださった。
週末の朝、お城からお迎えに来てくれた馬車にフィオルド様と共に乗って、お城へと向かった。
馬車は二台。私とフィオルド様、それからシリウス様とアニスさんが乗るためのものが、学園の門の前に停まっていた。
ドロレスとエヴァさんはお留守番で、二人とも女子寮の前まで来て私とアニスさんを見送ってくれた。
シリウス様は相変わらずアニスさんの部屋で生活しているらしく、最近堂々と女子寮の中でその姿を目撃するようになった。
ボタンをとめないせいで胸元がざっくりあいた姿で、女子寮の廊下をうろうろするシリウス様と私も何度か会っている。
シリウス様は特に悪びれた様子もなく「アニスに部屋を追い出されたから、アニスの機嫌がなおるまで帰るところがないんだよ」などと言って、私の部屋で匿ってほしいと言ってきたりするので、何度かお断りさせて頂いた。
私が断ると、女子寮の談話室などに行って、他の女生徒の方々と新しいお化粧やドレスのデザインなどについて話しては盛り上がっているシリウス様を、アニスさんがやってきて部屋に引きずっていく光景もよく見るようになった。
慣れとは怖いもので、今ではシリウス様もまた立派な女子寮の一員である。
フィオルド様にお話したら、頭を押さえてため息をついていた。
それから、「シリウスを部屋に入れてはいけない」とおっしゃっていた。
フィオルド様に手を引かれて、私は馬車に乗った。お城でまた会いましょうとアニスさんに挨拶しようと思ったけれど、アニスさんは行きたくないと駄々をこねているシリウス様を馬車に押し込んでいて、大変そうだったので声をかけるのはやめておいた。
「……リリィを、城に連れていくのははじめてだな」
皇家の紋章があしらわれた立派な馬車の中で、フィオルド様が言った。
向かい合わせで座っている私は、記憶を辿って、こくりと頷いた。
「お父様と、何度か訪れたことはありますが、フィオルド様と一緒にお城に行くのは、これがはじめてです」
「本当は、あまり連れて行きたくないんだ」
「……お城に、ですか?」
「あぁ。あと数ヶ月もしたら、私が皇帝となる。バルツスは上皇となり、母上と共に西の離宮に移る。古くからの決まりだ。それまでは、リリィをあの男に会わせたくなかった」
「フィオルド様、皇帝陛下とは、その……」
フィオルド様が皇帝陛下を嫌っていることは知っているけれど、憎しみ合うような関係だとはどうしても思えなかった。
もしそうだとしたら、皇位継承に問題がおこらないともかぎらない。
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