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聖女の魔力と豊穣の秋

 アニスさんとのお茶会 2

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 どうやらお仕置きというのは、叱られるということではないらしい。
 それは、つまり。


「その、お仕置きというのは……私が、フィオルド様に、その、可愛がっていただいているのと、同じ意味、なのでしょうか。フィオルド様は、良い子だって、いつも褒めてくださいます、けれど……シリウス様は、お仕置きと、おっしゃるのですね……?」

「うう……」

「お嬢様からお話はかねがね聞いておりました。シリウス様とは百合の間に割って入る不届な男だとばかり思っていましたけれど、アニス様もシリウス様のことをお好きな様子。万事うまくいって良かったです。さすがに五分ではないですよね、アニス様。毎日元気がないのは、毎日のお仕置きのせいと、理解しても?」

「五分よ、五分。ベッドに入って五分で終わるわよ。私はお飾りの婚約者なのだから、五分間だけ我慢してやっているのよ」


 興味津々、という感じで、ドロレスがアニスさんに尋ねる。
 アニスさんは開き直ったように、投げやりに答えた。


「これが世にいうツンデレ属性。リリィお嬢様とは真逆の愛らしさがありますね、エヴァさん」

「そうなんですよ、ドロレスさん。我が家のお嬢様もまた、可愛いのですよ。以前は猪ぐらい真っ直ぐ突っ走る考えなしの傲慢なお嬢様でしたけれど、ドロレスさんやリリアンナ様のおかげで、ツンデレに落ち着きました」

「意味のわからない話をするんじゃないわよ。何よ、その、なんとかって」

「まぁ、私のお嬢様の方が可愛いですが。素直健気でちょろちょろにちょろいお嬢様の可愛さたるや、無知と思いきや一生懸命で時に大胆にもなれるリリィお嬢様こそ至高。潔癖で真面目でありながらリリィお嬢様の愛らしい姿を見るためなら努力を惜しまない殿下とお嬢様の素晴らしさに勝るものはありません」

「何を言っているんですか、ドロレスさん! 私のお嬢様だって負けませんよ! 普段は嫌だ嫌だと拒否しながらもいざお仕置きがはじまると素直になっちゃうアニスお嬢様が可愛いことももちろんですし、かなり寂しがり屋で甘えたがりのシリウス様もまた可愛らしいのです。とても良いと思いませんか」

「それはそれで、捨てがたい……!」


 どうしよう、ドロレスとエヴァさんの会話があんまりよくわからない。

 なんだか盛り上がっていることだけは理解できるのだけれど。

 アニスさんにもあんまりよくわからないらしくて、眉をひそめながら「あの嘘つきが、寂しがり屋ですって?」などと呟いている。


「……アニスさん、本当に、五分なのですか?」


 盛り上がっているドロレスとエヴァさんのことは気にしないようにして、私はアニスさんに聞いた。

 アニスさんは一瞬黙った後に「五分よ」と頷いた。


「……そうなのですね。それが、普通なのでしょうか……?」

「殿下とは、どれぐらい?」

「……その、ベッドじゃない場合も、結構たくさん、あるのですが……ええと、一時間以上は、必ず」

「…………リリアンナ、ベッドではない場所とは、一体?」


 こほん、こほん、と、軽く咳き込みながら、アニスさんが言った。


「その、……一緒にお部屋で過ごすことが、できませんから、……学園の、貴賓室や、植物園、……それから、図書室、とか。あと、庭園の奥、とか、色々」

「外!」

「は、はい、……シリウス様は、しませんか?」

「しな……っ、い、いえ、しない、わけでもない、というか、なんというか……」

「良かった……アニスさんも、同じなのですね……!」

「おなじ……そう、同じね……お揃いね、リリアンナ……」

「はい……!」


 なんとなくアニスさんの歯切れが悪いけれど、きっと恥ずかしいからだろう。
 私はお友達と恋人について話し合うことができるのが嬉しくて、にこにこした。


「……リリアンナ、心配してくれてありがとう。シリウス様とは、まぁ、それなりに、うまくやっているわよ。腹の立つことも多いけれど。でも、……そうね。あれはあれで、手のかかる野良猫のようで、可愛いのよ。制服のボタンを閉めろと言ったら、アニスが閉めてくれたら大人しく言うことを聞くよ、とか言って、大人しくしているし」


 アニスさんは大きく息を吸い込んだ後、深いため息をついた。


「これは惚気……なのかしら……! なんてこと。リリアンナよりも先に惚気てしまうなんて。リリアンナ、殿下の良いところを十個言って頂戴。いくらでも聞くわよ」

「アニスさんは、猫が好きですものね、良かったです」

「それはもう良いから。つい、口が滑ったのよ」

「フィオルド様は、……私に甘えてると、よくおっしゃいますけれど、私の方が甘えていると、思います……私も、フィオルド様の制服のボタンを、今度はめてみますね」

「襲われるわね」

「襲われますね、確実に」

「火を見るよりも明らかです」


 アニスさんの後に、ドロレスたちも口を揃えて言った。


「その、リリアンナ。部屋以外では、たまには断りなさいよ? 誰かに見られるかもしれないじゃない……」

「でも、……女子寮には、男性は入ってはいけないですし、私がフィオルド様のお部屋に入り浸るのも、良くないことですし……」

「だからって、公共の場で色々するのが良いわけじゃないでしょう! 色々困るのよ、その私が、私が困るのよ」

「アニスさんが、どうして……?」

「い、いえ、その、……リリアンナが、心配だなって」

「フィオルド様、優しくしてくださいますから、大丈夫かな、って……」

「そう……」


 私がアニスさんを心配していたように、アニスさんも私を心配してくれている。

 お友達というのは、心強いものだ。

 私はそういえばと思い出して、アニスさんをじっと見つめた。


「心配してくださって、ありがとうございます、アニスさん。……シリウス様と、仲良しで良かったです。年末の式典、ご一緒できますでしょうか……その、私、いつも一人きり、だったから……」

「もちろんよ、リリアンナ。私はあなたと一緒にいるわ。大きなパーティーは久しぶりよね。楽しみましょう」

「はい!」


 年末には、一年の終わりのお祝いと、女神様の誕生をお祝いする、マリアテレシア生誕祭がある。

 お城で行われるその式典は、ほとんどの貴族が参加する大規模なものだ。

 私はいつも、所在なく壁際に立っているばかりだったけれど、今年は違う。

 フィオルド様もアニスさんもいる。
 とても楽しみ。

 私とアニスさんは、どんなドレスを着るかについて話し合って過ごした。アニスさんとシリウス様の正式な婚約の発表も、生誕祭で行うらしい。アニスさんは、恥ずかしそうだったけれど、嬉しそうだった。


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