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聖女の魔力と豊穣の秋
アニスさんとのお茶会 1
しおりを挟むアニスさんに、元気がない。
シリウス様との婚約が正式に決まってから、なんとなく毎日気怠そうにしているのが気になる。
私は勇気を出して、アニスさんを休日のお茶会に誘ってみた。
社交界ではお茶会と言って、貴族が序列が同列の者たちか格下の者たちをもてなして己の権力を誇示したり、格上の方をご招待して可愛がっていただくための足がかりにするという風潮があるとお母様に聞いていた私。
自分には縁のないことと思っていたけれど、初めてのお茶会。それも、お友達と。
断られたらどうしようと不安になりながらもご招待すると、アニスさんは快く受け入れてくれた。
「休日は、殿下と過ごすのではないの?」と心配されたけれど、フィオルド様と毎週末を共にできるというわけでもない。
このところ、フィオルド様はお城に帰ることが多い。
年末の式典が近いせいか、その準備などもあるのだろう。私のドレスや装飾品も新しいものを用意するとおっしゃっていた。
会えないのは寂しいけれど、アニスさんとの時間も大切。
フィオルド様がいらっしゃると、フィオルド様のことしか基本的に考えなくなってしまう私にとっては、たまにフィオルド様がいらっしゃらない週末というのも必要なのかもしれない。寂しいけれど。それはもう、寂しいけれど。
私の部屋のリビングのソファに、アニスさんが座っている。
休日ということで、制服ではなくて襟元の黒いリボンが可愛らしい白いワンピースを着たアニスさんは、編み込んだ髪には赤いリボンをつけていた。
赤は、シリウス様の瞳の色だ。
もしかしたらシリウス様からのプレゼントなのかもしれない。
向かい合わせのソファに座る私たちの間にあるテーブルには、紅茶とお茶菓子が準備してある。
お茶菓子はアニスさんの侍女のエヴァさんの手作りだ。
可愛く型抜きされたハリネズミ形のクッキーは、チョコレートでつぶらな瞳が表現されている。保存しておきたいぐらいに可愛い。
ドロレスとエヴァさんはいつの間にか仲良しになったらしく、和気藹々とお茶会の準備をしてくれた。
今は二人とも、私たちの背後へと控えてくれている。
「あの、アニスさん。シリウス様と、仲良くなることはできましたか……? リボン、お揃いに見えるのですが……」
心配だったけれど、仲良しになれたのなら良いことだと思う。
私が尋ねると、アニスさんは髪のリボンを両手で押さえて、頬を染めた。
「こ、これ、これは、仕方ないのよ……! シリウス様がリボンを外したら、お仕置きをするというから……」
「おしおき? 叱られる、と、いうことでしょうか……」
「そ、そう、そう。そうそう」
耳慣れない言葉に首を傾げる私に、アニスさんは慌てたようにこくこくと頷いた。
「お仕置きというのは、俺のいうことがきけないなんて、悪い子だねアニス、と言って、お仕置きと言いながらもたっぷり可愛がる、みんなが大好きなあれです、お嬢様」
「よくわからないわ、ドロレス……」
「このところご自分の部屋に帰らずにお嬢様の部屋に入り浸っているシリウス様が、素直さが足りないお嬢様を揶揄うために行っているあれ、のことです、リリィ様」
「ますますよくわからないです、エヴァさん……。でも、シリウス様、女子寮にいるのですか……?」
ドロレスとエヴァさんの説明に、頭の中が疑問符でいっぱいになる。
アニスさんには意味がわかっているらしくて、「あぁああ……」と悲しげな声をあげながら頭を抱えている。
「元気がなくて、心配だったのですけれど……シリウス様と、仲良くなれたのですね、よかった……」
「元気がないのは、毎日お仕置きをされているからですね」
「エヴァ、エヴァ! 余計なことを言わないで、エヴァ!」
「まぁ。アニス様。お幸せそうで何よりです、アニス様。初夜は五分で終わると思っていたアニス様が、お仕置きをされるようになるなんて、感慨深いものがありますね……」
うん、うん、と、腕を組みながらドロレスが言った。
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