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聖女の魔力と豊穣の秋

悪は即成敗する系侍女 1

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 フィオルド様とお別れをして、私は女子寮の中へと入った。

 ドロレスと共に部屋に戻ろうとすると、遠巻きに私たちを見ている女生徒たちの中から、私の方へと向かってくる人影がある。

 アニスさんだ。
 今まで学園内で私に話しかけてくる方なんて誰もいなかったので、私に積極的に話しかけてきてくれる方はアニスさんだけ、というような状況とも言える。

 その表情はあまり友好的には見えないのだけれど。

 私の前に腕を腰に当てて胸を張って立つアニスさんの堂々たる振る舞いに、私は一瞬回れ右して逃げたくなってしまった。

 けれどなんとか踏みとどまった。
 私はフィオルド様の婚約者なのだから、頑張らないといけない。

 アニスさんの、レランディア家の事情を知った今、そんなに怖くはないように思う。

 アザレア・レランディア様とお母様が、ロイスお父様をめぐって対立していたのよね。
 お母様の話では、お父様とお母様は愛しあっていて、アザレア様が一方的にお父様のことを好きだったみたいだけれど。

 それって、今の私たちも同じなのではないかしら。

 私とフィオルド様は愛しあっていて、アニスさんはフィオルド様のことが好き。
 だからアニスさんは、私のことが嫌い。

 そう思うと、すごく分かりやすい。

 アニスさんには申し訳ないけれど、私はフィオルド様のことが好きだから――婚約者の立場を、譲る気はない。

 少し前ならそんな風に思わなかったのだろうけれど、今の私は以前よりもずっと自分勝手で我儘だから、アニスさんの感情を優先することなんてできない。


「相変わらず、フィオルド殿下を誑かしているのね、セフィールの毒花」

「アニスさん……」


 アニスさんに思い切り睨まれた私は、いつもだったら表情を硬くして、ろくに言葉も話すことができない有様なのだけれど、できる限り口元を笑顔の形に歪めて、微笑んでみた。

 フィオルド様と想いが通じ合ったから、かしら。

 びくびくと怯えてばかりいた過去よりは、少しだけ、勇気が持てるようになった気がする。

 もしかしたら悪女が悪巧みしているような笑顔に見えているかもしれないけれど、それでも不機嫌そうに見えるよりは、笑顔の方が良いはずよね。

 頑張れ、私の表情筋。
 きっとフィオルド様も褒めてくださるはずよね。

 目を閉じると、「よく頑張ったな、私のリリィ」と言って、美しく微笑みながら私を撫でてくださるフィオルド様の姿が思い浮かんだ。

 甘い声や、愛情に満ちた瞳や、大きな手のひらを想像するだけで、結構にやにやできた。


「ちょっと、リリアンナ・セフィール、聞いているの?」

「は、はい……!」


 正直あんまり聞いていなかった。


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