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聖女の魔力と豊穣の秋
寂しい私と新生活 2
しおりを挟む確かに地面が氷漬けになっている。
寮に帰ろうとしている他の女生徒たちが、帰るに帰れない様子で氷漬けの地面の向こうから私たちを見ている。
「お嬢様が死ぬほど可愛いのは激しく同意いたしますが、殿下が卒業なさるまであと何日あると思っているんですか、お二人とも。授業が終わって、部屋に戻るたびに毎回このやりとりを繰り広げる気ですか?」
「違うわ、ドロレス……セフィール家で、ずっと一緒にいたから、今日は特別、寂しくて……いつもは、大丈夫。多分、多分だけれど、大丈夫だと思うの……」
「絶対大丈夫じゃないやつですよ、それ、お嬢様」
「…………いますぐ、さらっても良いのだろうか」
「殿下、真剣に悩むのはおやめなさい。いえ、もちろん、世界の平和以上にお嬢様の幸せを願うこのドロレス、殿下にいますぐお嬢様を攫ってくださいまし! その調子でどうぞよろしくお願いします! 今日のお嬢様の下着はとびきり可愛いフリルのレースで布面積が少なめの、純白ですよ、殿下! と、言いたいところですが」
「ど、ドロレス、声が大きいのよ……私、可愛い下着は好きだけれど、似合わない、から……」
「気にするところはそこですか、お嬢様」
「そんなことはない。可愛いドレスや服や下着は、リリィによく似合う」
「殿下、かくも美しく真面目な表情で何をおっしゃっているんですか」
ドロレスは深くため息をつくと、軽く頭を押さえた。
「ちょっと待ってください、お二人とも。私がいない間、もしや、ツッコミが不在で……? 天然ボケしかいない世界線ですか、ここは……?」
「ドロレス、意味がよくわからないわ……」
「いえ、組合の言葉なので、お気になさらず」
「侍女の互助会……?」
「ええ、ええ、まぁ、そんなところです。ともかく、お二人とも、私としても、もう同棲すれば良いのでは? と、思わなくもないのですが、是非そうしてください、私はお二人の同棲している寝室の壁になりたいと、声を大にして言いたいのは山々なのですが、お二人はまだ学生。清く正しく美しく、それなりの節度を保っていなければ、他の学生たちに示しがつきません」
「そうだな。理解している。私だけが、婚約者と共に寝起きするわけにはいかない」
「わかっているのよ、ドロレス。……明日になったらまた、会えるもの。……会える、かしら……私、当たり前みたいに、フィオルド様とお会いできるって、思っていて……すごく、自分勝手ですよね、今の、ごめんなさい……」
「リリィ、必ず迎えに来ると約束する。昼も、夕方も共にいる。だから、案ずる必要はない。……今までの私の態度について考えれば、不安になるのは仕方がないことだ。全て私のせいだ、リリィ。……やはり、今日は共に」
「お二人とも、落ち着いて。ほら、お嬢様、にっこり笑ってさようなら、ですよ。また明日。ほら、頑張って」
「……フィオルド様、……その、また、明日。とっても楽しい、お休みでした。ありがとうございました」
「あぁ、リリィ。また、明日。休日はまた共に過ごそう。私も……こんなに楽しい余暇を過ごしたのは、はじめてのことだ。お前のおかげだ。ありがとう、リリィ」
私たちは手を取り合って、微笑みあった。
また明日。
はじめて、家族以外の誰かに、言ったような気がする。
すごく特別な挨拶に感じられる。
今日で終わりじゃなくて、明日も、ずっと続いているような。
明日もフィオルド様にお会いできる――短い言葉なのに、すごく安心できる。
「……うう、永遠に見ていられる……尊い……」
いつの間にかドロレスが地面にうずくまっていた。
心配だったけれど、フィオルド様が私にそっと口付けてくださったので、ドロレスを心配する余裕なんてすぐになくなってしまった。
ドロレスには申し訳ないけれど――もっとすごいことも、たくさんしているのに。
他の生徒たちの前で堂々と私に触れてくださるフィオルド様が、とても素敵で、男らしくて、心臓が破裂しそうなぐらいにどきどきした。
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