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聖女の魔力と豊穣の秋
寂しい私と新生活 1
しおりを挟む久々の女子寮にドロレスと一緒に私は戻ってきた。
思えば一人きりで入寮した四月から数ヶ月。
すごく寂しかったような気もするし、逆に、すごく自由だったような気もする。
けれど今は別の意味で、とてもとても寂しい。
「リリィ、……色々無理をさせてしまったから、今日はゆっくり休んで」
私の頬や髪を慈しむように撫でて、フィオルド様は優しく微笑んで言った。
フィオルド様は寮の前まで私を見送ってくださった。
セフィール家で過ごして数日。
たった数日なのに、お祭りに行って、一緒の部屋で眠って、それから、庭園でのご挨拶をやりなおして。
私が今まで生きてきた十六年間よりも、ずっと密度の濃い数日だったような気がする。
フィオルド様と共に過ごした記憶でいっぱいの私は、明日までのしばらくのお別れに、悲しさでいっぱいだった。
「お嬢様、捨てられた子ウサギみたいな顔をするんじゃありませんよ。殿下が帰れなくなっちゃうじゃないですか」
「そ、そんな顔はしていないわ、ドロレス。私、頑張って……その、フィオルド様がいなくても、大丈夫って……自分に、言い聞かせているところで」
「今生の別れじゃないんですから。あとは夕食と入浴を済ませて、眠るだけなんですからね。我慢しなさい、お嬢様」
「我慢、……する。……ドロレスも、一緒にいるのだし、寂しくないもの……」
「そんな泣きそうな顔でおっしゃっても、説得力皆無ですけど、お嬢様。殿下、地面が氷漬けになっていますよ。スケートリンクですか、それ」
「……すまない。……私のリリィが、死ぬほど可愛くて、つい」
フィオルド様はドロレスに指摘されて、はっとしたように目を見開くと、胸を押さえた。
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