リリアンナ・セフィールと不機嫌な皇子様

束原ミヤコ

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セフィール家での休暇と想起の夏

葡萄味のシャーベット 1

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 セフィール領の特産品だからか、葡萄は好き。

 幼い頃からよく食べている。葡萄をそのまま食べることもあるし、料理長のガラハドさんがジャムにしたりコンポートにしたり、ジェラートやシャーベットにしてくれることもあった。

 私はフィオルド様と並んで休憩所のベンチに座って、葡萄のシャーベットをシャリシャリと食べている。

 口の中に広がる清涼感と甘酸っぱい味わいは、どことなくフィオルド様の魔力の味を思い出す。

 やっぱりシャーベットと表現するのが一番近いのかも知れない。

 氷の皇子――といわれているだけあって、氷属性の魔法が得意だからかしら。

 平べったい木の棒に刺さっている薄紫色のシャーベットは、まん丸い満月のような形をしている。

 最近では、棒付きで固められた氷菓が流行っているらしい。
 スプーンも器も必要なくて、お手軽に食べることができるからだ。

 シャーベット屋さんの氷魔法と魔道具を組み合わせて造られた冷却ボックスの中には、ずらりと棒付きシャーベットが並んでいた。

「棒付きシャーベットは、アイスキャンディとも呼ぶそうです」

「詳しいな、リリィ。そのような食べ物は、私ははじめて目にした」

 フィオルド様は私の分の葡萄シャーベットを買ってくれたけれど、ご自分の分は買わなかった。

 確かフィオルド様は甘い物は好きじゃないと、お母様が言っていた気がする。

 私よりもお母様の方がよほどフィオルド様について詳しい。
 ちょっと、情けない。

「私、お屋敷からあまり、外に出たがらなかったので……それで、ドロレスや侍女たちが、色々買ってきてくれたのです。……それに、ヴェルダナ家のある辺境は、隣国と隣接していますから、珍しい食べ物も多いそうなんです」

「隣国アケルディアと皇国は、幾度か争いを繰り返してきたが、今は落ち着いている。ヴェルダナ辺境伯家のお陰だな」

「は、はい……私も、歴史の授業で、習いました。ドロレスの話では、珍しい食べ物とか、知識とか、その、隣接しているためもあって、国境の町には自然と集まってくるそうなんです。アイスキャンディは、ドロレスが国境の町でみつけて、買ってきてくれて」

「それで、セフィール領に広まったのか」

「そうみたい、です。お父様がとっても喜んで、葡萄をつかった商品を開発している方々のところに、持って行って……それから、こうして売られるようになったそうです」

「リリィは、領地についてよく学んでいるんだな」

「そ、そんなことはなくて、お話するのは苦手、ですけれど、お話を聞くのは、嫌いではなくて……だから、お食事のときとかに、お父様が話してくださるのを、聞いていただけで……私、そんなに勉強熱心じゃなくて」

「そう自分を卑下するものではないよ。ただ話を聞くだけ。そう思っているかもしれないが、それは才能だ、リリィ。人の話を聞くことが苦手な者もいる。そして、誰かを思いやることが苦手な者も、大勢いる」

「……私は、その、……気が弱い、だけで」

「それはリリィの良いところだろう。お前は優しい。……私などは、よく冷酷で、他者の気持ちを慮れないと言われる。正しさばかりを追い求めて、排他的になっていると。幾度かフォルトナに、注意されたこともある」

「そんなこと、ないと思います。……フィオルド様は、優しいです」

「そう言ってくれるのは、リリィだけだよ」

「私に優しいフィオルド様が、冷酷なわけ、ありません」

「そうして、元気づけてくれようとするところが優しい。……お前といると、心が安らぐ」

 フィオルド様は、どこか肩の力が抜けたように笑った。

 いつも張り詰めた雰囲気を纏っている表情の硬いフィオルド様だけれど、今日はずっと穏やかな表情を浮かべてい
る。
 次期皇帝という立場でいるのは、フィオルド様にとって、重圧なのかもしれない。




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