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セフィール家での休暇と想起の夏

 葡萄踏み祭り 2

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 お部屋の中にいるのが一番好きな私は、お母様たちに誘われても、ドロレスにたまには外に出ようと言われても、断り続けていた。

 どうしてもの理由がない限り、人がたくさんいるところにはいきたくなかったからだ。

 だから、葡萄踏み祭りに来たのはこれがはじめて。
 葡萄踏み祭りどころか、オウウェル地区の、治安が良く安全と言われている中心街にさえ来たことなんてなかった。

 お父様はお仕事もあって、よく街にきている。お母様はお父様と一緒に、お食事や観劇に出かけることがあるようだったけれど、私を無理に連れて行こうとはしなかった。

 私にとってはありがたかったけれど、――少しぐらいは、街の様子を知っていた方が良かったかもしれない。

 そうしたらフィオルド様を案内できたかもしれないのに。
 フィオルド様に楽しんでいただける場所を知っていれば良かったと、後悔が胸を過る。

「それでは、リリィ。……いずれ、子供がうまれたら、その子の名前をつけよう。今から考えておいてくれるか?」

 フィオルド様が私の手をとって、微笑んだ。
 私はあわあわと唇を動かした。

「……っ、は、はい……っ」

 そうよね。いつかは、そうなるのよね。

 それはフィオルド様と私が、結婚するということで――もちろん婚約者なのだから、そうなることは決まっているのだけれど。

 未来のことなんて、昔は考えたくなかった。

 私のことを嫌っているフィオルド様とずっと一緒に居るとか、どうしたら良いのかわからなかったからだ。
 けれど、いまは――いつかは授かることができるだろう命のことを考えると、胸がいっぱいになる。

「気が早いだろうか。困らせてしまったか?」

「そんなことはなくて……その、私……幸せです」

「あぁ。私も同じだ。……良い夫であり、良い父に、なりたいと思っている」

「フィオルド様は十分素敵です……!」

「恋人として?」

「はい……っ」

 フィオルド様は、私の髪を擽るように撫でて、目を細めた。

 明るい陽射しが、フィオルド様の水色がかった銀の髪を、澄んだ空気の中で輝く花弁に落ちた朝露のようにきらきら輝かせている。

 街の風景も、道行く人々も、全てが心が弾むように楽し気で、活気に満ちているように感じられる。

 いつもどこにいても気後れしてしまう私だけれど――今日は、フィオルド様が一緒に居てくださる。

 愛されていると、感じられるからか――少しも、怖くなかった。
 

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