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セフィール家での休暇と想起の夏
味と香り 1
しおりを挟むフィオルド様は強引だけれど、どこまでも丁寧に私をベッドにおろしてくれた。
客室の寝室なんて滅多なことでは入ったことがないし、ベッドに寝転がったのもこれがはじめてだ。
そもそもセフィール家にお客様なんてほとんど来ないのだし、客室が客室としてきちんと使われているのは、私の知る限りではこれがはじめてなのではないかしら。
百合の花の形をした魔導ランプが天井から吊り下がり、部屋を柔らかい明かりで照らしている。
白い天蓋のついたベッドに、白いシーツと、枕も白い。
木枠だけが黒く塗られた真っ白な世界に寝転んで、私はフィオルド様を見上げた。
お風呂に入った後なのだろう、フィオルド様からは、頭がくらくらするような花の甘い良い香りがする。
飾り気のない、裾の長い黒い寝衣からのぞくすらりとしていて、けれどしっかりと骨と喉仏の浮き出た首筋が瞳に映る。
前髪が少し長い水色がかった銀色の髪が耳にかかっている。
「すまない。……もう、耐えられない。お前に触れたい。……セフィール家に滞在している間は、適切な距離を保つべきだと考えていたのに、お前があまりにも愛らしくて、……昨日も、今朝もお前をひどく犯したというのに、私は……」
「フィオルド様、私はそのつもりでお部屋にきたので、問題ありません……ひとりきりのお部屋は寂しくて、一緒に、いたくて……たくさん愛して、欲しい……です」
「だが、これでは盛りのついた獣と同じだ」
「大丈夫、なので……フィオルド様の、好きなようにして、ください……私、その、……こ、恋人、同士というのは、好きという気持ちがおさえられなくなると、限界だって……がばっと、押し倒すのだと、知っていて」
「今まさに、私がそのようにお前を押し倒したわけだが」
「嬉しいです……」
私は両手を胸の前で組んで、にっこりした。
夢が一つ叶ってしまったわね。
私のそのような知識は、ドロレスが私に買ってきてくれる恋愛教本に書かれているものだ。
ドロレスは「刺激が足りない夢みがちな少女向け絵付き小説」だと言っていた。
ドロレスは私よりも大人なので、私が好んでいる本は少し子供向けなのかもしれない。
私には十分刺激的なそういったシーンが出てくると、いつか私も――と、胸をときめかせたものである。
いつかなんて訪れない気がしていたけれど、長年の妄想が現実となった。
すごく、嬉しい。
そして、妄想よりもずっと素敵。
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