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セフィール家での休暇と想起の夏
久々のお世話 1
しおりを挟むお父様とお母様が席を立ったのを合図に、私たちもお部屋へと案内してもらった。
私はてっきり同室なのかと思っていたのに、私は私の自室に、フィオルド様は客室へと侍女たちに促されて戻った。
フィオルド様は客室に入る時、私の頬を撫でて微笑んで「リリィ、疲れただろう。今日はありがとう、また明日」とお別れの挨拶をしてくださった。
ずっと一緒にいると思っていた私。
すごく、すごく、すごく寂しい。
「……お嬢様、捨てられた猫みたいな顔をしないでくださいよ、殿下と今生の別れってわけじゃないんですから」
フィオルド様と別れて廊下を歩く私に、ドロレスが呆れたように言った。
わかっているのだけれど、寂しい。
だって先ほど、お食事の時に、気持ちが通じあった気がしたもの。
だからてっきり私は、今から二人きりになって、――キスしたり、それよりももっと、すごいことをしたりするのかもしれないって思っていたもの。
「明日になったら、会えるの、わかっているけれど……寂しい。でも、……お部屋が別というだけで、寂しいなんて、……面倒な女って、思われるわよね。ドロレス、内緒にしていてね」
「面倒なんて思わないですよ、お嬢様。面倒どころか、撫でくりまわしたくなるぐらい可愛いです、お嬢様」
「ドロレスは、優しいから、励ましてくれるのね」
「いえ、私は今フィオルド殿下の気持ちを代弁させていただいただけですけど」
「ドロレスには、フィオルド様の気持ちがわかるの?」
「手にとるようにわかりますとも。赤子の手を捻るよりも簡単なぐらいに理解できますとも」
「私には分からないのに……すごいわ、ドロレス」
「お嬢様に骨抜きになった者の気持ちなど、骨抜き歴十数年の私からしてみれば、まことにわっかりやすい~といったところですね」
ピンク色と白いレースとリボンの多いそれはもう可愛らしいお部屋が、私の自室である。
可愛いものが好きな私は、自分のお部屋ならどんなに可愛くしても問題ないわよねと思って、際限なく可愛く飾っている。
私の特に不機嫌なわけでも怒っているわけでもない悪女顔に慣れて、問題なく私と話せるようになってくれた新しい侍女などは「お嬢様は、誰かに気をつかって、お部屋を少女趣味に飾っているのですか」と心配そうに聞いてくれる。
私が「可愛いものが好きで……変、よね、似合わないの、知っているのだけれど……」となんとか事情を話すと、皆とても良い笑顔を浮かべて「そうなのですね、それなら任せておいてください、お嬢様!」と言って、出先で見つけた可愛い小物などを買ってきてくれる。
セフィール家の侍女たちはみんな私に優しい。
巣作りに勤しむアナグマのように、私はお部屋にこもっていることが好きだった。
ここは可愛いものがいっぱいで、安全な場所で。
だからお部屋にいることが好きだったのに、今はなんだか物足りない気がする。
フィオルド様の声が聞きたい。
抱きしめて欲しい。
「お嬢様、お風呂に入って着替えますよ。久々にお嬢様のお世話ができると、皆張り切っているんです。それは全部私の仕事だって言い張ったら、他の侍女たちがドロレスさんだけずるい、徹底抗戦しますとかいって怒るから、今日はみんなでお嬢様の体を徹底的に磨きあげますね」
「そうなの……?」
「ええ。お嬢様が魔導学園に行ってしまってからのセフィール家は、一晩放置してアルコールの抜けたワインのように味気のないものでした。お嬢様の顔を久々に見ることができて嬉しいんですよ、みんな。私などは、寂しさのあまり、酒と競馬がすすんですすんで。一ヶ月分のお給金をこの間なんか一日で全部すっからかんにしましたね」
「それは、大丈夫なの、ドロレス」
「問題ありません。その後酒場のポーカーで大勝して、一ヶ月分を取り戻しました」
「ドロレスは大人ね」
「お嬢様は可愛いですねぇ」
ベッドに座って一休みしながらドロレスと話をしていると、侍女の皆さんが「お風呂の準備ができました」と言って、顔を出した。
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