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遺跡探索と雪解けの春
記録石の映像と大き目の胸の記憶 1
しおりを挟むフィオルド様は私を抱き上げて、食堂の横にある皇族の方々や公爵家のものたち専用の特別室へと向かった。
特別室に入ったのははじめてだ。
広い部屋に大きなテーブルセットが中央に一つと、窓際に一つ。
入り口と、部屋の奥に二つ扉がある。
部屋の中には給仕の男性が二人と、それから、見たことのある男性が一人、フィオルド様の来訪を待っていたようだった。
「……フィオルド様、問題はありませんでしたか? リリアンナ様、こうしてきちんと挨拶をするのははじめてですね。僕は、フォルトナ・アセンド。アセンド宰相家の長男です」
「は、はじめまして、リリアンナと申します……」
男性は、フォルトナ様。
名前も立場も知っているし、挨拶を交わしたこともある方だ。フィオルド様と同い年で、友人であり側近の方である。
癖のある肩までの黒髪をひとつに結んでいて、青い瞳をした細長い印象の方で、口数が少なく感情を表に出さない方という印象だった。
といっても、個人的に話をしたことはないのだけれど。
フィオルド様とフォルトナ様が会話を交わしている姿は見たことがあるけれど、ごく稀に、少しだけだ。
「これまでのご無礼、失礼いたしました。……誤解がとけたようで何よりです。フィオルド様の長年の想いが叶ったということですね。喜ばしいことです」
「……フォルトナ。私は、リリィと話がある。何か用か?」
「さては、フィオルド様。僕は邪魔ですか?」
「そういうわけではないが」
フィオルド様は私を抱いたまま、椅子に座った。
朝と一緒だ。そのせいで朝食でのことを思い出して、落ち着かない気持ちになる。
フォルトナ様は私たちの正面の椅子に座ると、給仕の方々に食事を持ってくるように命じた。
奥の扉が食堂の調理場につながっているようで、そこから給仕の方々は出て行った。
「リリィ、アニスに何か言われたのだろう。……迎えに行くのが遅かったな。すまなかった」
「い、いえ、そんなことはなくて……午前の授業が終わってすぐに、アニスさんは私に話しかけてきたようなので、……フィオルド様は、すぐに私の元へ来てくださいました。ありがとうございます」
「何を言われたのですか、リリアンナ様?」
フィオルド様が私を当たり前のように膝に乗せて抱き上げているのに、フォルトナ様は全く気にした様子もなく、穏やかな口調で私に尋ねた。
何を考えているのかわからなくて怖いと思っていたけれど、今はあまり怖さを感じない。
「……その、……セフィールの毒花って、言われました。……他の男性に飽きて、フィオルド様のことも……って」
「なるほど。アニスは往生際が悪いですね。すでに手の内は露見しているというのに。それとも、アニスは本当にその嘘を、真実だと思い込んでいるのでしょうか」
フォルトナ様は考え込むようにして、口元に手を当てた。
「アニスに毅然と言い返すお前は、美しかった。それに……嬉しかった。私を、皆の前で好きだと言ってくれたこと。お前は話すのが苦手だと言っていたのに、頑張ってくれたんだな」
「フィオルド様ぁ……」
よしよしと撫でてくれるフィオルド様に、私はその首に抱きついて首筋に頬を寄せた。
頑張ったことをフィオルド様が褒めてくれるなら、もっと頑張れるような気がする。
思い切り甘える私を、フィオルド様は大切そうに抱きしめてくださる。
「お二人とも、話が終わったら僕は出ていきますので、恋人たちの語らいをするのはその後でお願いしたいですね」
「あぁ、分かっている。アニスが証拠として提示してきた、記録石についてだろう」
「はい。リリアンナ様の悪い噂をフィオルド様に伝えてきたのは、レランディア家のアニスと、バレンタイナ家のレイフィアと、ソフィア。そして、記録石を持ってきたのはアニスでしたね」
「そうだな。一年前のことだ。十五になったばかりのリリィが男漁りをしているなど、半信半疑ではいたが、……記録石の映像を見て、私は愚かにもあの者たちの言い分を信じてしまった」
「それは僕も同様に。……いえ、全て信じていたというわけではありませんでしたが、記録石の映像に残っていた少女は、リリアンナ様に見えました。記録石も、本物でしたし。……リリアンナ様、見ますか?」
「記録石を?」
「フォルトナ。リリィに見せるべきではない。……あのような、偽物の映像を」
「……フィオルド様、私は、見たいです。私そっくりなひとが、うつっているんですよね?」
「だが」
「偽物だから、大丈夫です。……見ておきたいなって、思うんです。偽物の私が、どんな姿なのか」
「リリアンナ様にも確認していただきましょう。何か、わかることがあるかもしれない」
フィオルド様は難しい顔をしていたけれど、フォルトナ様は内ポケットの中から、手のひらにすっぽり収まる程度の宝石を取り出した。
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