上 下
55 / 200
遺跡探索と雪解けの春

記録石の映像と大き目の胸の記憶 1

しおりを挟む


 フィオルド様は私を抱き上げて、食堂の横にある皇族の方々や公爵家のものたち専用の特別室へと向かった。

 特別室に入ったのははじめてだ。

 広い部屋に大きなテーブルセットが中央に一つと、窓際に一つ。

 入り口と、部屋の奥に二つ扉がある。

 部屋の中には給仕の男性が二人と、それから、見たことのある男性が一人、フィオルド様の来訪を待っていたようだった。

「……フィオルド様、問題はありませんでしたか? リリアンナ様、こうしてきちんと挨拶をするのははじめてですね。僕は、フォルトナ・アセンド。アセンド宰相家の長男です」

「は、はじめまして、リリアンナと申します……」

 男性は、フォルトナ様。

 名前も立場も知っているし、挨拶を交わしたこともある方だ。フィオルド様と同い年で、友人であり側近の方である。

 癖のある肩までの黒髪をひとつに結んでいて、青い瞳をした細長い印象の方で、口数が少なく感情を表に出さない方という印象だった。

 といっても、個人的に話をしたことはないのだけれど。
 フィオルド様とフォルトナ様が会話を交わしている姿は見たことがあるけれど、ごく稀に、少しだけだ。

「これまでのご無礼、失礼いたしました。……誤解がとけたようで何よりです。フィオルド様の長年の想いが叶ったということですね。喜ばしいことです」

「……フォルトナ。私は、リリィと話がある。何か用か?」

「さては、フィオルド様。僕は邪魔ですか?」

「そういうわけではないが」

 フィオルド様は私を抱いたまま、椅子に座った。

 朝と一緒だ。そのせいで朝食でのことを思い出して、落ち着かない気持ちになる。

 フォルトナ様は私たちの正面の椅子に座ると、給仕の方々に食事を持ってくるように命じた。
 奥の扉が食堂の調理場につながっているようで、そこから給仕の方々は出て行った。

「リリィ、アニスに何か言われたのだろう。……迎えに行くのが遅かったな。すまなかった」

「い、いえ、そんなことはなくて……午前の授業が終わってすぐに、アニスさんは私に話しかけてきたようなので、……フィオルド様は、すぐに私の元へ来てくださいました。ありがとうございます」

「何を言われたのですか、リリアンナ様?」

 フィオルド様が私を当たり前のように膝に乗せて抱き上げているのに、フォルトナ様は全く気にした様子もなく、穏やかな口調で私に尋ねた。

 何を考えているのかわからなくて怖いと思っていたけれど、今はあまり怖さを感じない。

「……その、……セフィールの毒花って、言われました。……他の男性に飽きて、フィオルド様のことも……って」

「なるほど。アニスは往生際が悪いですね。すでに手の内は露見しているというのに。それとも、アニスは本当にその嘘を、真実だと思い込んでいるのでしょうか」

 フォルトナ様は考え込むようにして、口元に手を当てた。

「アニスに毅然と言い返すお前は、美しかった。それに……嬉しかった。私を、皆の前で好きだと言ってくれたこと。お前は話すのが苦手だと言っていたのに、頑張ってくれたんだな」

「フィオルド様ぁ……」

 よしよしと撫でてくれるフィオルド様に、私はその首に抱きついて首筋に頬を寄せた。

 頑張ったことをフィオルド様が褒めてくれるなら、もっと頑張れるような気がする。
 思い切り甘える私を、フィオルド様は大切そうに抱きしめてくださる。

「お二人とも、話が終わったら僕は出ていきますので、恋人たちの語らいをするのはその後でお願いしたいですね」

「あぁ、分かっている。アニスが証拠として提示してきた、記録石についてだろう」

「はい。リリアンナ様の悪い噂をフィオルド様に伝えてきたのは、レランディア家のアニスと、バレンタイナ家のレイフィアと、ソフィア。そして、記録石を持ってきたのはアニスでしたね」

「そうだな。一年前のことだ。十五になったばかりのリリィが男漁りをしているなど、半信半疑ではいたが、……記録石の映像を見て、私は愚かにもあの者たちの言い分を信じてしまった」

「それは僕も同様に。……いえ、全て信じていたというわけではありませんでしたが、記録石の映像に残っていた少女は、リリアンナ様に見えました。記録石も、本物でしたし。……リリアンナ様、見ますか?」

「記録石を?」

「フォルトナ。リリィに見せるべきではない。……あのような、偽物の映像を」

「……フィオルド様、私は、見たいです。私そっくりなひとが、うつっているんですよね?」

「だが」

「偽物だから、大丈夫です。……見ておきたいなって、思うんです。偽物の私が、どんな姿なのか」

「リリアンナ様にも確認していただきましょう。何か、わかることがあるかもしれない」

 フィオルド様は難しい顔をしていたけれど、フォルトナ様は内ポケットの中から、手のひらにすっぽり収まる程度の宝石を取り出した。


しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

婚姻初日、「好きになることはない」と宣言された公爵家の姫は、英雄騎士の夫を翻弄する~夫は家庭内で私を見つめていますが~

扇 レンナ
恋愛
公爵令嬢のローゼリーンは1年前の戦にて、英雄となった騎士バーグフリートの元に嫁ぐこととなる。それは、彼が褒賞としてローゼリーンを望んだからだ。 公爵令嬢である以上に国王の姪っ子という立場を持つローゼリーンは、母譲りの美貌から『宝石姫』と呼ばれている。 はっきりと言って、全く釣り合わない結婚だ。それでも、王家の血を引く者として、ローゼリーンはバーグフリートの元に嫁ぐことに。 しかし、婚姻初日。晩餐の際に彼が告げたのは、予想もしていない言葉だった。 拗らせストーカータイプの英雄騎士(26)×『宝石姫』と名高い公爵令嬢(21)のすれ違いラブコメ。 ▼掲載先→アルファポリス、小説家になろう、エブリスタ

後宮の棘

香月みまり
キャラ文芸
蔑ろにされ婚期をのがした25歳皇女がついに輿入り!相手は敵国の禁軍将軍。冷めた姫vs堅物男のチグハグな夫婦は帝国内の騒乱に巻き込まれていく。 ☆完結しました☆ スピンオフ「孤児が皇后陛下と呼ばれるまで」の進捗と合わせて番外編を不定期に公開していきます。 第13回ファンタジー大賞特別賞受賞! ありがとうございました!!

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

今夜は帰さない~憧れの騎士団長と濃厚な一夜を

澤谷弥(さわたに わたる)
恋愛
ラウニは騎士団で働く事務官である。 そんな彼女が仕事で第五騎士団団長であるオリベルの執務室を訪ねると、彼の姿はなかった。 だが隣の部屋からは、彼が苦しそうに呻いている声が聞こえてきた。 そんな彼を助けようと隣室へと続く扉を開けたラウニが目にしたのは――。

【R18】国王陛下はずっとご執心です〜我慢して何も得られないのなら、どんな手を使ってでも愛する人を手に入れよう〜

まさかの
恋愛
濃厚な甘々えっちシーンばかりですので閲覧注意してください! 題名の☆マークがえっちシーンありです。 王位を内乱勝ち取った国王ジルダールは護衛騎士のクラリスのことを愛していた。 しかし彼女はその気持ちに気付きながらも、自分にはその資格が無いとジルダールの愛を拒み続ける。 肌を重ねても去ってしまう彼女の居ない日々を過ごしていたが、実の兄のクーデターによって命の危険に晒される。 彼はやっと理解した。 我慢した先に何もないことを。 ジルダールは彼女の愛を手に入れるために我慢しないことにした。 小説家になろう、アルファポリスで投稿しています。

大嫌いな次期騎士団長に嫁いだら、激しすぎる初夜が待っていました

扇 レンナ
恋愛
旧題:宿敵だと思っていた男に溺愛されて、毎日のように求められているんですが!? *こちらは【明石 唯加】名義のアカウントで掲載していたものです。書籍化にあたり、こちらに転載しております。また、こちらのアカウントに転載することに関しては担当編集さまから許可をいただいておりますので、問題ありません。 ―― ウィテカー王国の西の辺境を守る二つの伯爵家、コナハン家とフォレスター家は長年に渡りいがみ合ってきた。 そんな現状に焦りを抱いた王家は、二つの伯爵家に和解を求め、王命での結婚を命じる。 その結果、フォレスター伯爵家の長女メアリーはコナハン伯爵家に嫁入りすることが決まった。 結婚相手はコナハン家の長男シリル。クールに見える外見と辺境騎士団の次期団長という肩書きから女性人気がとても高い男性。 が、メアリーはそんなシリルが実は大嫌い。 彼はクールなのではなく、大層傲慢なだけ。それを知っているからだ。 しかし、王命には逆らえない。そのため、メアリーは渋々シリルの元に嫁ぐことに。 どうせ愛し愛されるような素敵な関係にはなれるわけがない。 そう考えるメアリーを他所に、シリルは初夜からメアリーを強く求めてくる。 ――もしかして、これは嫌がらせ? メアリーはシリルの態度をそう受け取り、頑なに彼を拒絶しようとするが――……。 「誰がお前に嫌がらせなんかするかよ」 どうやら、彼には全く別の思惑があるらしく……? *WEB版表紙イラストはみどりのバクさまに有償にて描いていただいたものです。転載等は禁止です。

イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?

すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。 翔馬「俺、チャーハン。」 宏斗「俺もー。」 航平「俺、から揚げつけてー。」 優弥「俺はスープ付き。」 みんなガタイがよく、男前。 ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」 慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。 終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。 ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」 保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。 私は子供と一緒に・・・暮らしてる。 ーーーーーーーーーーーーーーーー 翔馬「おいおい嘘だろ?」 宏斗「子供・・・いたんだ・・。」 航平「いくつん時の子だよ・・・・。」 優弥「マジか・・・。」 消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。 太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。 「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」 「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」 ※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。 ※感想やコメントは受け付けることができません。 メンタルが薄氷なもので・・・すみません。 言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。 楽しんでいただけたら嬉しく思います。

【完結】誰にも相手にされない壁の華、イケメン騎士にお持ち帰りされる。

三園 七詩
恋愛
独身の貴族が集められる、今で言う婚活パーティーそこに地味で地位も下のソフィアも参加することに…しかし誰にも話しかけらない壁の華とかしたソフィア。 それなのに気がつけば裸でベッドに寝ていた…隣にはイケメン騎士でパーティーの花形の男性が隣にいる。 頭を抱えるソフィアはその前の出来事を思い出した。 短編恋愛になってます。

処理中です...