リリアンナ・セフィールと不機嫌な皇子様

束原ミヤコ

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遺跡探索と雪解けの春

リリアンナ、はじめて女子から絡まれる 1

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 午前中の一時間目の歴史学の授業が終わり、十分程度の短い休憩の後に二時間目の算術の授業がはじまった。

 教室の一番前の隅の席に座って、私は先生が魔導ボードに書いては消している文字を目で追っていた。

(フィオルド様、すごく素敵だった……それに、お部屋に閉じ込めたいとか、言われてしまったし、何より、可愛いって何度も言ってくださったわ……)

 目を伏せると、フィオルド様の顔が、声が、肌が、思い出されてしまう。
 頭がふわふわして落ち着かない。

 これが恋なのかしら。

 恋をすると、世界の色が変わって見えるというけれど、本当なのね。

 一人きりの教室も、窓から見える空も、長い講義も、今は全てきらきらと輝いて見える。
 教室に入った瞬間から帰りたいっていつも思っていたけれど、今はお昼休みがまちどおしい。

 フィオルド様と、一緒にすごす約束をしているから。
 苦手なお肉やお魚と格闘しなければいけなくて、苦痛でしかなかったひとりぼっちのお昼ごはんが、フィオルド様と仲良くなれたら、こんなに楽しみになるのね。

 週末にはドロレスをお迎えに行けるし、遺跡で魔物に襲われてから、良いことばかりね。

(皇帝陛下と、フィオルド様のことは気になるけれど……それに、お母様が、フィオルド様を嫌っている、って……)

 フィオルド様がいつか話をしてくれるかしら。

 それとも、お母様に聞いてみたほうが良いのかしら。
 私は本当に、何も知らないのね。

 算術の授業を聞き流しながら、私は、窓の外を眺めてため息をついた。

 私を好きだと言ってくれたから、私はフィオルド様が好き。

 あまりにも単純で身勝手な私だけれど、フィオルド様はそれで良いって言ってくれた。

 万年雪が溶けて、春がきたみたいに優しいフィオルド様のことを考えるだけで、胸の奥があたたかくて、切なくなる。

(フィオルド様のこと、もっと知りたい)

 私はフィオルド様のことを何も知らない。

 そもそも誰かに興味を持つということが、今までなかったもの。

 他人は、苦手。
 誰かと話すのは、苦手。

 ずっとそう思っていたから。

 フィオルド様のことは苦手だったものね。でも、私はフィオルド様のことをずっと分かろうとしなくて。

 だからもっと、たくさん話したい。

 それから、それから。

 もっと、たくさん、触って欲しい。

「……リリアンナ・セフィール、聞いているの!?」

 不意に名前を呼ばれて、私は自分の世界から現実に意識戻した。


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