52 / 200
遺跡探索と雪解けの春
三大公爵家と嫌われているリリアンナ 2
しおりを挟む私がまともに見知っているのは、フィオルド様ぐらいだ。
フィオルド様の婚約者としてはよくないことだと思うけれど、お勉強やマナーなどは努力でどうにかなるのだけれど、どうにもならないものもある。
ドロレスに相談したら「高貴な身分の方というのは下々の情報に詳しくなくて良いのですよ、お嬢様。だから、気にしない、気にしない」と励ましてくれた。
単純な私はドロレスがそういうなら、まぁ良いか、と思っていた。
なので実際にはそんなに深い悩みでもない。そんなことよりも不機嫌なフィオルド様と顔を合わせることの方が、私にとっては一大事だったからだ。
「私は、お前の顔立ちは、愛らしいと思っている」
「あ、悪女みたい、ですよね……?」
「誰がそのようなことを?」
「鏡を見て、そう思ったのです。物語に出てくる、意地悪な魔女や、姉や、お妃様みたいだって」
「私は、リリィを可愛いと思っていた。……はじめてお前と会った時から」
「はじめて?」
「あぁ」
はじめて、フィオルド様と会ったのは、いつだったかしら。
思い出そうとすると、胸がずきりと痛んだ。
よく覚えていない。あれは、セフィール家の庭園だったかしら。美しい花が、庭園には咲き乱れていて、その中に佇む幼いフィオルド様は、まるで翼ある人がこの世界に戻ってきたかのように、綺麗だった。
それで、私は……。
「それに、リリィ。それを言うなら私も同じだ。皆は私のことを、氷のように冷酷な男だと言っている。私の顔立ちが恐ろしいからだろう」
「そんなことないです、フィオルド様は、とても綺麗で、素敵で……!」
「……お前が私の顔立ちを好きだと言ってくれるのなら、それで良い。他の人間にどう思われようが、興味はない。リリィ、私はお前の全てが可愛いと思っている。お前への悪意の理由はわからないが、このまま放置するようなことはしない」
「はい……」
「本当は、状況が落ち着くまでは部屋に閉じ込めていたいのだが」
「フィオルド様、私……」
どうして私のことを悪く言っている人たちがいるのかはよくわからないし、もしかしたら私の顔立ちが怖いせいで傷ついた人たちがいたのかもしれない。
けれど、今まで自分の置かれている状況に全く気づいていなかった私にも責任はあると思うの。
私も、もう少ししっかりしないといけない。
フィオルド様の婚約者として、フィオルド様に頼るばかりではなくて、自分でどうにかしないといけない。
だって私は、フィオルド様のことが好きで、ずっと婚約者でいたくて。
それはいずれは皇妃になるということで。
おどおどしたまま、逃げてばかりいるのでは、その立場に相応しいとはいえない。
私の態度に原因があるとしたら、私も、少しは頑張らないと。
今の私は一人じゃない。
フィオルド様が私を愛してくださっている。
そう思うと、何が起こっても大丈夫だと思える気がした。
「大丈夫です、私も、……三大公爵家にうまれたものの一人。リリアンナ・セフィールです。……だから」
「あぁ、わかった。本当は鎖で繋いででも、お前を閉じ込めておきたい。……だが、そういうわけにもいかないな。リリィ、……お前について虚偽の噂を流していたのは、同じ三大公爵家のバレンタイナ家と、レランディア家の者たちだ。お前と同学年に、アニス・レランディアがいるだろう」
「私、同じ公爵家の方々から嫌われていたのですか……?」
セントマリア皇国には、セフィール家の他に公爵家が二家ある。
どちらも皇家の血を繋ぐための、セントマリア皇家からの分家だ。
セフィール家と立場は同じで、公爵家というのはセントマリア皇家に次いで地位が高い。
その二つの家が私の悪い噂を流していたとしたら、誰も否定はしないだろうし、そもそも疑うことさえしないだろう。
それぐらい、公爵家の立場というのはこの国では大きいのだ。
「アニスとは、話をしてみるつもりだ。……アニスたちはただ虚偽の噂を流しただけで、騙された私が全て悪い。どのような罪に問えるのかは分からないが、理由は知っておくべきだろう」
「アニスが……」
アニス・レランディアとは挨拶を数度交わしたことがあるけれど、個人的に話したことは一度もない。
もしかして初対面で睨みつけてしまって(睨みつけてはいないのだけれど)、高慢で嫌な女だと思われたのかしら。
同じ教室にいるけれど、話しかけられたこともなければ、話しかけたこともないのに。
フィオルド様に、私の悪口を陰で言うぐらいに、私のことを嫌っているのね。
やっぱり、顔が怖いからかしら。
人見知りで口下手で顔が怖いというのは、よくないわよね。
生きているだけで敵を作ってしまうのだもの。
これからはできるだけにこやかに生きよう。そうすればきっと、誤解も解けると、良いのだけれど。
「何かあったら、私にすぐ知らせろ。……リリィ、大丈夫だろうか」
「心配してくださって、ありがとうございます。私も、少しは頑張ってみます。フィオルド様の婚約者として、相応しい私でいられるように」
私はできるだけにこやかに微笑んだ。
悪女顔の私が微笑むと悪巧みしている感じになってしまわないか不安だけれど、不機嫌そうに見えるよりは良いはずよね。
フィオルド様も優しく微笑んで、私を撫でてくださった。
それから、制服に着替えた私を上から下までじっくり眺めて「制服もよく似合っているな、リリィ。つい、乱したくなる」などとスカートの下の大腿を弄りながら言った。
そのせいで登校が始業のぎりぎりになってしまったし、教室までフィオルド様が送ってくれたので、他の生徒の方々が驚いたような顔で私を見ていた。
もしかして部屋を出る直前までいちゃいちゃしていたのがばれてしまったのかしらと思うと、どうにも授業に身が入らずに、心や体を落ち着かせるのに必死だったので、すっかりアニスのことなんて忘れてしまっていた。
3
お気に入りに追加
2,066
あなたにおすすめの小説
後宮の棘
香月みまり
キャラ文芸
蔑ろにされ婚期をのがした25歳皇女がついに輿入り!相手は敵国の禁軍将軍。冷めた姫vs堅物男のチグハグな夫婦は帝国内の騒乱に巻き込まれていく。
☆完結しました☆
スピンオフ「孤児が皇后陛下と呼ばれるまで」の進捗と合わせて番外編を不定期に公開していきます。
第13回ファンタジー大賞特別賞受賞!
ありがとうございました!!
婚姻初日、「好きになることはない」と宣言された公爵家の姫は、英雄騎士の夫を翻弄する~夫は家庭内で私を見つめていますが~
扇 レンナ
恋愛
公爵令嬢のローゼリーンは1年前の戦にて、英雄となった騎士バーグフリートの元に嫁ぐこととなる。それは、彼が褒賞としてローゼリーンを望んだからだ。
公爵令嬢である以上に国王の姪っ子という立場を持つローゼリーンは、母譲りの美貌から『宝石姫』と呼ばれている。
はっきりと言って、全く釣り合わない結婚だ。それでも、王家の血を引く者として、ローゼリーンはバーグフリートの元に嫁ぐことに。
しかし、婚姻初日。晩餐の際に彼が告げたのは、予想もしていない言葉だった。
拗らせストーカータイプの英雄騎士(26)×『宝石姫』と名高い公爵令嬢(21)のすれ違いラブコメ。
▼掲載先→アルファポリス、小説家になろう、エブリスタ
【R18】国王陛下はずっとご執心です〜我慢して何も得られないのなら、どんな手を使ってでも愛する人を手に入れよう〜
まさかの
恋愛
濃厚な甘々えっちシーンばかりですので閲覧注意してください!
題名の☆マークがえっちシーンありです。
王位を内乱勝ち取った国王ジルダールは護衛騎士のクラリスのことを愛していた。
しかし彼女はその気持ちに気付きながらも、自分にはその資格が無いとジルダールの愛を拒み続ける。
肌を重ねても去ってしまう彼女の居ない日々を過ごしていたが、実の兄のクーデターによって命の危険に晒される。
彼はやっと理解した。
我慢した先に何もないことを。
ジルダールは彼女の愛を手に入れるために我慢しないことにした。
小説家になろう、アルファポリスで投稿しています。
今夜は帰さない~憧れの騎士団長と濃厚な一夜を
澤谷弥(さわたに わたる)
恋愛
ラウニは騎士団で働く事務官である。
そんな彼女が仕事で第五騎士団団長であるオリベルの執務室を訪ねると、彼の姿はなかった。
だが隣の部屋からは、彼が苦しそうに呻いている声が聞こえてきた。
そんな彼を助けようと隣室へと続く扉を開けたラウニが目にしたのは――。
どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします
文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。
夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。
エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。
「ゲルハルトさま、愛しています」
ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。
「エレーヌ、俺はあなたが憎い」
エレーヌは凍り付いた。
大嫌いな次期騎士団長に嫁いだら、激しすぎる初夜が待っていました
扇 レンナ
恋愛
旧題:宿敵だと思っていた男に溺愛されて、毎日のように求められているんですが!?
*こちらは【明石 唯加】名義のアカウントで掲載していたものです。書籍化にあたり、こちらに転載しております。また、こちらのアカウントに転載することに関しては担当編集さまから許可をいただいておりますので、問題ありません。
――
ウィテカー王国の西の辺境を守る二つの伯爵家、コナハン家とフォレスター家は長年に渡りいがみ合ってきた。
そんな現状に焦りを抱いた王家は、二つの伯爵家に和解を求め、王命での結婚を命じる。
その結果、フォレスター伯爵家の長女メアリーはコナハン伯爵家に嫁入りすることが決まった。
結婚相手はコナハン家の長男シリル。クールに見える外見と辺境騎士団の次期団長という肩書きから女性人気がとても高い男性。
が、メアリーはそんなシリルが実は大嫌い。
彼はクールなのではなく、大層傲慢なだけ。それを知っているからだ。
しかし、王命には逆らえない。そのため、メアリーは渋々シリルの元に嫁ぐことに。
どうせ愛し愛されるような素敵な関係にはなれるわけがない。
そう考えるメアリーを他所に、シリルは初夜からメアリーを強く求めてくる。
――もしかして、これは嫌がらせ?
メアリーはシリルの態度をそう受け取り、頑なに彼を拒絶しようとするが――……。
「誰がお前に嫌がらせなんかするかよ」
どうやら、彼には全く別の思惑があるらしく……?
*WEB版表紙イラストはみどりのバクさまに有償にて描いていただいたものです。転載等は禁止です。
イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?
すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。
翔馬「俺、チャーハン。」
宏斗「俺もー。」
航平「俺、から揚げつけてー。」
優弥「俺はスープ付き。」
みんなガタイがよく、男前。
ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」
慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。
終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。
ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」
保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。
私は子供と一緒に・・・暮らしてる。
ーーーーーーーーーーーーーーーー
翔馬「おいおい嘘だろ?」
宏斗「子供・・・いたんだ・・。」
航平「いくつん時の子だよ・・・・。」
優弥「マジか・・・。」
消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。
太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。
「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」
「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」
※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。
※感想やコメントは受け付けることができません。
メンタルが薄氷なもので・・・すみません。
言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。
楽しんでいただけたら嬉しく思います。
「後宮の棘」R18のお話
香月みまり
恋愛
『「後宮の棘」〜行き遅れ姫の嫁入り〜』
のR18のみのお話を格納したページになります。
本編は作品一覧からご覧ください。
とりあえず、ジレジレストレスから解放された作者が開放感と衝動で書いてます。
普段に比べて糖度は高くなる、、、ハズ?
暖かい気持ちで読んでいただけたら幸いです。
R18作品のため、自己責任でお願いいたします。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる