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遺跡探索と雪解けの春

 三大公爵家と嫌われているリリアンナ 2

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 私がまともに見知っているのは、フィオルド様ぐらいだ。
 フィオルド様の婚約者としてはよくないことだと思うけれど、お勉強やマナーなどは努力でどうにかなるのだけれど、どうにもならないものもある。

 ドロレスに相談したら「高貴な身分の方というのは下々の情報に詳しくなくて良いのですよ、お嬢様。だから、気にしない、気にしない」と励ましてくれた。

 単純な私はドロレスがそういうなら、まぁ良いか、と思っていた。

 なので実際にはそんなに深い悩みでもない。そんなことよりも不機嫌なフィオルド様と顔を合わせることの方が、私にとっては一大事だったからだ。

「私は、お前の顔立ちは、愛らしいと思っている」

「あ、悪女みたい、ですよね……?」

「誰がそのようなことを?」

「鏡を見て、そう思ったのです。物語に出てくる、意地悪な魔女や、姉や、お妃様みたいだって」

「私は、リリィを可愛いと思っていた。……はじめてお前と会った時から」

「はじめて?」

「あぁ」

 はじめて、フィオルド様と会ったのは、いつだったかしら。

 思い出そうとすると、胸がずきりと痛んだ。

 よく覚えていない。あれは、セフィール家の庭園だったかしら。美しい花が、庭園には咲き乱れていて、その中に佇む幼いフィオルド様は、まるで翼ある人がこの世界に戻ってきたかのように、綺麗だった。

 それで、私は……。

「それに、リリィ。それを言うなら私も同じだ。皆は私のことを、氷のように冷酷な男だと言っている。私の顔立ちが恐ろしいからだろう」

「そんなことないです、フィオルド様は、とても綺麗で、素敵で……!」

「……お前が私の顔立ちを好きだと言ってくれるのなら、それで良い。他の人間にどう思われようが、興味はない。リリィ、私はお前の全てが可愛いと思っている。お前への悪意の理由はわからないが、このまま放置するようなことはしない」

「はい……」

「本当は、状況が落ち着くまでは部屋に閉じ込めていたいのだが」

「フィオルド様、私……」

 どうして私のことを悪く言っている人たちがいるのかはよくわからないし、もしかしたら私の顔立ちが怖いせいで傷ついた人たちがいたのかもしれない。

 けれど、今まで自分の置かれている状況に全く気づいていなかった私にも責任はあると思うの。

 私も、もう少ししっかりしないといけない。
 フィオルド様の婚約者として、フィオルド様に頼るばかりではなくて、自分でどうにかしないといけない。

 だって私は、フィオルド様のことが好きで、ずっと婚約者でいたくて。
 それはいずれは皇妃になるということで。

 おどおどしたまま、逃げてばかりいるのでは、その立場に相応しいとはいえない。
 私の態度に原因があるとしたら、私も、少しは頑張らないと。

 今の私は一人じゃない。

 フィオルド様が私を愛してくださっている。
 そう思うと、何が起こっても大丈夫だと思える気がした。

「大丈夫です、私も、……三大公爵家にうまれたものの一人。リリアンナ・セフィールです。……だから」

「あぁ、わかった。本当は鎖で繋いででも、お前を閉じ込めておきたい。……だが、そういうわけにもいかないな。リリィ、……お前について虚偽の噂を流していたのは、同じ三大公爵家のバレンタイナ家と、レランディア家の者たちだ。お前と同学年に、アニス・レランディアがいるだろう」

「私、同じ公爵家の方々から嫌われていたのですか……?」

 セントマリア皇国には、セフィール家の他に公爵家が二家ある。

 どちらも皇家の血を繋ぐための、セントマリア皇家からの分家だ。

 セフィール家と立場は同じで、公爵家というのはセントマリア皇家に次いで地位が高い。
 その二つの家が私の悪い噂を流していたとしたら、誰も否定はしないだろうし、そもそも疑うことさえしないだろう。

 それぐらい、公爵家の立場というのはこの国では大きいのだ。

「アニスとは、話をしてみるつもりだ。……アニスたちはただ虚偽の噂を流しただけで、騙された私が全て悪い。どのような罪に問えるのかは分からないが、理由は知っておくべきだろう」

「アニスが……」

 アニス・レランディアとは挨拶を数度交わしたことがあるけれど、個人的に話したことは一度もない。

 もしかして初対面で睨みつけてしまって(睨みつけてはいないのだけれど)、高慢で嫌な女だと思われたのかしら。

 同じ教室にいるけれど、話しかけられたこともなければ、話しかけたこともないのに。

 フィオルド様に、私の悪口を陰で言うぐらいに、私のことを嫌っているのね。

 やっぱり、顔が怖いからかしら。
 人見知りで口下手で顔が怖いというのは、よくないわよね。

 生きているだけで敵を作ってしまうのだもの。

 これからはできるだけにこやかに生きよう。そうすればきっと、誤解も解けると、良いのだけれど。

「何かあったら、私にすぐ知らせろ。……リリィ、大丈夫だろうか」

「心配してくださって、ありがとうございます。私も、少しは頑張ってみます。フィオルド様の婚約者として、相応しい私でいられるように」

 私はできるだけにこやかに微笑んだ。

 悪女顔の私が微笑むと悪巧みしている感じになってしまわないか不安だけれど、不機嫌そうに見えるよりは良いはずよね。

 フィオルド様も優しく微笑んで、私を撫でてくださった。

 それから、制服に着替えた私を上から下までじっくり眺めて「制服もよく似合っているな、リリィ。つい、乱したくなる」などとスカートの下の大腿を弄りながら言った。

 そのせいで登校が始業のぎりぎりになってしまったし、教室までフィオルド様が送ってくれたので、他の生徒の方々が驚いたような顔で私を見ていた。

 もしかして部屋を出る直前までいちゃいちゃしていたのがばれてしまったのかしらと思うと、どうにも授業に身が入らずに、心や体を落ち着かせるのに必死だったので、すっかりアニスのことなんて忘れてしまっていた。



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