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遺跡探索と雪解けの春

リリアンナ、朝食の途中で食べられる 1

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 フィオルド様は長い指でもう一つぶ苺を摘まんで、私の唇にあてる。
 薄く唇を開くと、苺の尖った部分が私の唇をなぞった。

 それから口の中に押し込むようにされる。

 大き目の苺で口の中がいっぱいになる。どうしたら良いのか分からずに一口噛むと、口腔内に果汁があふれた。甘酸っぱい果汁をこくりと飲み込む。

 飲み込み切れない果汁が、口の端からあふれてこぼれてしまう。

 私はこれでも一応、食事中のマナーなどはきちんとしつけられてきた。

 手づかみで果物を食べることなんてしないし、口いっぱいに食べ物を入れることもない。まして、口の端からこぼしてしまうなんて、無作法にもほどがある。

 あわてて口を拭おうとしたけれど、フィオルド様が私を抱きしめるようにしているせいで、腕を動かすことができない。

 どうしよう、恥ずかしい。

 はしたない姿を見せてしまったことを謝りたいのだけれど、口の中がいっぱいなせいで言葉を話すこともできない。

 むぐむぐと口を動かしている私を、フィオルド様のサファイアのような瞳が穴が開くぐらいに見つめている。
 それから苺の果汁が垂れている私の口角を、ぺろりと舐めた。

「っ、ふぁ……っ」

 恥ずかしくて、頬が紅潮する。
 涙の膜が張った視界に、フィオルド様の薄く色づいた唇がうつる。

「果物なら、食べられるかリリィ」

 果汁で濡れた私の唇を、フィオルド様の指の腹が撫でる。

 言葉を紡ぐことができなくて小さく頷くと、今度は一口大に切ったオレンジを口の中に入れられる。
 苺よりもオレンジは果汁が多い。

 でも小ぶりなので、今度は零さずにすみそう。

 ほっとしながら果肉を噛むと、爽やかな酸味と甘さが舌の上にあふれる。

 フィオルド様はどういうわけか、まだオレンジを飲み込めていない私の口に、もう一切れオレンジを押し込んでくる。
 混乱しながら、けれど拒否するわけにもいかずに私はそれを受け入れた。

 また口がいっぱいになってしまって、あふれた果汁を一生懸命飲み込むけれど、口からこぼれそうになってしまう。

「リリィ、美味しい?」

「ん……」

 こくこくと、私は頷いた。
 口がいっぱいで、やっぱり話すことができない。

「私も味わいたいが、良いか」

 フィオルド様も果物が食べたいのかしら。

 私が食べさせるという意味なのかしら。

 もしかして、もしかしなくても、今私は男性の膝の上に座って、お食事を食べさせてもらっているのかしら。

 そして、私からもということはつまり「旦那様、はい、あーん」という新婚夫婦の理想のような行為をしているのではないかしら……!

 それにしてもなんというか、どことなく淫靡さを感じる。

 気のせいよね、だってご飯が終わるまで、何もしないというようなことをフィオルド様は言っていたのだし。

「……リリィ、口を開けろ」

「っ、ふ、ぇ……?」

 口の中がオレンジでいっぱいなのに、口を開けるとかできないわよね。
 フィオルド様は何を言うのかと、私は目を見開いてフィオルド様の美しい顔を見つめた。

 おもむろに、指が私の唇を辿り、唇を割るようにしてさしいれられる。
 抵抗する間もなく私の唇は開かれて、唾液と果汁の混じったものが口角からたらりと滴った。

「……っ」

 咀嚼している途中のオレンジが残る口の中を見られているとか、こんなに恥ずかしいことはない。
 けれど口を閉じたくても、フィオルド様の指が中に入っているせいでそれもできない。

 だって、万が一にでも指を噛んでしまったら困るもの。

 でも――こんなの、裸を見られるよりも恥ずかしい。

 あまりの羞恥から、涙が頬を伝いおちていく。

「あぁ、リリィ。赤く瑞々しくて、愛らしい小さな舌だ。本当に、美味しそうだな」

 オレンジの話をしているのかと思っていたのに。
 私もフィオルド様に食べさせるのかしらなんて思っていたのに。

 美味しそうなのは、私――。

 気づいてしまうともう駄目だ。
 さきほど淫らに高められたばかりの体が、再び熱を持ちはじめてしまう。

 フィオルド様の唇が私の唇に重なった。


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