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遺跡探索と雪解けの春
二度目の救出 1
しおりを挟むスライムから救出してもらった私は、やっと落ち着いて考えることができるようになった。
そうすると、ドロドロに溶かされて食べられてしまっていたかもしれないという恐怖が、足元から競り上がってくる。
フィオルド様が異変に気付いて助けに戻ってきてくれなかったら、きっと今頃溶けて消えていただろう。
「……っ」
体が勝手に震える。
私は自分の体を抱きしめて、うつむいた。スライムも怖かったけれど、怒っているフィオルド様も怖い。
フィオルド様が、「大丈夫だったか、リリアンナ」と言って、優しく抱き上げてくれるような優しい婚約者だったら良かったのに。
私だってスライムに襲われたくて襲われたわけじゃないし、情けない姿を見せたくて見せたわけじゃない。だから、そんなに怒らないで欲しいのに。
怖かったし、なんだかちょっと気持ち良くなったのもよく分からないし、フィオルド様は怖いし。
ぽろぽろと涙が溢れてくるのを、私はごしごしと拭った。
「……リリアンナ、何が起こった?」
「っ、わか、りませ……ん」
冷たい声音が、冷静に状況を訪ねてくる。
私はふるふると首を振った。
突然スライムに襲われたことぐらいしか私にはわからない。
フィオルド様はため息をつくと、私に手を差し伸べてくれる。
私はその手を取ろうとして、ためらった。だって、私は今、全身スライムまみれのぬるぬるなのよね。
フィオルド様の手もぬるぬるさせてしまうのは申し訳ない。
ちゃんと言うのよ、リリアンナ。
フィオルド様をスライムの粘液で汚してしまうのが申し訳ないって、ちゃんと説明するの。
「……フィオ、……さま……っ、わた……」
これっぽっちも言葉にならない。
情けなくて悲しくて、新しい涙がじわりとにじんでくる。
普段はとっても我慢しているけれど、私は気も弱ければ涙腺も弱い。一度泣き始めると、もう駄目なのよ。
フィオルド様は私の目の前に膝をついて私と視線を合わせて、私の頬に片手で触れた。
「浄化の光よ」
ふわりとあたたかい風に全身が包まれた気がした。
途端に私の体のぬるぬるが綺麗さっぱり消え失せる。
結わないとふわふわして落ち着かない金の髪も、制服も、全部べとべとしていたのに、綺麗になった。
「怪我はないのか? どこか、痛いところは?」
「大丈夫、です、多分……」
少しだけ、体がじんじんして熱い気がするけれど、多分気のせいよね。
フィオルド様にこんなに優しくしていただいたのは初めてだ。
嫌いな私にも有事の際には優しくできるなんて、やっぱりフィオルド様は皇子様なのね。
胸の奥がキュンと疼くのを、私は勘違いしてはいけないと自分に言い聞かせる。
フィオルド様が優しいのは、私がスライムまみれで泣いている哀れな女だからだ。
ただ、それだけ。
「リリアンナ、服をなおせ。お前がスライムにも勝てないことは理解した。あまり、私から離れるな」
「……ごめんなさい」
「これは校外学習。上級生は下級生を守る義務がある。謝る必要はない」
こくんと、私は頷いた。
そうなのよ。これは、授業。
だから期待してはいけないし、勘違いしてもいけない。
私は乱れた服を、なんとかなおした。思いっきり胸が見えていたわね。
ものすごく恥ずかしい。泣きたい。もう泣いているけれど。
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