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遺跡探索と雪解けの春
序章2
しおりを挟む現在私は、フィオルド様の側近の方に呼びつけられて、魔道学園内にある皇太子殿下専用の貴賓室へと連れてこられている。
庶民の暮らしを知ることを目的として、赤貧を重んじている魔道学園内にあるとは思えないぐらいの、煌びやかで広くよく整えられている部屋だ。
フィオルド様はこの部屋にいることが多い。
皇太子殿下なので、色々と公務などがあるのだろう。良く知らない。親しくないし。婚約者だけど。
豪奢な椅子に優雅に座るフィオルド様の前で、私は身を固くしながら、こくこくと頷いた。
内心冷や汗がすごいのだけれど、外見はたぶんそうでもない。
身を固くすると、表情筋も硬くなるのだ。
私の傍付き侍女のドロレスは良く「お嬢様は内面と外見が正反対ですよねぇ、あせればあせるほど、表情筋が死んで怒っているように見えるんですから」と言われる。
それはそのとおりで、だから多分今の私、ものすごく不機嫌そうに見えると思う。
フィオルド様がつい今しがた人を殺してきました? といった風情だとしたら、私ときたら、世界が三回ぐらい滅亡しました? といったぐらいの不機嫌な表情に見えるだろう。
でも、それは世を忍ぶ仮の私だ。なんというか、私は生意気そうで気の強そうな見た目に反して、うまれつきメンタルが非常に弱いのである。
三つ子の魂百までとはよく言ったもので、いえ、違うかしら。
二十五過ぎたら人間そう変われない、だったかしら。
ともかく、私はうまれつき気が弱くて、現在進行形で気が弱い。
いつか強くなるかしらと期待していたのだけれど、そのいつかは今のところ訪れていない。
人と話すのは苦手だし、大勢の人の前に出るのもとても苦手だ。
できれば一日中お布団の中に入って、ごろごろだらだらしていたい。
私は次期皇帝となるフィオルド様の婚約者にして、セフィール公爵家の一人娘なので、そんなことはできないのだけれど。
そんなことで王妃が務まるのかって、誰もが思うでしょうね。
私もそう思う。
本当に。ええ、本当に。
「聞いているのか、リリアンナ」
厳しい声でフィオルド様に言われて、私は再び頷いた。
婚約者であり皇太子殿下であるフィオルド様に話しかけられて、声も出さないなんてなんて不敬なのかしらと、自分でも思うわよ。
でも、出ないのだ。
はい、とか、いいえとか、言いたいのに、言葉は喉の奥から出てこない。
もう、怖い。フィオルド様と同じ空間に居るのが怖い。だって、多分、嫌われているもの。
今すぐ公爵家に帰りたい。ドロレスに泣きつきたい。よしよしして欲しい。
「此度の校外学習は、上級生との合同訓練となる。私と共に遺跡に向かうのは、お前だ」
教師が要らぬ配慮をしたらしいと、フィオルド様は嘆息した。
私は目の前が真っ暗になるのを感じた。
フィオルド様と二人きりで遺跡を踏破するとか――地獄なのではないかしら。
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