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相原三月(あいはらみつき)
しおりを挟む箱状の謎の乗り物(電車という)にぎゅうぎゅうづめになりながら、私は三駅先の芙蓉光原大学前駅で降りた。
朝からうんざりも良いところだ。
あんな箱状の芋虫みたいな乗り物に、大人も子供もぎゅうぎゅう詰めになって乗るなんて、どうかしているとしか思えない。
ただでさえこの体は暑いのに。私だけで普通の人の三人分ぐらいスペースを取ってしまっている気がして、それについては非常に申し訳ない気持ちになるわね。
つまり私が痩せれば三人分のスペースがあくということ。
きっと通学も快適になるはずよね。
ひいひいしている私をよそに、サリエルは涼しい顔をしていた。
サリエルも私の隣にいたのだけれど、あまり狭苦しさは感じていないようだった。というか、体が半分ぐらい透けているような気もしないでもなかった。便利ね、天使って。
「シャーロット、今日は学園まで君を送るが、毎日というわけではない。俺は擬態して学園に潜り込むつもりでいるので、そうすると俺には俺の生活というものができてしまう。君にばかりかまけていられなくなるかもしれない」
私の隣を歩きながら、サリエルが言う。
「……あなた、私の付き人じゃなかったの、サリー。もしかして、地上生活を満喫しようとしているのかしら」
「そういうわけではない。全て君と、果林のためだ」
「これっぽっちも嬉しくないわ。全くもってときめかないわ」
私は肩をすくめた。
学園までは駅から歩いて二十分ほど。同じような制服をきた若い男女が、同じ方角に向かっている。
他の制服を着た方々もいるので、いくつか学園があるのだろう。
辿り着くまでに割と満身創痍になりながら、私はそれなりに立派な門構の、校門までたどり着いた。
歩くだけで息切れする体を持ってしまったのだ、シャワーを浴びるだけで疲れるのだから、歩くだけでも当然疲れるのよ。
今すぐ寝たいと思ってしまうわね。
早く痩せて、それから、お金を稼ぐ方法も模索しないといけない。
「君の教室は、一年二組。席の場所は、果林の記憶が覚えているだろう。くれぐれも、問題を起こさないように」
「はいはい」
「俺はいつでも君を見張れる立場を手に入れることにする。何かあったら君を守護するのも俺の役目だ。だから、安心しておくと良い」
「別に心配はしていないし、サリーがいてもいなくても私は問題ないわよ」
「そういうところが可愛げがないと思わないのか?」
「可愛げを求めるなら他の女にしてちょうだい。私を誰だと思っているの?」
「シャーロット・ロストワン。気位が高く高慢で、驕り高ぶった、自分本位な公爵令嬢」
「よくわかっているじゃない」
私は満足気に頷いた。
可愛いという言葉なんて私には相応しくないのよ。
校門でサリエルとは別れた。
別れたというか、サリエルの姿は一瞬のうちに消えてしまって、私は一人ぽつんと校門の前に取り残された。
とはいえ、他の方々にはサリエルの姿は見えていないかもしれないので、最初から一人でぽつんとたちすくんでいるように見えていたかもしれない。
まぁ、どうでも良いことよね。
他人が私をどう思おうが、そんなことは私には関係ない。
私にとって大切なのは、自分がどう生きているか。それだけなのだから。
校門から下駄箱のある玄関を抜けて、一年生の教室へと入る。
ちらほらと他のクラスメイトたちの姿があるけれど、特に挨拶をされないので、私も挨拶をかえさなかった。
自分の席に座って、特にやることもないので今日の予定の確認と、教科書などをパラパラと眺める。
シャーロットとして生活していた頃の私はかなり優秀だったのだけれど、教科書の内容はあまり頭に入ってこなかった。
ただ教室の自分の席に座っているだけだというのに、妙な息苦しさを感じる。
「今日は来てるじゃん、白沢さん。ずっと学校にこないから、死んだかと思った」
話しかけられて顔を上げると、そこにはどことなく派手な顔立ちをした女生徒が立っていた。
ーーアイハラミツキ。
私は、果林は、彼女を知っている。
色の抜けたような茶色い髪に、鳶色の瞳。顔立ちは愛らしい方なのだろう。スタイルも良い。
そうね、思い出したわ。
相原三月に、果林は中学生の頃からずっと敵視されていた。
派手な三月が地味な(けれどある意味目立つ)果林を攻撃する理由はよく分からない。
水槽の観賞魚だって弱い個体を集団で攻撃するものだし、その程度のものなのかもしれない。
「おはようございます、相原さん」
私はにこやかに挨拶をしてみた。相原さんと特に話すことはないのだけれど、せっかく話しかけてくれたのだから、何か返してあげるのが道理というものだろう。
「なにそれ、キモ」
肝?
予鈴の鐘の音とともに、相原さんは自分の席へと戻っていった。
他の女生徒たちが相原さんの席の周りに集まり、けたたましい笑い声をあげていた。
朝から元気ね。元気というのは良いことね。
箸が転がっても面白いお年頃というのはあるものだ。今の彼女たちはまさしくそれなのだろう。
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