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カレルさんの秘密
しおりを挟む感情の乱れと共に、魔力の制御がうまくいかなくなって暴走させてしまうといのは全くない話ではない。
けれどそれは大概の場合幼い子供のころに起こる。
とはいえ子供の時に暴走させるほどに魔力を多く持っている人は少ない。
魔力とは大概の場合成長するにつれて保有量が増えていくもので、だからこそ私たちは十六歳で魔道学園に入学して魔力制御の方法と、使用方法を学んでいるのである。
この年になれば、魔力を暴走させるほどに感情を乱すようなことはまずない。
精神的に成熟してきているし、よほどのことがなければそんなことは起こり得ないからだ。
――クロヴィス様に番が現れた。
それで、こんなに感情を乱してしまうだなんて。
「雨……、雨が、降っただけで、すんだんでしょうか。私、気付かないうちになにか、酷いことをしてしまったのではないでしょうか」
恐ろしい可能性を考えてしまい、体が震える。
カレルさんは大丈夫だというように微笑んでくれた。
「心配ないと思う。ただ、雨が降っただけだよ。俺はたまたまリラちゃんの魔力枯渇に気づいてそう思っただけで、他の人たちにとっては、ただの自然現象にしかすぎないと思う」
「……そうだと、良いんですが」
「暴走したのが水魔法で良かったね。これが炎や、氷や……、物質破壊魔法だったら、もっと酷いことになったと思う」
「……ごめんなさい。自分が、情けないです」
「あまり気にしなくて良いよ。別にリラちゃんをせめたかったわけじゃないんだ。ただ、魔力枯渇のせいで、動くのが大変な状態だって伝えたかっただけで。起き上がっても、ふらふらで倒れちゃうから、もう少し寝ていて」
「はい……、カレルさん、魔法に詳しいんですね」
「うん。秘密だよ」
カレルさんは、口元に指先をあてて悪戯っぽく笑った。
「実を言えば、俺にも結構魔力があるんだ。でも、魔道学園に行くと、貴族と結婚したりとか、魔導士になったりとかしなくちゃいけないでしょう。だから両親に我儘を言って、魔力持ちであることは隠しているんだ。料理の仕事したかったし。貴族ばかりいる学園に通うとか、面倒だなって思って」
「……カレルさん、魔法が使えるんですね」
「うん。使えるからって、何かの役に立つわけじゃないし、隠しているからね。滅多に使ったりはしないけど」
カレルさんはそこで一度言葉を区切って、「それで」と小さな声でつづけた。
「リラちゃん、何かあったの? 魔力が暴走しちゃうぐらいに、つらいことがあった?」
「……口に出すと、自分が嫌になるぐらい、情けないんですけれど……」
「なんでも良いから話してごらん。リラちゃんにあったことや、思ったことや、嫌だったこと。俺は年上だからね、頼って良いんだよ。こういうときは、特にね」
「カレルさん。ありがとうございます……」
私はどこから話そうかと一度目を閉じて、それからカレルさんを見上げた。
それから、自分の状態を思い出して、眉根を寄せる。
「あの……、服、なにか貸して頂けると、嬉しいんですけれど」
「あ。……いや、あの、ごめんね……! あんまり濡れていたものだから、とりあえず脱がせて、タオルで拭いたんだけれど、極力、見ていないから。安心して。本当に、極力見ていないし。エンバート家には妹たちもたくさんいるし、フィオルなんかは良く下着姿でうろうろしているから、見慣れている……、いや、これは失礼だよね。フィオルとリラちゃんは違うよね。ごめん」
先程まで余裕のある大人の男性だったカレルさんは、私の言葉に明らかに狼狽した。
それから慌てて立ち上がり、テーブルの角やら扉に体をぶつけながら、部屋を出ていった。
少しあって、大き目な男物のシャツを持ってきてくれた。
「こんなものしかないんだけれど……、良いかな」
「ありがとうございます」
私はカレルさんから渡された黒い長袖の洋服を着た。
カレルさんの服だろう。頭からすっぽりかぶると、裾が膝までを隠した。両手が出ないぐらいに袖も長かった。
ずっと裸で話をするというのも落ち着かなかったので、服を着ることができた私はベッドサイドに座った。
カレルさんは私が着替える間部屋の外に出ていて、着替え終わった頃に、大き目のマグカップを持って戻ってきた。
マグカップの中には甘い香りのするココアが並々とそそがれていた。
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