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校外学習は山の中
しおりを挟む貴族が使える魔法というのは、大きく三種類に大別できる。
物質操作系と、物質形成系、物質破壊系の三種類である。
物質操作系とはその名の通り、その辺にあるものを操る力だ。王妃様が使っていた魔法もこれに含まれていて、熟練すると魔法で作り出した目視できない空間を通して遠くにあるものを収納したり、取り出したりできる。
物質形成系とは、無から有を作り出す魔法である。
広く魔法として知られているのが、これだ。炎や水や氷などを生み出したり、草木を生やしたりすることができる。
物質破壊系というのは強力ではあるがあまり使い道のない魔法である。
物質を内側から破壊する魔法で、戦闘に使用するのはもちろんのこと、地形を変えることもできる。
三種類の中では一番危険な魔法であるため、その魔法の使用者は、魔道学園による指導と管理が最も必要だとされている。
私が使えるのは、一番一般的な物質形成魔法である。
物質形成魔法といっても個人差がある。私が得意なのは水魔法だ。それ以外はうまく使用できない。
ミレニアは氷魔法が得意で、フィオルは物質操作系と、物質形成系、二つの魔法が使える。
エンバート家は優秀な魔導士が多いと言われているようだけれど、フィオルもその一人であるようだ。
物質操作系魔法によって、エンバート商会の荷物運びの手伝いを昔からしていて、物質形成系魔法においては、炎や氷、風魔法と、三種類の魔法が使えるので、護衛の役目もしているのだと教えてくれた。
フィオルが休日はいつもエンバート商会の手伝いで忙しいのは、そのためなのだという。
魔道学園に入学してからは、魔法の基礎や、それ以外にも読み書きや計算、歴史などを学ぶ座学が多かった。
基礎実技の訓練に入ったのは、夏季休暇を終えて秋も深まり、冬の手前に差し掛かるころだった。
クロヴィス様は相変わらずで、私はクロヴィス様の顔を毎朝見ることにも、昼休憩を一緒に過ごすことにもすっかり慣れてしまっていた。
王妃様から話を聞いて、クロヴィス様の態度に納得できた、ということもある。
先のことはどうなるのか分からないけれど、クロヴィス様が満足するまで、付き合ってあげようと思っていた。
そうして冬になり、冬季休暇の前に校外学習が行われることとなった。
「どうして真冬に、山の中を散策しなければいけないのでしょうか……、できれば春とか、秋が良かったですわ」
制服の首に大きなマフラーを巻いて、ミレニアが寒さに震えながら言った。
校外学習の場所は、王都の外れにある小高い山である。山頂には先生が待っていて、山頂に辿り着いて証明書を貰うのが今回の学習の目標だ。
山にはあまり強くない魔獣が放たれていて、それを各々が学んで制御できるようになっている魔法で倒して山頂に辿り着くようにと説明を受けている。
要は、基礎魔法の訓練成果の確認のための実習である。
山道はいくつかにわかれている。私はフィオルとミレニアと共に、山頂に向かって歩いていた。
背の高い木々や草むらはあるものの、山道は広く整備されている。ちょっとしたお散歩ぐらいの道のりのように思えた。
「それは私も思うわ。寒い中山歩きとか、貴族の学園なのに結構厳しいのね」
フィオルの吐く息も白い。
不安そうなミレニアに比べて、フィオルはいつも通りの様子だ。エンバート商会の護衛として働いているフィオルにとって、この程度の校外学習などはたいしたことがないのだろう。
「一応、学園の中では身分を忘れて、ただの生徒として過ごすように、という方針になっているからね。寒さまで配慮してくれたりはしないのよ、多分」
私は腕をさすりながら言った。
雪こそふっていないけれど、山の中はむき出しの肌に冷気が突き刺さるぐらいに寒かった。
ミレニアが片方の腕にくっついてくるので、ふんわりとした胸が腕に当たる。そこだけは暖かかった。
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