半獣王子とツンデ令嬢

束原ミヤコ

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漠然とした番システム

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 午前の授業を終えた頃には、ミレニアとフィオルはすっかり打ち解けたようだった。
 最初の印象は良くなかったようだけれど、ミレニアは素直で良い子だし、フィオルは勝ち気で良い子なのだ。
 大人しいミレニアはもう一人友人ができたことを喜び、世話焼きなフィオルはミレニアのことも自分が守るべき友達の一人として認定してくれたようだった。
 昼休憩の時間となった私たちは、食堂に向かおうとして席を立った。
 そして、そういえば私はクロヴィス様に教室で待機するように言われていることを思い出した。
 一瞬忘れたふりをしようかとも思ったけれど、校舎中を血眼になって捜索されたらたまったものではない。
 足を止めた私を二人は不思議そうに見つめた。

「リラ。ご飯、食べに行かないの?」

「リラ様、お食事の時間ですわ。食堂の場所、覚えられるか不安ですの。みんなでいきましょう。みんなで……とても、良い言葉ですわ」

 訝しげにフィオルが言い、嬉しそうにミレニアが言う。
 私は申し訳ないと思いながら、事情を説明することにした。

「クロヴィス様が、昼休憩を一緒にと言って。教室で待たなければいけないのよ」

「まぁ! 殿下は本当にリラ様を愛しておりますのね」

 ミレニアは両手を胸の前でくんだ。夢見る乙女のようなポーズである。とても似合う。
 つつきまわしたい欲が刺激されるわね。

「昨日の入学式の私のリラに触れるな宣言も凄かったもんね。私には婚約者がいないけど、貴族の婚約者ってみんなあんな感じなの? それとも、王子様だから特別なの?」

「殿下は特別なのだと思いますわ。あのような堂々とした立ち振る舞い、殿下だから許されることですわ。私の婚約者のシグ様は、私を愛してくれておりますけれど、殿下のようにはなさりませんのよ。あれは殿下であればこそ。そして、それ程リラ様が魅力的だということです」

 やや呆れたように言うフィオルに、ミレニアが真剣な表情で語った。
 ミレニアには悪意なんて微塵もないのだけれど、背中がむず痒い。
 フィオルは納得したように頷いて、「リラは可愛いから、心配になる気持ちは分かるわね」と言った。

「違うわよ。違うのよ。大きな勘違いなのよ」

 私は説明することにした。クロヴィス様には特に隠すようになどと言われていない。
 隠しても皆に説明しても状況が変わるわけではないのだから、だったら説明するべきだろう。
 これ以上クロヴィス様がご乱心して、あらぬ誤解を受けるのは遠慮したい。

「クロヴィス様は、運命の番とやらが現れることを心配してるのよ」

「殿下の運命の番は、リラ様なのでは?」

 ミレニアが目をまん丸くして私を見た。
 そうだとしたら万事解決なのだけれど、それがどうやら違うらしいのよね。
 あれほど私のことを好きだとか言っておきながら、私が運命の番じゃないとか、どういうことなのよ。
 改めて考えるとちょっとムカつくわね。

「私の運命の番はリラ様ですけどぉ」

 ミレニアは実はクロヴィス様のこととかどうでも良いのかもしれない。もじもじしながら番アピールしてくるので、とりあえず耳の付け根をきゅうきゅうしてあげた。嬉しそうだった。

「番っていうのは、どういう基準でなるものなの? なんだか漠然としすぎていない? 知り合いに半獣族のかたが少なくてあまりよく知らないのよね、私」

 フィオルが疑問を口にする。
 この午前中で、ミレニアとも砕けた口調で話すようになったフィオルである。
 ミレニアはミレニアなので、親しげにされて耳をパタパタさせながら喜んでいた。完全に懐いたようだ。わかりやすい。

「番っていう概念自体が古めかしいものなんですけれど」

 ミレニアはぷっくりとした唇に指をあてながら言った。

「その方の持つ香りとか、雰囲気とか、純粋に好き! と思えばそれはもう番ですわ。全身にぞわぞわ、鳥肌が立つ感じですのよ。心臓を弓矢で射抜かれる、とでももうしましょうか」

「それなら、殿下の番はリラってことになるじゃない」

「よくわからないけど、それがそうでもないらしいのよ」

 本当に、よく分からないのだけど。
 


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